陰謀
「まず確認しておきたいことは何故ルーナが攻撃の矢主に立たされているかと言う事だ」
ソラが当たり前のように会議を仕切りだした。
これで自分は自信が持てないというなんて。
「お前、それはお前が……」
「ブルーノ。俺が事件を起こし、ルーナが異能を失ったのは事実だ。
しかし、おかしいとは思わないか?
ルーナの姉はフィクトス公爵家の公子妃だ。
つまり、フィクトス公爵家が後見している姫だ。
それに噂の広がりが早すぎる」
「つまり、誰かが意図的に噂を広げているわけだな?」
「ルーナを追い落として得をするのは誰だ?
ルーナはまだ社交界デビューもしていない。」
「普通に考えれば、皇太子妃を狙ったと考えられるが」
「本来の候補筆頭はフィクトス公爵の傍系だったが」
「フィクトス公爵家が傍系の管理すら出来ないとは思えない」
「確かに。この噂の出所がフィクトス公爵家ならクラウスが放置するはずはないからな」
「では、どこから出た?」
「レオニス。おモテになるとは思いますが、レオに特別に執着している娘はいますか?」
レオニスはうんざりしたような渋い顔をする。
「べルティーナ・フォン・ティシー公爵令嬢だな。
頭が痛くなるほど、人の話を聞かない娘だ。頭を勝ち割りたくなる」
「ティシー公爵家。
確かお前に腰ぎんちゃくみたいに、まとわりついていたロブはティシー公爵の公子じゃなかったか?」
ブルーノがソラに尋ねた。
ソラもレオニスと同じように苦い顔をする。
「あぁ、そう言えば俺が退学する時も色々いっていたな。
俺がルーナに虐げられて魔力が暴発したとか、ルーナが皇太子妃を簒奪したとか」
「べルティーナも同じような事を言っていたな。
俺が悪女に騙されているとか。皇帝に無理やり婚約させられたとか。
お助けするとか言われたが。まさか!」
「そのまさかかもしれませんねぇ。だったら簡単ですよ。
殿下、レオ。言わなくても分りますよね」
ブルーノに圧を掛けられて、二人の顔はますます苦い顔になる。
「レオ。お兄さま。よろしくね」
ルーナににっこり笑われて頷くしかないふたりであった。
その後、皇太子妃ルーナは体調を崩し、後見人であるフィクトス公爵家で静養生活に入ると発表された。
事実クラウス公子とブルーノ公子がルーナの乗る馬車に付き添って、公爵家にむかうのを、多くの人々が目撃している。
実際にルーナが隠れ住んだのは、ソラの皇子宮だった。
この皇子宮は今でもソラの持ち物で、ノラロー街のソラの屋敷とは秘密通路で繋がっている。
ここは、いわばソラの秘密基地。
ソラが作り上げつつあるアストラルの情報局『漆黒の梟』
通称アウルの本部である。
ここを気に入って入り浸っているのが、ブルーノ。
学院の授業もあれば、休みにはクラウスに呼び出されて公爵としての業務を叩きこまれているのに、よく体力が続くとルーナは呆れている。
そこへぐったりとしたソラが、アローに抱えられるようにして帰ってきた。
「おかえりなさいお兄さま。いかがでした?」
「頼む、お茶をくれ」
ルーナは黙って人数分のお茶を用意する。
ここにいるのは、アローとソラ、そしてぐったりとして口も開かないレオニスである。
しばらく黙ってお茶を啜る。
お茶の香りと温かさが、ゆっくりと彼らの心をほぐしてゆく。
アローもルーナも静かにその時を待つ。
やがてレオニスが先に復帰した。
「完全に黒だった。堂々と自慢していたよ。
私がルーナを、追い払った。安心してくれ。とな。
それから、いかに自分が皇太子妃に相応しいか。とか、
私がべルティーナに出会えたことは幸運だ。とかな。
最後に私にベルと呼べと言いやがった」
「レオニス。異世界にはストーカー防止法案と言うのがあるんですよ。
こちらでも制定しましょう。
あいつと接触するのは簡単でした。少し声をかけただけなのに、のべつ幕無しに俺の行くところに現れるんだ。
勿論完全に黒ですよ。
ここに来る前に証拠になる書類の場所をブルーノに伝えましたから、すぐに証拠は手入ります」
「ねぇアロー。この二人をここまで追い込むなんて最強じゃないの?
一応私にも面会させてね。精神魔法の持ち主かもしれないわ」
「やめておけ!」
ユニゾンで二人の声が重なった。
ルーナとアローは大笑いしてしまった。涙まで出てきてお腹が痛い。
「楽しそうだな」
影からブルーノが現れた。
「もう、普通に扉から入れないの?」
ルーナのお小言に、ブルーノはしれっと言い返した。
「そんなの、かっこよくないだろ」
「ルーナ、そいつ中2病なんだ。意味は後で教えるよ」
「なんだと」
ブルーノはすぐにソラに飛び掛かり、二人で楽しそうに、じゃれあい始めてしまった。
レオニスは黙ってブルーノが持ってきた書類を読んでいる。
「皇室侮辱罪・民衆扇動罪・公文書偽造罪・賄賂罪・収賄罪こんなところかな?」
「アロー。
じゃぁこれ。この方向で書類作って提出してね。
朝には僕の書類箱に入れといて」
「ソラ、そのストーカー防止法案。書面で秘書官に渡して置いて。
じゃあ解散。ルナ帰るよ」
レオニスはルーナを抱き上げて、帰ってしまった。
「なんだよ。書類だけ押し付けて帰るのかよ。
くっそー、馬鹿皇太子め」
「口を動かさずに手を動かして下さい。
朝までに、少しは寝たいんですよ。私は!」
アローがソラを叱り飛ばす。
ブルーノは巻き込まれる前に、素早く皇太子の影に潜りこんで逃げてしまった。
ソラがぐちぐちと独り言を呟いている。
「やってること全然かわってねぇ。
住んでる場所同じだし、忙しくてノラロー街の館なんて一回見ただけだし。
なんかレオに丸め込まれて仕事増えてる。
最近はルナだって俺に厳しい。どうしてこうなったんだろう?」
お前が、勝手に暴走したせいだろう!とは思っていても言えない。
アローはかなり空気が読める子なのである。




