怒りの矛先
そこにソラが口を挟んだ。
「すみません、何点か確認させていただいてよろしいでしょうか?」
フレデリック皇帝は、面白いと思った。
皆が凍り付くような緊張した場面で、
この異世界の子供は戸惑うことなく、あの古龍に質問を浴びせている。
異世界には、身分制度が無いと聞くが、そのせいだろうか?
それとも、この少年の資質によるものか?
いずれにしても能力を抜きにしても、よい拾い物だと思わざるをえない。
「何でも聞くがよい。」
古龍も面白げに応えている。
「今のクラウスは14歳ですよね。成人まであと1年。
全く記憶を受けつぐことは出来ないのでしょうか?」
「いや、欠損は起きるかもしれないが、受けつげると思う」
そう答えたのはクラウス。
難しい顔をして
「失敗すればクラウスの身体が耐えられまい」
と、答えたのはシュヴァルツさま。
「では、現時点での記憶の継承は避けた方がよろしいですね。」
ソラは納得したようだった。
「シュヴァルツさま。番様は、もしかして聖女さまだったのではありませんか?」
ルーナの問いかけにシュヴァルツは初めて動揺を見せた。
「何故そう思ったのだ?」
「番様は何世代も前に生を受けたお方でしょう?
現に我々はその名もお姿も知りません。しかも龍の保護を受けている。
そのような方に仇をなす方法は一つだけではありませんか?」
「確かに我が番は聖女であった。つまり聖女の子孫を取り込んだ者がいると?」
「はい。呪うなら、なにがしかの依り代がいりますから」
呪いだと!
龍の番を呪うなど、なんと大胆な奴だろう。
失敗すれば呪い返しは尋常では済まない。
「依り代が聖女だと、どうして断言できるのですか?
血脈が必要なら、子孫であれば良いのでは?」
シュヴァルツは鼻で笑った。
「我が加護が、たかが人間の依り代ごときで破られはしない。」
成る程、そう言うものか。とソラは納得した。
「さすがに予言者。よく見抜いて下さった」
古龍は怒りに震えている。
龍の番を殺せば龍も死ぬ。
それが判っていながら、誰も試みようとしないのは、
番に対する龍の執着が、並みではないからだ。
「では、相手はルーンフェル王国なのか?」
「それは判りません。実はソラが落ちた時、
似た波動がルーンフェル王国でもあったのです。」
ルーナの言葉に一番衝撃を受けたのはソラだった。
「俺の同胞が、この世界に?」
「もし、異世界人だったとしたら。一体何が狙いなのだ?」
皇帝と王の周辺に動きがあった。
影たちの報告が集まったのだろう。
フレデリック皇帝とレオン王が話し合っている。
情報のすり合わせだろうか?
「今年度アストラル学院の留学生の中に黒髪の少年がいる。
落ち人らしくミゼラブル教団に保護されている。」
「ミゼラブル教団と言えば、聖女も……?」
「確かに。ミゼラブル教団は聖女を保護の名のもとに囲い込むからな」
「ほとんど黒のようだが。父上、一年早いが私も今年入学しましょう。」
「いいえ、レオニス皇太子。それでは逆に目立ってしまう。
私とリリアーヌの卒業を延期しましょう。私の力は結界でリリアーヌは治癒。
しかもリリアーヌは学院内を掌握している」
「それは助かります。ステラを守って頂きたい」
とクラウスが言えば
「当たり前でしょう。ステラは私の妹なのよ」
とリリアーヌが返す。
「面白くなりそうなのに、我々は参戦出来ないのか?」
テオドール王太子が嘆くが、王族の結婚予定がキャンセルできるわけがない。
来月挙式が布告されて、各国から出席者が集まるのだ。
そのほとんどが王族なのだから。
「それよりも番さまの呪いだが……」
「呪いと判れば手の打ちようはある。ただ相手にバレたくはないであろう?」
そうなのだ。解除すれば呪い返しが反ってすぐに相手にバレてしまう。
できれば相手の真意が知りたい。
「私の浄化で少しは、お身体の調子が良くなるのでは?」
リリアーヌが進み出るとシュヴァルツさまは、すぐに頷いた、
そして消えた。リリアーヌ姉さまと共に。
そのうえ私たちがいきなり消えたことに驚いているうちに
戻ってきてしまった。
「リリアーヌお姉さま?」
「大丈夫よ。私だって龍の娘。浄化は成功したわ」
おぉーと会場がどよめく。
「我が妻の代わりの形代に呪いを受けさせることにした。
適当な所で形代を消せば、相手は妻が死んだと思うだろう」
古龍さまもかなり意地悪だ。
呪いの相手が消えれば古龍も消えたと思い込むだろう。
古龍さまが静かに怒っていらっしゃる。
この怒りの矛先が自分でなくてよかったと、ここにいる全員が思った。




