ソラの苦悩
アストラル皇国の城が見えた時、帰って来たと実感して涙が出そうになった。
涙をこらえて変な顏になったのだろう。
「ルナ。どうかした?」
隣に座っているレオニスが肩を引き寄せて、顔を覗き込んできた。
「何でもないのレオ。ただお城を見たら帰って来たなぁと実感してしまって。
少し感傷的になったみたいなの」
「父上や母上が精霊界に帰られて寂しくなったのかな。フィクトス公爵家にステラが残るだろう?」
「でも、ステラもすぐに精霊界に行ってしまいそうだわ」
「それは無理だね。龍の娘を産んで貰わないと、精霊界に帰られたら困るよ」
クスクスとルーナが笑い出す。
「今泣いたカラスがもう笑った。ルナは感情が豊かだね」
「だって、レオったら急に皇太子の顔になったわよ。ギャップ萌えしちゃいそう」
「ギャップ萌えって何なの?またソラから変な言葉を教えて貰ったね」
「もう一人の異世界人ってどんな人かしら?」
「古龍さまが認めたのだから、きっと良い奴だろう。
それにしても異世界人をフィクトス公爵家の当主になんて、
随分思い切ったものだね。」
「フィクトス公爵家は養子を実子として届けることが多いもの。誰も気にしないわ」
そうなのだ。フィクトス公爵家は子供が生まれてもお披露目しない。
どこかで密かに育てて、年頃になるといきなり実子の届けを出す。
精霊界で生まれる龍の娘や龍のための処置だが、長年の慣例になっているから誰も気にしない。
「そうだけれどね。ブルーノは私の右腕になることが決まっている男だ。
会うのが楽しみだな」
「でも、ソラはどうなるの?今は皇子でも臣籍降下が決まっているし
ブルーノが右腕になったらソラの立場は?」
「何を心配しているの?僕の兄上であることは変わりない。
左腕になって貰えばいい。両翼が出来るなんてありがたいことさ」
「確かにそうね。帰ったらみんなでお茶会をしましょうよ」
無邪気なルーナの言葉にレオニスは柔らかく
「そうだね」
と、返してやる。
宮廷はしばらく騒がしくなりそうだ。古龍も厄介な事をしてくれた。
ソラにフィクトス家を任そうと思っていたのだが……。
本当に両翼が揃えばよいのだが……
アストラル学院は小さな社交界。ミニチュアの宮廷と言ってもよい。
今は、皇太子とクラウス公子が留守だ。
だからこそ言いたいことが言える。
今まではレディたちの一番人気はソラ第一皇子だった。
臣籍降下が決まっているため、跡取り娘たちの視線が熱い。
ところが振って沸いたようにフィクトス家に新しい公子が出来た。
そしてこの少年がいたって気さくなものだから、レディだけでなく男子の人気も高い。
そして人気者の二人だからこそ、比べられてしまう。
ブルーノは気にしない。けれどソラは……。
ソラは自分の悩みを誰にも言えないでいた。ブルーノにも。
なぜならブルーノの存在こそがソラの悩みの種だったから。
ソラは自己嫌悪に陥っている。ブルーノはいい奴だ。
一緒にいると安心できるし楽しい。
だのに。
一人っきりになると、つい羨ましくなったり、妬んだりしてしまうのだ。
僕は一体どうしてしまったのだろう?
ブルーノなんて、あの時助けなきゃよかった!なんて思ってしまう。
最低だ。親友をそんな風に思うなんて。なんて小さい男なんだ。俺は。
元々ソラは内向的で、気配りばかりする人間だった。
家にもどれば、あの時の言葉はあれで良かったのか?
嫌な思いをさせたのじゃないか?
嫌われてしまっていないかと、うじうじ悩むタイプだ。
いつも言われていた。お前は気にしすぎると。しかし性格がそうなのだ。
気にするなと言われても、気にしてしまうのだ。
そこにアローが朗らかな声で報告した。
「皇太子殿下が帰国されました。ソラ殿下にお会いしたいそうです」
「レオニスが!」
ソラは喜色を浮かべて立ち上がった。しかし……
「ブルーノ公子を一緒にお連れするように、との事です」
レオニスもブルーノを選ぶのか。
「わかった。ブルーノに連絡をいれて」
「連絡済みでございます。すぐにこちらに来られるそうです」
「ありがとう。有能だな。」
「はっ」
アローは礼をして下がっていったが、何かが変だと感じていた。
皇太子が戻ったと聞いた時には、あんなに喜んでいたのに。
セデスなら気づけたかも知れない。
けれどもアローはソラと同い年。人情の機微に気づくには若すぎた。




