王宮の悪役令嬢
目覚めて以降ルーナの生活は大きく変わってしまった。
婚約者候補と皇太子妃では重みも責任も全く違う。
ルーナを見る周囲の目は厳しさを増すばかりだ。
今まではルーナが幼い事と候補であることで目こぼししていた人々が
一斉にルーナに襲い掛かった
弱小国の貴族に過ぎない分際で、皇太子妃の地位を横取りした悪女。
そんな悪評が宮殿内を駆け抜けるのは一瞬だった。
広まった悪評は、やがてノラロー自治区にも届いていく。
「知っているか? 悪女ルーナがソラ様を王宮から追い出したそうだ」
「ひどい女だな。ノラさまは皇子の位を剥奪されたそうだぜ」
「聞いているぞ。王宮でも我が儘放題だそうだ。」
「弱小国で、腕輪一つ持ってこなかったらしいぞ」
「だってあの鍛冶屋のプロイセン王国だろ?
まっとうなものなんかある訳ないもんなぁ」
そしてそれはすぐにソラの知るところとなった。
「俺が余計な事をしたばかりに。どうしようセデス」
「だから普段から申し上げていたでしょうに。
報連相が大事だとおっしゃったのはソラ様でしたよね」
「わかっている。全部俺が悪い。だから解決策を求めているんだろう」
「しかし、解決策っていわれてもねぇ。
こういうものは下手に反論すると反って炎上するのですよ」
「とりあえず王宮の皇太子妃に謁見を取り付けてくれ」
ルーナはソラが悲壮な顏でやって来たので少し笑ってしまった。
どうせこのお兄さまは、全部自分のせいだと謝りにきたのだ。
「お兄さま。お久しぶりです。お元気になられたようで良かったわ」
「すまない。ルーナ、全部俺のせいだ!」
「お兄さま、とりあえず座って下さい。お茶をお入れしますわ」
「でもルーナ、おれは」
「そうやってお兄さまが頭を下げると、ますます私が悪女に見えましてよ」
ソラはすぐさま椅子に座った。
素直はすなおなんですよね。お兄さまは。
「まずはお茶にしましょう。どうせレオニスも駆け付けるわ。
レオは兄上大好き症候群に罹ってしまったから」
「そんな、だって」
「レオが許してくれて安心したのよ。きっと。
一度ソラがレオを捨てようとしたから、それがトラウマになったのね」
「皇太子殿下はそんなに弱い人じゃない」
「ソラはいつまで弟をそんな目で見るつもりなの?ソラが皇子だった時
苦しんだ理由はどうしてだったの?」
ソラは目を見開いた。やっと気づいたのだ。
自分が役割だけで求められて苦しんできたのに、
レオに同じことをしていたと。
「でも俺は本当に尊敬しているんだ。ルーナ、俺どうしたら良い?」
「お兄さまったら、それを私に聞くの?」
「ごめん、謝りに来たのに。俺って……」
ルーナはクスクス笑い出した。
「もう意地悪はお終い。皇太子殿下じゃなく、
レオって呼べばいいの。簡単でしょ」
「俺は平民で」
「それって、私から力を奪って得た地位よね」
ソラは殴られたような顔をした。
まさかここでそれを持ち出すとは思っていなかったのだろう。
ふふん。私だって毒くらい吐けるのだから。
絡まってしまった糸はここですっぱりと切っておきたい。
それを切れるのは、今回に関しては純粋に被害者の私だけだ。
「そんな顔しない。弱者の顔で逃げるのは許さないわよ。
被害者ぶらないで」
「あなたが、あんなことをしたのは、
あなたの能力が1回しか使えないからでしょう?」
「何でそれを?」
「解るわよ、それぐらい。私の力は命を代償とするのよ。
そんなに巨大なあなたの力が何度も使えるもんですか!」
「皇太子殿下、いや、レオも知っていたのか?
知っているよなぁルーナでもわかったぐらいだもんね」
「お兄さま、喧嘩なら買いますけど?」
「ルーナってそんな子だったんだ。そりゃそうか。
レオの嫁になろうかって女が、か弱い訳ないよな」
「わかった。もう逃げない。
レオとルナは俺より年下なのに逃げられないもんな」
「もう少し早く覚悟を決めてくれたら、こんな騒動にならなかったがな」
レオニスが笑いながらそう言った。
「レオ。やっときたのね」
「遅れてごめんルナ。兄上ももよく来てくれたな」
「悪かったよレオ。もう逃げないから安心してくれ」
「逃げた後で言われてもなぁ」
レオの皮肉に言い返えせないソラ。
「お前、俺に嫉妬したんだって!馬鹿なの。
嫉妬してたの俺のほうなのに」
「ブルーノ、お前いつ来たんだよ」
「さっきからいたよ」
「あっ、影か?」
「ご名答。俺の力は陰で動くのに向いているんだ。それなのにお前が陰をやるなんてな」
「おかしいわねぇ。神子さまが影の能力者なんて」
「こいつの性格が陰険なんだよ。きっと」
「ソラ、てめぇ。夜歩けると思うなよ」
「ほらな、無能力者を虐めるんだぜ。こいつ」
「いい加減。大人しく座ってろ」
レオニスが切れた。
「雨降って地固まる。おかげで皆の本性も分ったことだし。
これからの計画だが」
「殿下、ソラは魔法を使える筈ですよ。
さっきこっそりソラの椅子の足を折たのに、涼しい顔で座ってやがる」
なるほど、ソラは器用に椅子を空中に浮かべて座っている。
椅子の足だけ、テーブルの下に転がっていた。
「ルー、弁償しなさいよ。お気に入りの椅子なのに」
ブルーノは黙って椅子を元にもどした。
異世界人の魔法は、器用すぎる。
「それは知っていたがノラローでは無魔力の方が通りがよい」
しっれっとレオニスが言い放つ。
異世界組は口をあんぐりさせているけれど、
私は魔法が使えない分観察眼も鋭ければ僅かな魔力も見逃さないのだ。
ソラが私に魔力を放った時、
この世界ではない魔力がソラの核にあることを見ている。
魔法医には見えないだろうけれど。
ソラだって、もう隠すのは止めたから、
ルーが足を折りソラが空に浮かんだのだ。
「これで全員、隠し事はないな?」
レオニスが少し疲れたように言う。
この面子は癖が強すぎる。その筆頭がレオニスだとしても。




