披露宴と毒の被害
結婚式のあとパレードがあり、その間に参列者たちは
休息を挟んで披露宴会場に移動する。
その間に白花トリカブトの搬入経路と被害を調べる。
花を飾った侍女達が、倒れている。
白花トリカブトの毒性はとても強い。
大量の花を生けるので、侍女たちは無造作に花に触れている。
リリアーヌお姉さまが、毒の解除と治癒を行う。
侍女たちは、届けられていた花を、何の疑念も持たずに生けた。
解毒と治癒は本来なら神官の仕事。
トリカブトの毒に効く薬は存在しないからだ。
けれども、今は神殿関係者は信用できない。
リリアーヌお姉さまのおかげで死者は出なかった。
幸いにもブーケのデザインは決まっていたので、ブーケに
毒は仕込まれていない。
王太子妃を狙ったにしては杜撰な計画。
嫌がらせだろうか?
ステラにも被害はない。クラウスがピリピリしている。
「ステラお姉さま」
私がステラに声をかけるだけでもクラウスの身体が強張る。
「わかっているわ。クラウスは怖がっているの。
大丈夫よ。クラウスの事は私に任せて」
私は黙って側を離れた。
「クラウスか?」
レオニスが尋ねる。
「ええ、間違いないわ。クラウスはお母さまの呪いが判ってから
一瞬もステラの側を離れない。張りつめているの。
今回の事件も、クラウスが狙いよ。
精神的に追い詰めてきてる。陰険なやり口ね」
「ステラが幼いことを理由に、晩餐会は欠席させよう。
今、クラウスとミゼラブル教団の奴らを接触させたら
クラウスが暴発するかも知れない」
「その方がいいわ。クラウスが龍化したら大変だもの。
ステラお姉さまが、その辺は上手くやってくれるはずよ」
しかし程なくしてソラ第一皇子から、連絡が来た。
敵の依り代を保護。既に偽の依り代に呪いを転嫁したこと。
クラウスとシュヴァルツの意向次第で、いつでも呪い返しができること。
できれば敵の首魁を突き止めて欲しいこと。
その報告でようやくクラウスに笑顔が戻った。
「ありがたいな。
しかも公爵家を押し付けることが出来る奴まで見つかるとはね。
晩餐会には出るよ。面白そうじゃないか」
その報告はリリアーヌお姉さまとラインハルトお義兄さまも笑顔にした。
「これで予定通り学院を辞めて結婚できる!」
「お兄さま、お姉さま。せっかくですから、もう1年通われては?」
「何故、そんな余計なことをしなくてはならない?」
「だって、楽しんでらしたでしょう?」
「おままごとは1年で十分だ。公子として仕事をしたいんだ。
王を支えられるようにね。」
「私も早く王宮を牛耳りたいわ。基盤を整えて置かなければね。
王太子妃の一番の側近は私なのよ。」
成る程。ステラの件が無かったら、
二人は王太子を側近として支える約束をしていたらしい。
結婚うんぬんは、建前のようだ。
私はにっこりと笑うだけにとどめて置いた。
実は私はお仕事がそんなに好きではなかったりする。
内緒だけどね。
そして晩餐会。
クラウス公子をはじめ、若者たちが晩餐を楽しむ姿が目をひいた。
枢機卿がクラウスの元を訪れた。
「これはクラウス公子。アストラル皇国からわざわざお越しとは」
「婚約者の姉が王太子の弟と婚約していましてね。その関係でこちらへ」
「さようですか。それはお優しいことで。
御父上や御母上はご健在ですかな?」
「母が少し身体を壊しておりまして……」
「それはご心配でしょう。よろしければ治癒をいたしますが」
「いえ、ご心配には及びません。すぐに全快いたしますから」
「それはようございました。ご病気が良くなられたのですかな」
普通ならここまで煽ればクラウスは幼い。
ブチ切れて龍の本性を現すだろうと思っていたのだが、
この小童は、にこにこと話をかわすばかりだ。
このあたりが引き際か?
枢機卿が話を打ち切ろうとすると、クラウスが爆弾発言をした。
「いいえ、母は呪いをかけられておりましてね。
近々解呪する予定なのです。かなり強い呪いでしたから
呪い返しは相当なものになるでしょうねぇ」
枢機卿はじっとりと嫌な汗が流れるのを感じた。
ブラフだ。闇の精霊の呪いが簡単に解呪できるものか!
周囲は呪いと聞いて騒めいている。
呪いは重罪だ。高位貴族でも断罪される。
「おや、どうされました。枢機卿殿。お顔色が悪いようですが?」
「いや、少し飲み過ぎましてな。これで失礼します」
「それはそれは。お大事になさってください。」
クラウスは優し気にほほ笑んだ。




