兄と弟
「ソラ第一皇子は皇太子妃を攻撃した。皇子位を剝奪し平民に落とす。
しかし功績を鑑み、ノラロー街を貴族の支配下から外し ノラロー自治区とし
ソラを初代区長に任命する」
ソラが目覚めた時、真っ先に告げられたのは、その言葉だった。
その文言が記された公式文書と区長の身分を示す指輪を持ってきたのは、セデスとアローだった。
「そうか。俺は家族を亡くしたのか」
当然と言えば当然の結果だった。
ルーナは皇太子の婚約者で予知者。その人から予知の力を奪ったのだから。
けれど……。
ソラは少しだけ期待していたのだ。
ルーナの惨い運命を奪えば、もしかしたらレオニスは、いやもうレオニスともよべないが。
皇太子殿下は喜んで下さるのではないかと……。
そんな訳は無かったのに。
「ソラさま。我らは既に爵位を返上。その代わりにノラロー自治区の役人として正式に採用されております」
「馬鹿じゃねえの。お前ら。せっかく貴族になれたんだろうが」
「ソラさま。自治区はいわば貴族領と同じ扱い。
そのため自治区長と補佐役は平民ではあっても姓を持つことは許されております」
ぽかんとするソラにセデスは言った。
「ソラさまは、ソラ・アストラル。我らはセデス・シュタインとアロー・クロイツでございます」
セデスはにやりと笑った。
「ソラさまは確かに皇子位は剥奪されました。
けれども家族であることに変わりはないと皇太子殿下は仰っております。
家族は何があっても家族なのだからと。
皇帝も皇后も息子として、いつでも会いに来るようにと仰せでした。
その指輪をご覧ください」
ソラは区長の指輪の紋章を見た。そこにはアストラルの紋章が誇らし気に輝いていた。
「ソラさま。殿下からの伝言です。感謝する。すまなかった」
そう、お伝えするようにと申し使っております。アローは笑おうとして失敗していた。
「ごめん。少し一人にしてくれ」
二人はそっと部屋をでた。背中越しにソラの号泣する声を聞きながら。
誰かが部屋に入ってきた。
「一人にしてくれと言っただろ!」
「泣きながら怒鳴るとは。私の兄上は随分器用なのだな。」
ソラが驚いて顔をあげると、そこには尊敬してやまない皇太子が立っていた。
「ご自分で来られるなんて。お忙しいんじゃないんですか?」
「そんなにむくれるな。私の大事な兄上は、かなり甘えん坊でな。
時を置くと拗ねて口もきかなくなるのでな。来るしかあるまい」
「なっ!そんなことは!」
「違うといえるのか?お前、ブルーノに嫉妬して追い詰められたんだろう?
確認もせずに自滅するのはお子様だからだ。僕は本当に両翼を得たかったのだよ。」
「ごめんなさい」
「素直だな。まぁ万が一の備えもしてあった。
区長の方が皇子より座りがいいのだろう?」
「えぇ、まぁ、はい。皇子って言われると責任の重みで潰されそうになるんです」
皇太子は、はぁーと深いため息を吐いた。
「お前さぁ、きっと信じないと思うけど、仕事はできるほうだぞ。それもかなりな。
普通の奴なら天狗になってもおかしくないんだよ。
セデスとアローまで、俺から奪いやがって。
あいつら位できる官僚を育てるの、どれだけ大変か判っているか?」
「あの、色々ごめんなさい」
「その自信のなさは何所からくるのかねぇ。まぁいいさ。
俺の部下を奪ったんだから、仕事はしてもらうぞ。今まで通り」
「えっ!そんなのずるくないですか?俺もう平民ですよ!」
「大丈夫だよ。そのために指輪渡してあるだろ?
水戸黄門だっけ?外でバンバン仕事して権力者には印籠振りかざすんだろ?
お前、随分とリーナに語ったらしいじゃないか。
上手い具合にお供も二人だ。奴らならお前を守るだけの力があるしな!
アローのファイヤーアローは知っているだろうが、セデスの氷壁も凄いぜ!」
「狙いましたね、レオニス。俺、レオニスに踊らされたんだ!」
「いい子だね。よく気づいた。気づかないようじゃ、俺の兄上は名乗らせられないがな。
何かあれば、俺の名前を印籠代わりにしろよ」
「レオニスの馬鹿!この陰険やろう!」
そう言いながら枕を投げつけると、レオニスは幸せそうに声をあげて笑った。
俺も大笑いした。
異世界にきてこんなに笑ったのは初めてだった。




