表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/45

第39話 教会の一日


 翌朝。


 ゴォォォン。鐘の音で目が覚めた。まだ外は薄暗い。アカネは布団の中で目を細める。


「早い」


「早いな」


 隣のベッドからサフィラも同意した。二人とも旅人向きではあるが早起きは好きではない。しかし教会は違うらしい。廊下からは既に子供たちの声が聞こえる。元気すぎる。


「起きるか」


「うん」


 朝食を終える。祈りを終える。そしてアカネたちは教会の一日を知った。掃除。洗濯。勉強。仕事。訓練。夕食。自由時間。驚くほど規則正しい。


「忙しい」


 アカネが言う。


「忙しいな」


 サフィラも頷く。そこへキアラが現れた。


「何してるの?」


「見学」


「暇なの?」


「暇」


 キアラが呆れた顔をした。午前中。エドガーは子供たちへ授業をしていた。読み書き。算術。簡単な歴史。教会らしい教育だった。そして。アカネは窓際で寝ていた。


「おい、寝るなら外で寝ろ子供たちの邪魔になる」


 サフィラが言う。


「んー」


 のそのそと出ていくアカネ。笑う子供たち。サフィラが額を押さえる。エドガーは笑っていた。


 一方サフィラはというと。教える側に回っていた。


「三十六を四で割ると?」


「九!」


「正解だ」


 子供たちが嬉しそうに答える。意外だった。サフィラは教えるのが上手い。軍人時代に部下を指導していた経験が活きている。


「サフィラ先生!」


「先生ではない」


「先生ー!」


「だから違う」


 完全に先生扱いだった。午後。子供たちが仕事へ出掛けた後。エドガーが二人を呼んだ。


「少し話をしましょう」


 教会の執務室だった。古い机。本棚。地図。そして三人。キアラはいない。本格的な話だった。エドガーが静かに口を開く。


「さて」


 穏やかな声。だが視線は鋭い。


「そろそろ聞いてもいいでしょうか、お二人は何者ですか」


 アカネとサフィラが顔を見合わせる。隠し通すのも違う。この人には話していい。そう思えた。


「私たちは」


 アカネが口を開く。


「あるヴォイドを追ってる」


 エドガーは黙って聞く。


 サフィラが細くする。


「コアと呼ばれる個体で奴らの創造元になっている個体です」


「コア」


 その単語にエドガーの眉がわずかに動く。だが驚きはしない。


「なるほど」


 ただそう言った。


「信じるんですか」


 サフィラが聞く。


「まだ、半信半疑ですが」


 エドガーは笑う。


「ですが」


 視線が二人へ向く。


「お二人がただ者ではないことは分かっています、」


「私どもより奴らに詳しそうでもある、そのような知識をどこで手に入れられたかは、知りませんが」


 アカネは少し安心した。話が早い人だった。エドガーは続ける。


「昔の伝手があります」


「軍の、ですか?」

 

 エドガーは笑みで返す。サフィラが頷く。やはりそうかと思った。


「情報を集めましょう」


「ありがとうございます」


「ただし条件があります」


 エドガーが言う。ここで初めて少しだけ笑った。


「町を守るのを手伝ってください」


 当然だった。アカネたちも頷く。


「それと」


 エドガーがアカネを見る。


「キアラの訓練相手」


「ん?」


「彼女は最近伸び悩んでいる、私よりも強い方と訓練したほうがあの子のためになる」


 アカネが考える。確かに悪くない。


「いいよ、わたしがやる」


「ありがとうございます」


 今度はサフィラを見る。


「授業を手伝ってください」


 サフィラが固まった。


「私がですか」


「向いています」


 昨日だけで見抜かれていた。


「……分かりました」


 渋々頷く。エドガーが満足そうに微笑んだ。


「交渉成立ですね」


 こうして。アカネとサフィラはしばらくの間。教会の一員として過ごすことになった。そしてそれは。

キアラとの距離が最も縮まる時間でもあった。それから数日。アカネとサフィラはすっかり教会の生活に馴染んでいた。


 朝。一の鐘と共に起床。朝食。祈り。掃除。勉強。仕事。訓練。夕食。自由時間。最初は慣れなかった二人だったが、人間というのは案外環境に適応する生き物だった。特にサフィラは早かった。元々軍人である。規則正しい生活には慣れていた。


「サフィラ先生!」


「どこが分からないんだ?」


「先生こっちもー!」


「少し待ってなさい、こっちが先だ」


 今日も同じやり取りが繰り返される。教室代わりの大部屋。子供たちが机を並べて座っている。いつの間にか完全に定着していた。エドガーなど最近では楽しそうに眺めているだけだった。


「助かっていますよ」


「やめてください」サフィラは頭を抱えた。


「私に教師の経験はありません」


「経験は無くとも素質は十分あります」


 エドガーは即答する。


「子供たちも懐いていますし」


 実際その通りだった。厳しい。だが褒める時は褒める。教え方も分かりやすい。子供たちからするとかなり良い先生だった。今日も教会は平和だった。


 そして夜。六の鐘が鳴った後。夕食。さらにその後。キアラはこっそり教会を抜け出す。もちろん。エドガー公認である。


「門限は守るんだよ」


「分かってる!」


 前回怒られたばかりだった。森の奥。最初に出会った場所。そこへ向かう。アカネは既にいた。木の上で寝ていた。


「なんでそこで寝てるの」


「落ち着く」


「落ちないの?」


「落ちない」


 アカネが飛び降りる。


「やる?」


「やる」


 キアラが頷く。


「ナスク」

 

 キアラがそう言葉にすると。黒い液体が左腕から溢れる。漆黒の装甲。異形の鎧。数秒で完成する。アカネは何度見ても少しだけ違和感を覚える。左腕。見た目は普通。でも説明できない。ただ何かいる。

そんな感覚だけがあった。


「来ていいよ」


 アカネが言う。


「後悔しないでね」


 キアラが突撃する。速い。だが当たらない。拳。爪。蹴り。全部避けられる。


「なんで!?」


「動きが素直」


 アカネが答える。さらに避ける。


「リリ強い」


「でしょ!」


「でも」


 アカネが続ける。


「キアラ弱い」


「ひどい!」


 即抗議。だがアカネは真面目だった。


「ナスクが強い」


「リリが強い」


「キアラはまだ弱い」


 キアラが黙る。図星だった。本人も分かっている。だから夜にヴォイドを狩っている。強くなりたいから。神父様を助けたいから。町を守りたいから。


「武術は?」


「神父様に教わってる」


「そう。技っていうのはね理があるんだよ」


「どうゆうこと」


「ただ型をなぞって力任せにしてもダメ」


 ぐうの音も出ない。結局。その日も。キアラは何度も地面へ転がされた。そして帰り道。


「アカネ」


「ん?」


「強くなれるかな、わたし」


 キアラが聞く。少しだけ不安そうだった。アカネは少し考える。


「なる」


 即答。


「本当に?」


「うん」


「キアラ頑張ってるから」


 単純な答えだった。だがキアラは少しだけ嬉しかった。だから。その時二人は気付かなかった。

教会で。エドガーが開いた手紙に。不穏な情報が記されていたことに。そしてその情報が。

近いうちにキアラたちの日常を壊すことになることにも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ