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皇子さまは今日も最弱娘に振り回される  作者: こもれびの空


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忍び寄る陰

 ソラの事業は上手く回っていて、

 ひとり暮らしのお年寄りへの訪問活動も軌道に乗った。


 そしてその活動の中心となったのは、驚いたことに同じ年配の方々だった。

 彼らは長くその街に住んでいたから、

 助けが必要な人達の事がよくわかっていた。


 自分たちでできることは、自分たちで。

 助けが必要ならノラロー街へ。

 その循環は、やがて年齢にかかわらず全ての人に向けられた。

 ソラは嬉しそうに笑った。


「社会福祉って言うんだよ。弱者を取りこぼさない政策さ」


「お兄さまの世界では、社会福祉が充実していたのですか?」


「そうだね。たぶん。あの頃の僕はあまり関心がなかったけれど」


 そう言って笑うお兄さまも、もうすぐ学院に入学する。

 お兄さまが入学すると言うことは、

 その前にお姉さま方が学院を卒業すると言う事だ。


 1年の留学期間を終えて王太子と王太子妃候補

 ヴァレンティノ公爵家の二人、お姉さまとラインハルトさま。

 この二組は卒業後結婚することになる。

 きっと国を挙げてのお祭り騒ぎになる事だろう。


 けれど……ルーナの顔は晴れない。


「ルーナ、最近眠れていないだろう?隈が出来ている。

 レオも心配していたよ。最近はほとんど図書室に籠っているって。

 何かあるだろう?

 わざわざ皇子宮まで僕に会いに来たんだ。教えてくれ」


「まだ確定している訳じゃない。

 でもお姉さま方が卒業すると、結界や治癒が使える人が残らない。

 何かあったら、頼れるのはお兄さまのキャンセルだけなの」


「やはり何かあるようだな」


 そう言いながらルーナを抱き上げたのは皇太子だった。


「白状してもらうよ。でも今日は皇城に主だったものは集めている。

 レオ、お前たちも来い」


 そうして転移した先には錚々たるメンバーがいた。


「いったいどうして!」


 そこにはルーナの懸念の元である古龍シュヴァルツさまとその息子クラウス。

 そして皇族や王族たちが勢ぞろいしていたからだ。

 驚くルーナの額をレオニスが突いた。


「お前、自分の価値を低く見過ぎ。

 予言の乙女が夜も寝られない程の悩み。重大なことに決まっているだろう。

 しかもルーナ。ヴァレンティノ公爵に黒龍の様子を見てくれと頼んだね?」


「内緒にしていてね。と頼んだのに!お父様!」


 ルーナが睨んだが公爵は涼しい顔だ。


「お前の懸念が当たっていたからさ。事は重大だ」


 ルーナは青ざめてシュヴァルツさまを見た。


「まぁ、とりあえず座ってはどうかの?」


 シュヴァルツがそう言うので、みんな座る。


「ルーナが心配していたのは、

 わしが後継者のクラウスの成人前に亡くなると言う事だ」


 全員がぎょっとしたが、顔色は変えない。

 クラウスは既に知っていたのだろう。

 青ざめてはいるが、動揺は見せなかった。


「それはいったい……?」


 ソラが聞きかけて口ごもる。皆がソラを睨んだからだ。


 シュヴァルツさまは


「そう怖い顔をするでない。事情を知らぬ者は他にもいる。

 きちんと話をしておこう。これが最後になるでな」


 そうしてシュヴァルツさまは話はじめた。


 幼龍には逆鱗を剥がす力がなく、そのために番を得ることが出来ない。

 番は龍の逆鱗を取り込むことで力を得る。

 つまり今の状態のステラは龍の守りを得ない状況である。

 龍は番を亡くすと後を追って死んでしまう。


 本来なら、後継者が成人するまでは親龍が小竜を庇護する。

 古龍は死ぬまえに後継者に全ての記憶を受け継がせる。

 だが最近古龍であるシュヴァルツさまの番が目に見えて弱ってきた。

 このままでは、記憶の継承なしにクラウスが残される。


 そこに神龍であるニルヴァが口を開いた。


「私は神龍と呼ばれるが、それは魔力が膨大だからだ。

 水を操り、嵐を呼び、大地を割くこともできる。

 だが賢人の知恵は持たぬ。ゆえに人に縛られた。」


「ええ、お父様は誓願に縛られているけど

 シュヴァルツさまはそんなにドジじゃない。」


「つまり、賢者と脳筋の違いね」


 あまりに明け透けな娘の言葉にニルヴァはがっくりと項垂れた。


「つまり、このままではクラウスは

 古龍の力の源を受け取れないと言う事か!」


 ようやく、ここにいる人々にも事態の重大性が分かったようだ。


「そうなると、我がアストラル皇国の礎が揺らぐ。我が国は

 古龍によって建国され、古龍の娘たちを皇后にして来たのだから」


 皆が皇后ベルベットを見た。彼女はフィクトス公爵家出身。

 次期フィクトス公爵は古龍の息子で龍のクラウス。

 知らなかった者にもようやく事の次第が分かった。


「しかしシュヴァルツさま。番様は龍の守りがあるはず。

 寿命ではないなら、なぜ?」


「わからぬ。我の記憶にもこのような事象がおきた例がない」


 皆がすがるような目でルーナを見た。

 今の話が本当なら、ステラを害するだけで、龍まで死んでしまうのだ。

 ようやくソラにも、学院から結界と治癒の力を持つものがいなくなると

 叫んだルーナの気持ちがよく分かった。


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