呪い返し
披露宴はその後何事もなく終わった。
ミゼラブル教団の枢機卿をはじめとする一行は、何故かそそくさと帰ってしまった。
急遽中止していた筈のヴァレンティノ公爵家の婚礼が、2週間後に行われることになり、なぜか法王の後継者との呼び声が高いサンクス・フォン・ミゼラブル枢機卿が派遣された。
結婚式の打ち合わせに来られた枢機卿と挨拶したのはレオニス皇太子とクラウス公子。
勿論クラウスの横にはステラ、レオニスの横には私ルーナがいるのは、お決まりになっている。
「これは随分お若い枢機卿ですね」レオニスは珍しく本当に驚いている。
「皇太子殿下よりは5歳も年上なんですけれどね。これでも」
「私の方が年下なのですから、レオニスと。猊下」
「その身分を詐称すれば不敬ですぞ。陛下。サンクスとお呼び下さい」
にこにこがバチバチに見えるのは私だけではないと思う。
「前任の枢機卿が急遽帰国されたので、あなたにはご足労おかけいたします。」
にこりとクラウスが追い打ちをかける。
「とにかく皆さま、お座りになられたら?」
私がとりなすと、みんな座ってくれた。
しかし枢機卿だけは、座らずに頭を下げている。
「今回は教会の目が届かず、申し訳ない事をいたしました。」
「それで?」クラウスの声は冷たい。
「はい、あの者はあろうことか、呪いを使っていたらしく、全身がミイラのように干からびながらも死ぬことも出来ずに、今も苦しみ続けております。
また、その呪いに関与した闇精霊が神殿の光の間に張り付け状態で発見されております。
毎日、日が昇ると、焼け落ち、夜には復活するという無限ループを繰り返しており、神殿では、光の間を閉鎖。立ち入り禁止といたしました。」
若いのに随分苦労しているみたいだ。
「なお、捜査したところ、100名もの生贄を捧げた痕跡もあり、関わった者どもは、既に全員死罪となり
生贄となった者の遺族には、加害者の財産を没収して慰謝料といたしました。」
「そして今回多大なご迷惑をおかけした黒龍さまに置かれましては、我が国土、どのような場所にでも、お住まい頂けるよう手配いたしておりますので、ご希望を賜りたく。」
平身低頭とは、このことだろう。
「知りたいのは、この原因だ。奴らはなぜこのような真似を?」
「申し訳ございません。あ奴らは古代魔法に魅せられている者どもでございます。
龍などは、魔法の亜種。古代魔法こそが正当魔法だと言うばかりでして……」
私は、何だか嫌な予感がした。
主義・主張というものは、抑え込めば抑え込むほど、自分が正しいと思い込む。
それに宗教が絡めば、とても厄介だ。
このままでは終わらない気がする。
「ともかく座れ、そんなに喋れば喉も渇くだろう」
レオニスが言ったので枢機卿はチラリとクラウスを見てから座った。
この場合の被害者はクラウスだからね。
シュヴァルツさまは大暴れして気が済んだらしく、ここにはいない。
クラウスが茶を所望したので、すぐにお茶の準備が整った。
「まぁー美味しそうね。頂きましょうよステラお姉さま」
あからさま過ぎたらしく、ステラお姉さまは苦笑したが、それでも優雅にお茶を啜る。
そうなるとクラウスはステラお姉さまのお世話に夢中になるから枢機卿なんてどうでもよくなった。
一件落着ってことかな。だよね。
そこにレオニスが一言。
「残党は?」
「今のところ確認されていません」
こうして古龍さまの番事件は収束した。
けれど、この後、レオニスは後悔し続けることになる。
あの時、この俺が直接ルーンフェル王国まで行っていれば。
自分でこの事件の裏を探っていたら。
決してルーナが死ぬことはなかったろう。と……。
ルーナは予言の娘。
運命の死を避けることは出来ないのに。
レオニスは諦めようとはしない。




