皇后陛下の課題
朝食はレオニスと一緒に食べる。
朝食だけは部屋着でも許されているので、一番のんびりとできる時間だ。
「おはよう、レオニス」
「おはよう、ルーナ。今日から母上のところだな」
「ええ、何をお勉強するのかしら?」
「心配しなくても、皇子妃教育は終えているでしょう?」
「皇子妃教育なんて受けていないわ」
レオニスはちょっとだけ、目を見開いて
「毎朝、図書館で勉強していたよね?」
「皇室年表、組織図、歴史、貴族名鑑、大陸地形図、共通言語、4か国言語、王室名鑑。
とかを覚えて置くように言われました。
でも全部知っていたから授業は受けていません」
「なるほど。君は読んだら忘れない。叡智の司書だったよね」
「昨日ブルーノが言ってましたよね。なんですか?その恥ずかしい名前は」
「君のコードネームだよ。ブルーノは影の総帥だそうだ」
「ブルーノってちょっと危ない人みたいですね」
「話を戻すと、ルナが知っていることが、皇太子妃教育の、いわゆるお勉強の部分だ」
「そうじゃない部分は?」
「ルナの苦手な社交さ」
「うー。社交はむりー」
「優秀なサポート下さいな」
「それが母上だろう?」
「レオ、意地悪言わないで、社交担当の高級侍女に心当たりは?」
「だめ。少しは努力しようか」
「惨い」
撃沈してしまったルーナは、身支度を終えると皇后宮へと足を運んだ。
「いらっしゃいルーナ。待っていたのよ」
「お母さま。お待たせして申し訳ありません」
「いいえ、丁度よいところに来たわ。あなたの側近候補を呼んでいるの。
少しお話でもしていらっしゃい。
気に入った子や、またはお断りしたい人がいれば教えて欲しいの」
しょっぱなから実践教育なんだ。
つまり全員私の侍女にするつもりだから側近を選んで、問題児を排除しろってことだよね。
奥のソファーには煌びやかな衣装を纏った貴族令嬢が6人座っていた。
とりあえず最低側近を2名。
侍女は皇太子宮から連れてきてもよいから人数は考えなくてもいいと思う。
お母さまの意図に沿った人を選べればいいのだけれど。
私が近づくと全員が立ち上がって礼をした。
「皇太子妃殿下にご挨拶を申し上げます」
ちょっとビビッてしまう。
全員が綺麗なお姉さんだから。
「頭を挙げて。座ってください」
全員が着席したところで、質問をする
「皆さまは私の側近候補と聞いております。自己紹介をしてくださるかしら」
「まぁ、皇太子妃の殿下はお茶も、出してはくださらないのね」
そう、あてこすって来たのは、まばゆい金色の髪をした美しい女性だった。
「ええ、お茶をお出しするつもりはありませんわ。
リディア・フォン・エーテル公爵令嬢。
私は自分の側近を選びにきたのです。どうぞお帰りになって」
リディアはすくっと立ち上がると、深く跪いて謝罪をした。
「申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます。
私は社交方面で妃殿下のお役に立つ所存でございます。
ご再考頂けないでしょうか」
「立ちなさい。許します。自分の主を見極めたいという想いは理解します。
しかし、2度とこのような試し行動は許しません」
「感謝いたします。リゼリア皇太子妃殿下」
「私は皆様方に自己紹介をするように申しましたが、
皆様方のお名前、略歴。学院での成績 家門の状況などは既に把握しております。
ですので、言い方を変えます。
皆さま方が私の側近になったら、どのように私をサポートするつもりか?
それを述べてください。」
皆シーンとしてしまった。やりすぎたのだろうか?
しかし側近は、私にとって大事な命綱ともなる人だ。
いい加減な人選は出来ない。
その時、古代語で声がした。
古代語は学院でも学ばない、ルーンフェル王国の失われた言語ともいわれる言葉だ。
今では使う人もいない。
ただ古代魔法書は全てこの言語で書いてある。
そう言う意味では魔法使いなら必須言語ともいえる。
「何よ!馬鹿馬鹿しい。プロイセンの小娘のくせに。
どうせ皇后陛下の言葉をオウムみたいにさえずっただけよ。」
私は古代語で返事をした。
「母国だけではなく皇后陛下を貶める人を雇うつもりはありませんわ。
今後皇城への立ち入りは禁止します。
コメット・フォン・アイアンハート伯爵令嬢」
そうして控えていた護衛騎士に命令した。
「叩き出して頂戴」
騎士たちはコメットを引きずりだしてしまった。
その時ひとりの令嬢が立ち上がり、リディアと同じように跪いた。
「私は企画・運営・人材管理に才があると自負しております。
皇太子妃殿下の側仕えとして召してはいただけないでしょうか」
「貴女を私の側仕えに任じます。ティアラ・フォン・ウォーカー侯爵令嬢」
「謹んでお受けいたします」
もう立ち上がる者はいないようだ。
「ティアラとリディア。ふたりは残って下さい。
他の人は下がって下さい。ご苦労様でした」
「お待ちください」
必死な顏をした令嬢が立ち上がり、礼をした。
「私は非才では御座いますが、経理・計算が得意です。
それに文書作成も出来ます。雇って下さい」
良かった。ほっとした。欲しいと思っていた人材だ。
ソラと似て自己評価が低いが、事務官としては一級品だ。
「よろしい。貴方も残りなさい。
ベルベット・フォン・アッシュフォード伯爵令嬢」
その声を合図に残った人たちは礼をして帰っていった。
私はリディアに視線を合わせた
「助かるわリディア。私は社交が苦手なの。貴方に任せるわ」
リディアはぱちぱちと瞬きを2回した。
完璧なレディが取り繕えていない。余程驚いたのだろう。
「リディアは側近として社交を担当。
ティアラは、皇太子妃宮を纏めて頂戴。
ベルベット、あなたを逃がすかと思ったわ。
ベルは当然会計担当よ。ティアラを助けてあげて。
ティアラ、事務はベルに任せればいいわ」
「ええ、承知しております。
ベルが臆病風に吹かれたら私が説得するつもりでした」
「ほらね、ベル。自信を持ちなさい。ティアもこう言っているでしょう。
ティアラ、あなたには人事権を与えるから皇太子宮を整えて。
リディア、私の執務室に、大量の招待状が届いているの。
なんとかして頂戴」
「はい、殿下」
「なんか固いけど、リディアはそう言う人だものね。
ベル、早速だけど皇太子妃の側近が3人きまったのだから書類はまかせるわ。
皇太子妃宮は皇后宮の離宮を頂いているの。
今から取り掛かってくれる?
お昼はこちらに戻ってきてね。
一緒に食べましょう。
それじゃぁ、私はお母さまのところに報告に行くから後はよろしく」
私が出ていくと密やかな笑い声が聞こえてきた。
早速仲良しになったみたい。良かったわ。




