皇后ベルベットとソラ
ソラが皇后宮に行くと、こじんまりした部屋に案内された。
あくまでも宮殿にしては、という注釈はつくにしても。
皇后は異世界から来たソラを気遣ってくれたらしい。
丸テーブルが真ん中に置かれていて、食事も全てセッティング済みだ。
給仕が出入りしないようにだろう。
アローたちが下がろうとすると皇后が呼び止めた。
「あなたたちもソラの横に座りなさい。朝食はまだなのでしょう?」
「恐れながら陛下。我らが陛下と食事を共にするなど……。」
「セデス。そなたに男爵の位を授けます」
セデスはすぐに跪く。
「セデス・フォン・シュタイン男爵。汝をソラ第一皇子秘書官に任ずる」
セデスはうやうやしく命令書を受け取った。
「アロー」
呼ばれてアローも跪く。
「アロー・フォン・クロイツ男爵 そなたをソラ第一皇子秘書官に任ずる」
「さて、それでは身分も整ったことだし、席についてくれぬか」
俺たちは勿論すぐに席についた。
「そう固くなるな。従僕や近侍はおいおい見繕うがよい。
秘書官がいるのだから、雑事はこの二人に任せておけばよい。
皇子宮に入ったら、それなりの部屋は用意してやりなさい。
まぁ、それもこの二人がそつなくこなすだろうが」
つまり、俺が皇子として色々頼りないから急遽、二人を出世させたのだ。
俺の出自や魔法を知っているのは、この二人だから。
気の毒だが、これからは一蓮托生ってわけだ。
「ありがとうございます。皇后陛下」
「母上、ソラ、この場では母上だ。明日からマナーを学びなさい。
よほど公式の場でないと、息子が皇后陛下と呼ぶ場面はないぞ」
いや、いや。俺さっき養子になったばかりですけど。
「はい、母上。セデスとアローの事ありがとうございます」
「この二人は皇太子が選抜した。既に十分に秘書官を務められる能力がある。
とはいえ、皇太子秘書官にするには、身分が軽い。
そなた付きなら、これからどんどん出世させられるからな」
「皇后陛下。恐れながら我等両名、死ぬまでソラ殿下にお仕えいたします」
セデスが言った。
「良いのか?ソラはいずれ皇家を出て臣籍降下することになる。
まぁ結婚してからにはなるが。
下手に婿入りでもすれば出世はおぼつかないだろう」
「いいえ、我等の命は既にソラ皇子に捧げております」
アローまでそう言った。
重い、重すぎるよ。まだ知り合ってそんなに経ってもいないのに。
でも、嬉しい。凄く安心してしまった。
この二人は信じても良いんだ。
皇后陛下も安心なさったようだ。
朗らかな方で、いつの間にか楽しく食事が終わっていた。
「ソラ、一つだけ頼まれてはくれぬか。そなたの力、
この国に向けることはしないでもらいたい」
「勿論ですとも母上。俺の力は正義の為だけに使います。」
「正義か?のうソラ。
正義というのは立ち位置が違うだけで真逆になるものだ。
他国から見れば、我等は恐ろしい魔王に見えるかもしれぬ。
そうであれば我等を攻撃することこそが正義となる」
ソラは唖然とした。そんなことは考えたことも無かったから。
「大虐殺が起きる時、虐殺者は往々にして正義を口にする。
だから、私は正義という言葉は好きではないな」
ソラが困っているのを見て皇后はほほ笑んだ。
「まだ若いのだ。書物を読み。歴史を学ぶがよい
そして考えて欲しい
自分で未来を選択して欲しいと思う。それが母の願いじゃ。」
「私の固有魔法を教えておこう。それは誓約だ。
この場で私の力を知らずに誓約したら、そなたは縛られたのではないかな?
そなたは私を信じ心を許した。
ゆえに魔力無効化を持っていても誓約は発動したろう」
「何故、なぜそんな事を私に教えるのですか。
いっそこの国に無効化魔法を使うなと誓約させた方が簡単なのに!」
「ソラ、そなたは前にも己を殺した方が簡単だと言ったそうだな?」
ソラは驚いた。何も考えずに思わず言っただけなのに。
「簡単な方ばかり選んでくれるな。簡単に命を奪われるかも知れぬ。
奪うことになるやも知れぬ。
ソラよ。そなたは皇子となった。
この国の民を守る立場だ。それは判るな?」
俺は頷いた。貴族たちも俺に仕えると言っていた。
そう思ったらぞくりとした。
なんだこれ?責任?違う。
もっと重い。ずっしりと重い。
「あぁ、良い面構えになってきたな。王の顔だ。
不用意にそなたが縛られれば、この国の民が犠牲になる。
今は、わかるか?」
解った。わかってしまった。
自分の立場も、自分が背負う物の大きさも。
俺が間違えれば、国が揺らぐ。
皇后陛下はそれを教えてくれた。
何故だか涙がポトポトと落ちた。
悔しくて、情けなくて。 なんと幼稚だったのだろう。
「すまない」
優しい言葉と共に抱きしめられた。
「まだ子供のそなたを、一足飛びに大人にさせた。申し訳ない」
そう言って母上は俺を抱きしめてくれたのだった。




