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魔王がクラスメイトにウンタラカンタラ(リメイク版)22話目

現れたのは、スチームパンク風の機械式義眼をギラつかせた軍服の老人。

威圧感はあるが、どこか茶目っ気を感じさせる佇まいだ。


「マカ爺…ちょうど良いかも……」


この場を仕切っているはずの慧が、すがるような視線を老人に送る。


「くどい事は嫌いじゃが、名乗らぬのは不便じゃからの。儂の名は真壁宗次。傍白の名はヴィゼーじゃ」


「あぁ、はい。……それで、何しに来たんですか?」


僕は轟と真壁を交互に見やる。説明を求めて視線を投げると、轟が肩をすくめて答えた。


「真壁の爺さんの傍白…その能力が役立ちそうだなと思って、俺が呼んだんだ」


「その能力、というのは?」


「お主が問う相手は儂じゃろう」


真壁が自らの髭を撫で、僕の眼前に踏み出してくる。


「……それもそうですね。では、あなたがどう役に立つのか、教えていただけますか」


僕が視線を逸らさずに問うと、真壁は不敵に口角を上げた。口の中でゴリリと小気味よい音が鳴り、彼の全身から白い光の粒子が溢れ出す。


「儂のヴィゼーは戦闘能力こそ高くはないが、相手を『診る』ことができるんじゃ」


粒子が収束し、形を成す。現れたのは、シルクハットを深く被り、無機質なレンズの瞳を持つ機械人形の傍白だった。


「診る……?」


『ああ。儂が診ることができるのは、大まかに「魔力量」「身体能力」「固有能力の性質」の三つ。…悪いが、少し額を見せてもらえんか?』


ヴィゼーが細い指先で僕の額を指す。

僕は少しためらったが、警戒しつつも前髪をかき分け、額を露わにした。

瞬間、ヴィゼーの片目が黄金色に輝き、古いカメラが焦点を合わせるような駆動音が応接室に響く。


『……ほほぉ…。これは、主……めちゃくちゃじゃのぉ……』


しばしの沈黙の後、ヴィゼーは顎を撫でながら、戦慄を隠しきれない様子で呟いた。


「めちゃくちゃ……? どういう意味だ」


「ヴィゼー、どうなんじゃ。結果を言え」


『言った通りじゃよ、宗次。この童……魔力量が異次元じゃ。人間一人が保有していい器を優に超えておる。おそらく、ここに居る全員の魔力を掻き集めても、この童の半分にも満たぬだろう……』


ヴィゼーの言葉に、その場の空気が凍りついた。

慧や轟の顔から余裕が消える。

唯一、状況を飲み込めていない魁が、不思議そうに首を傾げた。


「なぁなぁ、そのマリョク? っちゅうのが多いと、そんなにスゲェんか?」


「……そうだな。分かりやすく例えるなら、『体力』みたいなもんだ。普通の人間が全力疾走ですぐに酸欠になる中、こいつだけは異次元のスタミナで、どれだけ走ってもピンピンしていられる…そんな感じだ」


轟の噛み砕いた説明に、魁の目が輝く。


「なるほどのぉ! スゲェなカイ、やっぱりお前は儂が見込んだ男じゃ!」


「……褒め言葉として受け取っておくよ。だが、魔力が多いからって『最強』ってわけじゃないだろ。さっきだって少し走っただけで息切れした。傍白の扱いだって素人だ」


「ん? スタミナが凄いんじゃないんか?」


「例えだ例え!魔力と体力は別物だ」


僕は魁の絶望的な理解力に、もはや恐怖すら覚える。


『いや、そうでもないぞ、童』


ヴィゼーが僕の言葉を遮るように口を開いた。


「どういうことです?」


『魔力と体力は、近からずとも遠からず。魔力が完全に枯渇すれば、数十kmを走破したあとのような強烈な倦怠感に襲われることもある。主、心当たりがあるのではないか?』


その言葉で、僕は初めて「物体生成」を使ったあとの、あの泥のような眠気を思い出した。


「なるほど……。あの時の異常な疲れは、魔力切れの状態だったってわけか」


『この魔力が多いほど、一日に出せる傍白の回数も、顕現させておける時間も長くなる。単純じゃが、戦いにおいては圧倒的なアドバンテージじゃ』


「……ちょっと待ってください。今、傍白の継続時間が長くなる、と言いましたか?」


僕は引っかかっていた違和感を口にする。


『何がおかしい?』


「僕の傍白、いつも同じくらいの時間…だいたい5分から10分程度で勝手に消えちゃうんです。これも、僕の扱いが下手だからですか?」


ヴィゼーは意外そうに、カチカチと首を傾げた。


『……いや。そもそも傍白を維持するというのは、常に魔力を注ぎ続ける作業なんじゃ。我ら傍白は、発生と同時に崩壊を始める不安定な存在。主魂から絶えず魔力を供給されることで、ようやく形を保っておる。……とりあえず一度出してみよ』


ヴィゼーに促され、僕は再び光の粒子を放ち、ヒトガタを顕現させた。

それと同時に、ヴィゼーの瞳が再び黄金色に明滅する。


『殺す…殺す……』


低く唸るヒトガタ。

ヴィゼーはそれをじっと凝視し、やがて瞳の光を消した。


『……なるほど。何となく分かったぞ、童』


「何が分かったんだ」


『主の傍白は、少しばかり特殊じゃ。通常、転生者が傍白を出すには二つの工程がある。1:体外に顕現させる。2:消えないように魔力を供給し続ける。 今、儂がこうして居られるのは、宗次が常に魔力を注いどるからじゃ。……だが、主の傍白は違う。主…傍白に魔力を「供給」できておらんのだ』


「……供給、できていない?」


『主の魔力は膨大じゃ。ゆえに、顕現させる際の一撃に、大量の魔力を一気に注ぎ込んでおる。……だが、出しっぱなしの後のメンテナンス…つまり供給がゼロなんじゃよ。主の傍白は、最初に注がれた魔力を燃料に、それを使い切るまで暴れ、燃料が尽きたら消える。……いわば、「使い捨ての爆弾」のような出し方をしておるわけじゃ。そりゃあ、すぐに消えてしまうはずよ』


「だから…時間制限があるのか……」


慧が横から、挙手するようにして真壁に問いかけた。


「……それなら、さっきの戦いで消されたはずの傍白を、すぐに再召喚できたのは?」


僕はその質問の意味が分からず、眉をひそめる。


「転生者は、傍白を一度消失させられると、一定時間は再放出が困難になるんです。これをインターバルと呼ぶんですが、貴方はルドウィークに消された直後、何事もなかったかのようにヒトガタを出した。これも、魔力が関係しているんですか?」


そういえば、魁との初対面でも似たようなことがあった。

魁は警戒を解くために傍白を引っ込めて見せたが、僕にとってそれは何の意味もなさなかった。

なぜなら、僕は文字通り「出し入れ」が自由だったからだ。


『……そればかりは儂にも分からん。だが、圧倒的な魔力量が、インターバルというルールさえも踏み倒しておる可能性は高い。本人が無意識で行っておることを、理屈で説明するのは難しいからのぉ』


「それと…傍白の『強さ』も少し変です。それだけの魔力があるのに、失礼ですが……中の上程度の力しか感じられませんでした」


「中の上……? ヒトガタは、傍白の中でも力が弱い方なのか?」


「いえ、弱いわけではありません。速度も申し分ないし、純粋な膂力も標準以上です。ですが、『魔力量』と『出力』が不釣り合いなんです。魔力が多ければ多いほど、傍白の性能も跳ね上がるのが道理。……優さんのそれは、まるで巨大な発電機に豆電球を繋いでいるような不自然さがあります」


『確かにのぉ。童と慧の魔力量の差を考えれば、先程の力比べで劣っていたのは些か解せぬ……。――ッと、そろそろ時間じゃな』


ヴィゼーが何かに気づいたように、ハッとして姿を消し始める。


「やれやれ。儂ももう歳じゃ。……ちっとばかり、診すぎたわい……」


真壁は腰をさすりながら、ヴィゼーを霧散させ、ふらりと部屋を出ていってしまった。

残された僕、魁、轟、慧の四人は、すっかり冷めきった紅茶を前にして、重苦しい沈黙を貫いていた。


「……えっと。とりあえず、分からないことも多いだろうが、何かあったら言ってくれ。力になるからよ」


轟が沈黙を破るように声をかけるが、僕は冷めた紅茶に映る自分の顔を見つめたまま、短く返した。


「……まだ、味方になるとは決めてないって言ってるだろ」


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