皇太子の結婚式
アストラル皇国の後継者であるレオニス皇太子とルーナ公女の結婚式には、
全ての国の国王夫妻が参加した。
そのうえ結婚式を司ったのはミゼラブル法王であった。
残念ながらルーナの両親、蒼天の王と妻リゼリアは不参加だ。
精霊界に居を移したのもあるが、今彼らは次代の龍を産むのに忙しい。
なぜなら龍の子供が産まれるためには、およそ100年の歳月をかけて
両親が魔力を注ぎ続けなければならないからだ。
龍の出産期に入った龍は下界に一切かかわらない。
それを教えて下さったのは古龍シュバルツ様。
なんとシュバルツ様とその番のオフェリア様は
ルーナの両親の代わりに結婚式に出席してくださったのだ。
頑ななほど、妻を人目にさらさなかったというのに。
オフェリア様は
「私とシュバルツ。そしてクラウスの命の恩人なのですから、
これくらいは当然ですよ」
と言ってくださり、そのうえとても珍しいブラックダイヤモンドで作った
イヤリングを、レオニスと私に、お揃いでくださった。
龍の守りを付与して下さったらしいけれど、効果については内緒だそうだ。
ありがたくも恐ろしいお守りである。
プロイセン国王のレオン様とマリー王妃様も出席くださったが、
ヴァレンティノ公爵家は欠席だ。
お姉さまのリリアーヌが臨月なのだ。
リリアーヌ姉さまは、社交界の牛耳り方について
まとめた本をプレゼントしてくださった。
マリー王妃が手渡して下さったけれど、なにやらもの言いたげな様子だった。
「王妃陛下、この本に何か問題があるのでしょうか?」
「そんなことはないわ、全く問題はないのだけれど。」
そう言いながらも王妃はどこか遠い目をしている。
「わかりました。この本は本当に困った時まで封印することにします」
ルーナがそう言えばマリー王妃はほっとした顔で頷いた。
「ええ、そうして頂戴。その本が二度と日の目を見ないことを願うわ」
いったい何が書かれているのだろう?
私はその本を厳重に封印することにした。
ルーナの身内で出席してくれるのはステラお姉さまだけになった。
社交界では、それについてあげつらう人がいるかも知れないが私は平気だ。
だって皆が幸せを願っていることを私は知っているから。
結婚式のパレードも盛況のうちに幕を閉じた。
最初は悪女とか言われていたけれども、
いつの間にかルーナを受け入れてくれたようだ。
私はちょっぴり安心した。
冷たい目で見られたらどうしようと、少しは気にしていたのだから。
それどころかパレードでは、
たくさんの人々に、おめでとう!と言って貰えたのだ。
ただ、公式行事はスケジュールがとてもタイトでルーナはへとへとになった。
風呂に入って夜着に着替えさせてもらって、夫婦の寝室に入った時、
すぐにベッドに飛び込み、すやすやと眠ってしまった私は悪くないと思う。
色々思い悩んだ末に、恐る恐る夫婦の寝室に入ったレオニスが
ベッドを見れば、既にルーナは夢の中。
レオニスはぐったりしてしまった。
ルーナは幸せそうに眠っている。
なんの憂いもない様子は、本来なら喜ぶべきことだ。
ここが夫婦の寝室で、今が結婚初夜でなければ……。
起こしてしまおうか?
レオニスは最初、そう考えた。
自分としては今夜をいかに過ごすかとても悩んだのだ。
学院を卒業するまでは手を出さないと誓っている。
そうは言っても初夜なのだから、
そのうえ一緒に寝ることもできるのだから
今夜はゆっくりとお喋りしたい。
夫婦となった記念の夜。プレゼントも用意している。
でも、
ルーナの寝顔を見ていてレオニスは、彼女がとても無理をしていたと気づいた。
まだまだ子供時代を楽しんでも良い年代。
ルーナは皇太子妃としての役割を果たしてくれている。
自分だって子供でいることが許される立場ではなかったが、
ルーナと出会って2年。
この2年間は、随分我が儘を通して来たと思う。
皇帝陛下がいらっしゃるのに、自分専用の陰を作ってしまった。
学院卒業まで待つことになっていた婚姻も早めた。
昔の自分なら考えられない暴挙だ。
皇帝陛下も皇后陛下も息子の暴走を黙って許して下さった。
今があるのは両陛下がサポートして下さったからだ。
そしてそれを許して下さったのは、ひとえにルーナのためだ。
予言の娘から予言を奪っても
ルーナの聡明さと好奇心は奪えなかった。
このおっとり娘は、これからも色々やらかすに決まっている。
レオニスは、あぁやっぱり俺はルーナがとても好きなんだなぁと思う。
最初に出会った時からそうだった。
ルーナがレオニスの思う通りに動いたことなんてなかった。
この無自覚の爆弾娘は、結局周囲を幸せにするために動くのだ。
レオニスは大きなベッドと小さなルーナを見た。
そしてきっぱりとベッドに潜り込んだ。
ルーナの側によると、少し安心した。
人の温もりはこんなに温かいのだ。
安心してレオニスはぐっすりと眠った。
翌朝ルーナの悲鳴で起こされて、
羽枕で叩かれたけれど、レオニスは怒っているルーナを
ぎゅっと抱きしめて言う。
「おはよう、ルーナ」
ルーナは失礼な奴だと怒っていたくせに
「おはよう、レオニス」
と、返す。律儀なのだルーナは。
レオニスはルーナを抱きしめたまま、そっと耳元で囁いた。
「これからは一緒に寝ようね」
ルーナは真っ赤になって、黙ってこくんと頷いた。
だからレオニスはご褒美に、ルーナをもう少し抱きしめてあげた。




