ノラロー街
ソラの事業は着々と進行している。
平民たちの評判も良くて、今では予約をしないと入れないらしい。
良かった。協力したかいがあった。
何しろソラのゴリ押しで皇太子宮にまで、
侍女候補や執事候補が大量に押し寄せたのだ。
「本物を見ないと判らないだろう?
ついでにそれらしく見えるようにしてくれ」
丸投げされた侍女や近習の苦労はいかばかりだったろう。
それでもこなしてしまうのだから、皇宮のメイドは素晴らしい。
実際に指導に当たったのはメイドと従僕だった。
平民出身だからお互いに理解しやすいし、
メイド喫茶なのだから、それっぽく見えればよい。
とはいえ、そこは皇太子宮。
彼らは、もしも高位貴族に出会っても
礼を失することが無いレベルまで鍛え上げられた。
相当なスパルタだったらしい。
彼らが教育を終えて宮を去るときに、
皇太子の謁見が認められて私も同席したけれど、
きちんとした礼儀作法だった。
陰からメイドや従僕がハラハラしながら見守っていたから、
かなり危なっかしかったのかもしれないけれど。
「そなた達が皇国の民として、
魔力などなくても堂々と暮らして行くことを望む。
後進の道を開いてやってくれ」
皇太子がそう言うと、皆が深く礼をした。
そう望んできたのは彼らの方だ。
今まで幾度も失敗を重ねてきたから、彼らは今度も信用しなかった。
とりあえず飯が食えるなら付き合ってやる。
そんなつもりで参加したら、まさかの皇太子宮に連れて来られて
朝から夜まで、マナー、マナー、マナー。
逃げ出したくても皇太子宮から逃げだせる訳もなく、
文句を言えば殺されるかも。
そんな恐怖を抱えて必死に勉強するうちにわかってしまった。
こいつら本気だ。本気で無魔力者の自立を模索しているんだ。
メイドも従僕も無魔力だからと侮ることは一切なかった。
ただ何度も、何度も、マナーが身体に染み付くまで繰り返させた。
もしかしたら、このままメイドや従僕になっちまうかも?
なんて軽口が叩ける頃には、自然とマナー通りに身体が動いた。
そして卒業の日、皇太子殿下のお言葉を賜った。
もうやるしかないよな。ここまで力を貸して貰ったんだ。
無魔力を言い訳なんかに使えない。
そうやって彼らは意気揚々と元いた場所に帰っていった。
そして驚いた。
スラムは無くなり、美しい宮殿でもどきと広々とした学校らしい建物。
そして3階建てのアパートが連なっている。
大きな炊事場と食堂が、アパートの中央にあり炊事はここで行うようだ。
魔力がないから、薪のオーブンやコンロをつかう。
それなら一緒に調理した方が無駄がない。
朝・昼・夜 そしてテイクアウトと軽食のメニュー表。
値段も手ごろだし、既に顔見知りが調理や配膳をしている。
「お前らいつの間に?」
「セラ皇子に騎士団の厨房に連れていかれた。
そこには薪を使った調理道具一式があったんだ。
他国にいる時はなるべく魔法は使わないそうだ。
そこで訓練されたのさ。旨いから食ってみてくれ」
隣の学校もどきでは、自分たちの弟妹がこざっぱりとした服を着て、
庭を駆け回っている。
学校の中には、洗濯場や裁縫の部屋があって、
大量の古着をリメイクしている。
リメイク服なら安いし、しかも1点ものだ。
宮殿もどきには喫茶ルーム以外にもお店などがあるらしい。
父ちゃんも母ちゃんも生き生きと働いている。
「次はあんたたちの番だよ。喫茶ルームがこの貧民街の
希望の星なんだから早くオープンさせとくれ」
「違うだろう。母ちゃん。俺らの町はノラローだろ。
もう貧民街じゃなくてノラロー街だよ」
「そうだったね。私たちは誇り高いノラロー街の住民さ」




