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魔王がクラスメイトにウンタラカンタラ(リメイク版)17話目


「居場所だぁ?」


僕はナイフを弄びながら、獲物を品定めするように狼を睨みつける。

狼は喉を鳴らし、必死に言葉を紡いだ。


『ああ。お前は今、警察に追われている。山に潜むのも手だが、それにも限界があるだろう。特にお前のような知恵の回る奴には、食料より何より「情報」が必要なはずだ。そこで俺たち「拝み屋」が協力し、隠れ家と身分を用意してやる。拝み屋の一員という肩書きがあれば警察も容易には手出しできんし、ある程度は一般人として生活できるはずだ。……どうだ、悪い話ではないだろう?』


狼は縛られたまま、すがるような目で僕に問いかけてくる。

僕はしばしの間、脳内で損得勘定の天秤を動かした。


「……お前らにとってのメリットが見えないな。僕を抱え込めば警察との関係にヒビが入るし、最悪は敵対することになる。むしろ、協力するフリをして僕をおびき出し、警察に『はいどうぞ』と差し出した方が、お前らにとっては安全で確実な利益になるはずだ」


『……さっきも言ったが、俺たちと警察は所詮、食い合わせの悪い協力関係だ。どっちみち、いつかは袂を分かつことになる。だからこそ、お前という戦力を引き入れて、こちらの勝率を上げたい。その「傍白」に、固有能力、そしてその知略……これだけの「武器」を、みすみす警察に横流しするほど、俺たちは馬鹿じゃない』


「あの二人組は十分馬鹿だったけどな……」と言いかけたが、喉元で飲み込む。


「だとしても、リスクが高すぎる。警察と繋がっている以上、お前らの拠点になんて行けないし、協力もできない。何か、信用に値するものを差し出してもらわないとね」


『ならば、俺たちの拠点の住所を教える! それに、拝み屋に所属する全転生者の「傍白」と「能力」の情報もだ! これだけの弱みを握らせれば、少しは信用できるだろう!?』


「嘘をつく可能性も――」


僕が反論を重ねようとした時、肩に重みを感じた。

振り返ると、魁がいつになく真剣な眼差しで僕を見つめていた。


「カイ、大丈夫だ。きっとコイツ、嘘はついちょらんよ。儂ぁ昔っから人を見る目だけには自信があってよ。カイみたいに良い奴か悪い奴か、すぐ分かるんじゃ。コイツ、最初は悪い奴かと思ったけど、目をしっかり見たら分かった。嘘をつけん「良い男」の目じゃ」


「あのな魁、人を見た目だけで判断するのは……」


文句を言おうとしたが、その真っ直ぐな瞳に毒気を抜かれ、僕は仕方なく口を噤んだ。


(……まあ、確かにこれだけの情報を提示してきたんだ。一度、様子を見に行くくらいなら……)


僕は魁の直感を信じることにして、大きく深呼吸してから狼に向き直った。


「分かった。お前らを信じてみるよ」


『助かる。じゃあ――』


「ただし、完全に信用したわけじゃない。何か怪しい素振りを見せれば、即座にヒトガタに暴れさせる。いいな?」


『ああ、構わん。だが安心してくれ。少なくとも俺の主魂は、お前の味方になってくれるはずだ』


味方なんているか。

信用しきるつもりもない。

いずれ役に立たなくなったら切り捨てる。

それだけだ。


『それで……その……』


「ん? なんだよ」


『この鎖……解いてくれないか? 右腕の感覚がなくなってきたんだが……』


「カイ、解いてやろう。壊死したら不味いからのぉ」


『少年?』


僕と魁は、二人がかりで狼の鎖を解いてやった。

念のため、背後にヒトガタを配置し、不測の事態に備えながら。

鎖から解放された狼はゆっくりと立ち上がり、強張った体をほぐすように大きく伸びをした。


『感謝する』


「礼なんてどうでもいい。それより、転生者についての質問に答えろ。知りたいことは山ほどあるんだ」


『ああ、良いだろう。だが俺も主魂も魔力が尽きかけだ。答えられる範囲で答えてやる』


僕と魁、そして狼とヒトガタ。

奇妙な一行は、魁の家を目指して山を下り始めた。


「じゃあまず一つ目。僕が転生者になってから使える、この『物体生成』と『傷の治癒』について。治癒は僕も魁も使えるけど、これは転生者共通の能力で合ってるのか?」


『ああ、そうだ。今言った力は全ての転生者に備わっている。皆何かしらの「固有能力」と「治癒能力」の二段構えだ。もっとも、お前の物体生成のようなものは珍しいがな。大抵はもっと地味だ。俺の固有能力なんて、単に「嗅覚で魔力を探知できる」だけだからな』


狼は意外なほどすんなりと答えた。

すると魁が横から「なぁなぁ、それって儂も持っとるんか?」と割り込んでくる。


「おそらくな。まだ仮説の段階だが、魁の能力は『触れた対象の内部圧力の操作』だと思う」


『内部圧力の操作……?』


僕の言葉を聞いて、狼が怪訝そうに首を傾げる。


「ああ。お前を眠らせる前に、水筒から混酸を吹き出させただろ。あれは水筒の仕掛けじゃない。単純な圧力の変化だ」


僕は空になった水筒を軽く振ってみせた。


「テテの能力で水筒の中に空気を強引に押し込み、内部を数気圧まで加圧しておいたんだ。その状態で蓋を開ければ、内部の空気は一気に外へと膨張しようとする。そのエネルギーに巻き込まれて、中の液体が霧状になって吹き出した……ただそれだけのことさ。物理で言うところの圧力勾配ってやつだな。標高の高い場所でポテトチップスの袋が膨らんだり、飛行機の中で水筒を開けると中身が噴き出すのと原理は同じだよ」


「なるほどなるほど……狼さんは分かったかい?」


『悪いがそこまでの教養はない。主魂も特別頭が良いわけじゃないし、俺も記憶の全てを共有できているわけではないからな……』


「まあ、別に覚える必要はねぇよ」


僕は水筒を弄びながら、次の質問を口にした。


「じゃあ次の質問。お前たちが言っていた『ニュータイプ』ってのは何だ?」


その問いを聞いた瞬間、狼がピタリと足を止めた。

そして、射抜くような視線を僕に向ける。


『どこで…その言葉を聞いた……?』


「あ? お前の仲間が言ってたんだよ。魁が眠っているのにテテが動いているのを見てな。心当たりがあるのか?」


『いや、言葉を知っていること自体は問題ではないのだが…何故その『ニュータイプ』という言葉が出てきた……?』


狼は驚愕に目を見開き、呆然と僕を見つめた。


「……魁が主魂を眠らされている状態でもテテが自律行動していたのを見て、驚いていたみたいだけど」


『何ッ……!?』


狼は、相変わらず能天気な顔をしている魁の方を振り返り、突然叫んだ。

その剣幕に、魁も流石に困惑の表情を見せる。


「な、なんだぁ? 儂がなんだって? 難しくてよぅ聞いとらんかった」


『お前……本当に「ニュータイプ」なのか……!?』


狼が魁に近寄ろうと一歩踏み出す。

僕は即座にその間にヒトガタを割り込ませた。


「なんでそんなに興奮してるんだ。何が問題なんだよ、そのニュータイプとやらが」


『……ッ。すまない、取り乱した。説明しないと分からんよな』


「謝罪はいいから、早く言え」


狼は眼光を鋭くし、絞り出すようにこう告げた。


『「ニュータイプ」……それは「亜種」とも呼ばれ、観測される確率が極めて低い存在だ。いわば、生物学における……』


一呼吸置き、狼は戦慄を孕んだ声で続けた。


『突然変異個体だ……』


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