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皇子さまは今日も最弱娘に振り回される  作者: こもれびの空


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ヴァレンティノ城

 ヴァレンティノ城は大きな青い湖の上に立つ白亜の城だ。

 ニルヴァ・フォン・ヴァレンティノ公爵が、愛娘リリアーヌの為に建てた城として有名だ。

 しかしこの城で生まれたのは、今うぶ声をあげた赤ん坊が最初だ。


「ありがとう、リゼ。君と同じ銀髪と僕と同じ金眼だ。

 リリアーヌとお揃いだね」


「本当に。でもリリアーヌと違っておっとりした顔をしていますね」


 リゼリアのこの言葉は、まさしくこの赤ん坊の性格を言い当てていた。


「さて、神龍蒼天の王ニルヴァさま。名前を付けてくださいな」


 リゼリアは少しおどけて言う。

 夫が名付けが苦手なのを良く知っているからだ。


 長女のリリアーヌの時も二女のステラの時も、随分悩んでいた。

 ニルヴァはにやりと笑った。

 随分悩んで、もう決めていたのだ。


「この娘はルーナだ。月の女神さ。ステラが星だからな。」


「ええ、素敵な名前ですわ。でもリリアーヌだけが白ユリですのね」


「まぁ、長女だしな。神の誓いという意味もある

 既に誓っているのだから、僕は家族を全部守ってみせるさ」


 なるほど。夫にとって長女が生まれたのは、それほど意味のあることなのだ。

 この城すらリリアーヌに与えると断言しているぐらいだから。


 そしてそれは現実になる。

 リリアーヌの夫として王国の第二王子が婿入り予定だ。

 既に王籍を離れヴァレンティノ公子となっている。

 リリアーヌはラインハルト・フォン・ヴァレンティノ公爵の妻

 リリアーヌ・フォン・ヴァレンティノ公爵夫人として、この城の女主人になるのだ。


 王家との約束でラインハルトが15歳になれば、私たちは爵位を譲り隠居する。

 その時にはルーナも一緒にこの城を去ることになる。

 最後に母親の手元に残るのはこの娘かもしれない。


 ルーナはふにゃふにゃと笑っている

 なんと呑気そうな顔だろう。

 赤ん坊らしい様子に、リゼは少し安心した。

 なにしろこの城の子供たちは、揃って曲者だ。

 この娘ぐらいは普通であって欲しい。


 母の想いは叶えられた。

 しかし、それは大きなトラブルを引き起こすことになる。

 さて、この娘にも乳母、侍女や側仕え、それに部屋だって用意している。

 もう少し大きくなって、姉妹たちの近くを望めばそうしてもよいが……


 じつはこのヴァレンティノ城は、貴族の常識を大きく逸脱しているのだ。

 なにしろ公爵、公爵夫人が通常住まう3階の続き部屋は、

 二女ステラとその婚約者であるアストラル皇国の

 クラウス・フォン・フィクトス公子が住んでいるのだ。

 フィクトス公子も15歳で母国に帰りフィクトス公爵になることが決定している。

 つまり二女も必然的にフィクトス公爵夫人と言う事になる。


 どうしてこうなったかというと、まぁ夫が子供達と行ったゲームが原因だ。

 その結果子供たちは、好きな部屋を選べることになった訳だ。


 そんな訳で3層からなる白亜の城で空いているのは1階だけ。

 まさか2階の客間に公爵令嬢が住むことも出来ないから、

 私たちは1階にルーナの部屋を用意した。

 乳母のハンナや専任侍女のアニーの部屋も用意済み。

 私たち夫婦の部屋が城の西側だから、ルーナの部屋は城の東側だ。


 そしてルーナが3歳になる頃には、認めるしかなかった。

 ルーナは魔法が使えない。

 魔力は、それこそ膨大にあるというのに、発動しない。


 ヴァレンティノ城の子供達はどの子も魔法の天才だ。

 浮遊魔法で空を飛び、転移魔法でどこでも行く。

 水魔法で水をかけあって遊んだり、雷魔法でちょっと痺れさせたりする。

 相手に怪我をさせる魔法は禁止。あくまで遊びの範囲だけれど。


 それなのにルーナは魔法が使えない。

 それどころか極度の方向音痴。

 城の周囲を取り巻く人工の花園ですら迷子になってしまう。

 ステラが本気で首を傾げた。

 湖はどこからでも見えるから、

 湖に背を向けて歩けば城に着くに決まっていると。


 ルーナは納得して、早速その方法を試したらしい。

 結局帰って来なかった。

 湖には背を向けたが、まっすぐは歩けなかった。

 そうしてルーナは同じところをぐるぐる回っていた。


 侍女たちが悪いわけではない。

 必ずルーナを見張っている。

 ところが、魔法を使わないのに、ルーナは不思議なくらい気配がない。

 何時のまにか消えてしまうのだ。


 食事時。眠る前。

 必ずルーナを探すのが日課となった。

 ルーナは食べることも、眠ることすら、すぐに忘れてしまう。

 本を読んだり、何かを空想でもしていたり、ぼんやりしていることが多い。

 時間の流れがルーナの周囲だけ違っているかのようだ。


 そうして歩き疲れたり、

 きちんと食べなかったりすると、ルーナは必ず熱を出す。

 苦しそうに赤い顔をして、息をするのも苦しそうな我が子

 それを見るたびに、リゼリアたちは辛くてたまらない。

 子供達を守ると誓ったニルヴァは、余計に責任を感じた。


 今までの子供達は、活力にあふれ病気をしたこともない。

 なのにルーナだけが虚弱。

 実は何もないときですら、ルーナはすぐに疲れてしまう。

 ルーナに頑張れは禁句だ。

 ルーナは無理して、他の子供のように動こうとする。

 そして死にかける。

 ルーナには、生きる力が圧倒的に足りていなかった。


 ヴァレンティノ城の問題児。

 家族が全力でルーナを守っているというのに、

 いつの間にかそんな噂が流れてしまった。


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