漆黒の梟と公女
お母さまは、私の人選を褒めてくださった。
「側近としてリディアとティアラを考えていたので、両名と相性が良くて安心したわ。
こればかりは相性もありますからねぇ」
「二人とも得難い人材ですわ。お母さま。
それに実務はベルベットがいますしね」
「あの子は少しソラに似たところがあるから、
時々は甘えさせてやらないといけないわよ」
「はい、お母さま。頑固そうな子ですものね」
「ルーナはリディアよりベルベットの方が扱いにくいと思うの?」
「いいえ、ベルは素直ですから扱いにくい訳ではありません。
リディアは完璧主義なので、折れないか心配ですけれど。
でも内にため込む前に言葉にできる強さがありますから、そこは安心しています。
ティアラは自信家ですから、人の意見を聞かないところがあるでしょう。
今後、問題をおこすとしたらティアラだと思います。
その為にティアラには権力の一部を譲渡しました。」
「どうして問題をおこすかも知れないのに権力を与えたの?」
「問題を起こさせないために与えたのです。
ティアラの能力は買っています。
自分で采配を振るえれば問題を起こさないと考えました」
「良く見ているわね。適材適所の配置も出来ている。
コメットは皇城への立ち入り禁止だけで済ませるつもり?
皇族に対して随分無礼な振舞いだったようだけれど」
やっぱり筒抜けだったのだわ。漆黒の梟、なんて面倒なのでしょう。
影使いってそんなに大勢いるのかしら?
「アイアンハート伯爵は優秀な事務官です。
つまらないことで優秀な人を失いたくありません。
それにアイアンハート伯爵家は、既に手を打っているのでは?」
「その通りよ。伯爵家からコメットの縁談許可申請が出されたわ。
嫁ぎ先はルーンフェル王国で学術研究をしている家だそうよ。
その申請と共に伯爵から詫び状も届いているわ」
私が眉をひそめたのでお母さまは黙ってしまった。
「影に定期的に監視させてくださいますか?コメットではなく
その夫の方を」
お母さまは、何もない天井に向かって命令した。
「聞いたわね。すぐに手配なさい」
もの音一つ聞こえなかったけれど、確かに部屋に漂う魔力が減っていた。
「ルーナ。貴方もソラと同類なのかしら?
社交に問題があるとは思えないのだけれど」
「お母さま。出来るのと、やりたくないのは別物です。
私は面倒な社交が大嫌いなんです」
「分かったわ。安心していつでも皇后を譲れそうね」
「惨い!お母さま、そんな事したら私、引きこもりますからね」
お母さまは、珍しく声をあげて笑った。
余程私が情けない顔をしていたらしい。
「いいわ。貴女が消耗しても良いことは、なさそうね。
社交はリディアに任せなさい」
「もう任せてます。お母さま。
リディアは社交が大好きですからね。」
「ええ、そしてリーナは社交嫌いね。
陰と陽 面白い主従になりそうね」
そこに私の側近が戻ってきたと連絡があった。
お母さまは喜んで彼女たちを昼食に招いてくれた。
だから彼女たちは、恐縮したけれど、とても嬉しそうだった。
私のスケジュールは全部リディアに任せている。
勿論、社交界にはほとんど出席しない方向で。
一向に姿を現さない皇太子妃の情報を求めて人々は私の側近に群がった。
それをリディアが華麗にさばいてくれる。
おかげで結婚式も間近だというのに、私も図書館に行くことが出来る。
お母さまの皇太子妃教育は、あの日だけで終了した。
お母さま曰く、ルーナに教えることは、もう何もない。そうだ。
見限られたのか?と心配した私に、お母さまはこう言った。
「ルーナ、後は経験を積むしかないわ。私の忘備録をあげる。
私の皇后生活で得た知識の全てよ。
ここに必要ならあなたの経験を付け加えていくといいわ」
私は感激してお母さまに抱きついた。
どこの誰が、こんなふうに嫁に自分の財産の全てを投げ渡すだろうか?
この忘備録は皇后の血と汗で書きとどめたものなのに。
その感動をレオニスに伝えると、またもや頭を抱えてしまった。
どうやらレオニスは結婚式まで、私を大人しくさせておくために
皇后に皇太子妃教育を頼んだらしい。
失礼しちゃう。
私は図書館に籠ってさえいれば、幸せで
全く無害の生き物なのに。
そう言うと、ブルーノが呆れたように言った。
「自分を知らないって怖いよねぇ~」
私は自分をよく知っていると思うのだが?
そんなブルーノが苦手にしているのが、リディアである。
身分的には公子と公女、差異はない。
ブルーノの方が格でいえば高いまである。
けれども完璧な公爵令嬢と評されるリディアと
元は平民のブルーノでは、ブルーノの方が分が悪い。
私のスケジュールを抑えたければ、リディアと交渉する必要がある。
私は社交は好まないが、必要であればリディアの指示に従う。
ブルーノはそれが気に喰わない。
「いいか、エリーゼは漆黒の梟の主だぞ。
結成式に参加するのは当然じゃないか」
「その日は皇后陛下主催のチャリティーコンサートです。
皇太子妃殿下が参加されなければどうなるかわかりますか?」
「たかが、音楽をきくだけだろう。
皇后陛下がいらっしゃるなら、リーナがいなくても……」
そこまで言いかけたところで、リディアが切れた。
「良くそんなお花畑で陰の総裁が務まりますね。
皇后陛下の主催なのです。
欠席すれば皇太子妃殿下との不和が噂になります」
「大体、陰が日の当たるところに出ようとする方がおかしい。
陰なら陰らしく、大人しく陰にすっこんでいなさい」
「なんだと。皇国の正式な情報機関だぞ!馬鹿にするな」
「正式であれば、人心がどう動くかも読むべきです。
チャリティーを欠席させろなど、あなたは妃殿下を孤立させたいのですか!」
完璧な淑女に叶うはずもないのに、ブルーノはちょっかいをかけては撃沈している。
いったい何をしたいのだ?ブルーノは?
私がそんな風に首を傾げていると、ティアラが教えてくれた。
ブルーノはリディアが好きなのだと。
「そんな馬鹿な!
喧嘩ばかりしているのに?」
そんな風に言えば側近の3人娘はこぞって哀れむような顔してた。
本当に!あのブルーノが!
しかも本人であるリディアまでが頷いている。
「リディア、ブルーノの気持ちがわかっているのに、
どうしてそんなにそっけないの?」
リディアはにっこり笑って答えなかった。
うん、これはブルーノの完敗だな。
私はフィクトス公爵家は、かかあ天下になると確信した。
予言の力なんて借りなくても分る。
もし娘が生まれたら、きっとその娘も女傑になるに違いない。




