漆黒の梟
ルーナを皇太子妃に推挙するという決定が、貴族会議からでました。
既に法的には結婚済みなので、順番としては全く逆です。
貴族会議としては、思う所の多い決定だったでしょう。
しかしティシー公爵家をあらゆる法律を駆使して潰してしまった皇太子とその皇太子を黙認した皇帝の意向を無視することも出来ません。
何より既に籍は入っているのですから、いつまでも宙ぶらりんにする方が問題です。
「ルーナ。結婚式の日取りが決まったよ。3ヶ月後。ルーナの誕生日に式を挙げる」
「早すぎませんか?準備が間に合わないでしょう」
「間に合わせて貰うしかないね。その後は僕たちも学院に入学しなければならない」
「学院ですか?もうそんな季節ですのね。
クラウスもこれで晴れてフィクトス公爵ですね」
「そして君の姉がフィクトス公爵夫人だ。
後ろ盾が強固になって、表立ってルナに文句をつけれる輩もいなくなるさ」
「こういう力技は感心しませんわ。ひずみは後になって、出るものですから」
「そうやってお利口さんぶっても本音は面倒くさいだけだろう?」
「えぇ、私のんびりした暮らしが大好きなのに、どうしてこうなってしまったのかしら?」
「運命ってやつだから、諦めなさい」
「民に愛される皇太子妃になりたかったわ」
「それもなんとかするさ」
「どうせソラに丸投げするくせに」
「ともかく、そう言うことだから、朝食後から夕食前までルナは母上の元で、教育を受けることになった。
母上は出来るまでやらせる主義だから、手を抜かない方がいいぞ。
投げ出したりは、なさらないからな」
「レオ、それどういう意味かしら」
ルーナはそっぽを向いた。
この娘ときたら、都合が悪くなると聞こえないふりをするのだ。
最初はこれに騙されたものだけど、俺もルナの扱いに慣れてきた。
「そのままの意味さ。
プロイセン王国では、その擬態が通じたようだけどな。
義母上も義父上も君には皇后は務まらないと信じてた。
実は俺もさ。返品するしかないと思ったものだ」
「あら、返品なさいますの?」
ルーナは淑女のように扇を使い不快感を示してみせた。
レオは扇をそっと奪い取り、ルーナの顔を覗き込む。
「僕はね。淑女ではなくても愛らしい君が大好きだよ」
ルーナの顔は一瞬で喜色に染まり、いつものルナに戻っていく。
「もう、レオ、私ちゃんと淑女になってたのに」
レオニスはプッと噴き出してしまった。全く可愛いんだから。
ルーナはお怒りモードでレオニスを睨む。
レオニスはひょいっとルナを抱き上げ、執務室へと向かった。
「レオ、降ろして頂戴。これじゃあ皇太子妃の威厳が無くなってしまうわ」
「ルナが皇太子妃になるのは、3ヶ月後だろ。それまではのんびりしてろ」
「さっき、明日からお勉強だって言ったくせに」
「だからここにいる時ぐらい甘えてろよ」
執務室に行くとブルーノが待っていた。
「ルナ、これが俺からのプレゼントさ」
そう言ってブルーノの前に降ろすとブルーノはルナに跪いて宣誓した。
「私、『漆黒の梟』の長ブルーは皇国の『叡智の司書』ルナ様に忠誠を捧げます」
そうして、茫然と立ち尽くすルナの手の甲にに口づけを落とした。
「やめろ、ブルー。口づけはいらないと言っただろ」
「しかし殿下。この方がカッコいいんですよ」
ルーナは、はぁーとため息をついて額に手を当てた。
「もう、何なのよ。『アウル』の長がルーになったのね。」
「ブルーだってば、ルナ。このアウルの紋章をつけているときはブルーって呼んで」
「どうしてレオまでルーの中2病に付き合っているのよ!」
「いや、だって秘密組織だぞ。それなりの名前とかいるだろ?」
「いいけど。ソラは納得してるの?立ち上げたのはソラでしょう?」
「あいつの得意なのは、企画と運用。実務にはタッチしないさ。
それで俺が長を引き受けたのさ。丁度異能が影だしな」
「はい、はい。でもどうして『アウル』が私のものになるの?」
「だってルナ、おまえいつも自分だけで色々調べてるだろう?
ブルーを使ってくれれば、俺も安心できるからな」
「皇国の情報局を、私的利用するつもりねレオ。
どうせ私の監視役なんでしょ、ブルー」
「そうだよ。決まっているじゃないか。自覚ぐらいあるでしょう」
しれっと突っ込まれて今度はルーナが黙る番だ。
しでかしたらしいことは色々ある。
そのたびにレオが頭をぐりぐりと揉んでいたから。
ここは突っ込むと自爆してしまう。
そう思ったルナは大人しく鉾を収めた。
にっこり笑ってレオとブルーに言う。
「ありがとう。喜んで頂くわ。利用させてもらうわね」
レオとブルーの返答はユニゾンで返ってきた。
「信じられねー」
「ちょっと、失礼でしょ、あなた達」」
「だって」
「なぁ」
ルーナは焦った。この話題は早く切り上げなければいけない。
「それで『漆黒の梟』の本部はどこにおくの?
ソラのところは、事務官が増員されているでしょう?」
そうなのだ。
結局皇子宮付きの事務官たちはソラのところに戻ってきている。
ノラロー街の館は副区長となったセデスが使っている。
実質ノラロー自治区を運営しているのはセデスだ。
そしてアローがノアの副官となって、新しい秘書官たちを育てている。
だったら、どこに『アウル』を置くのだろう?
「本当のプレゼントはこっちだよ」
そう言ってレオは詳細な設計図を見せてくれた。
皇城の一部は民に解放されている。図書館や美術館だ。
ここを改造してアウルの本部を置く。
ここなら外部の者が出入りしてもおかしくない。
しかもこの皇太子宮や皇子宮とも繋がっている。
つまり、私も皇国の図書館が使える訳だ。
「欲しい書物は必ず専任の司書に伝えて司書に届けさせる事。
読むのはアウル内のルナの部屋。
本はデータ化してあるから、検索をかけるだけでいい。
専任司書はブルーの部下だ。安心していいぞ。
図書室にも本は置いているが、ルーナは図書館が好きなのだろう?」
私は思わずレオに抱き着いてしまった。
「嬉しい!レオ。ありがとう。今までで一番嬉しいプレゼントだわ」
「いや、まさかそんなに喜ぶなんて。
俺もルナには迷惑ばかりかけたからな。そのお詫びだ」
ブルーが気を利かせて姿を消したから、レオニスは安心してルナにキスをした。
初めてキスされてルナの目がどんぐり眼になった。が……
やがてうっとりと目を瞑ってキスを受け入れるのだった。




