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魔王がクラスメイトにウンタラカンタラ(リメイク版)16話目


「……きろ。おい、起きろってんだ」


頬を叩く乾いた音。その刺激に促されるように、何重にも巻かれた鎖の中で、狼の傍白がゆっくりと瞼を持ち上げた。

焦点の合わない瞳が周囲を彷徨い、僕、そして僕の隣で腕を組んで立っている魁の姿を捉える。


『あぁ……クソ。接続が完全に切れてやがる……』


狼は力なく毒づいた。

周囲にカウボーイハットやバイクの姿はない。

粒子となって消えた仲間たちの気配を察し、自分が完敗したことを悟ったようだ。


「なぁカイ。ホントにこいつ、テテと同じ『傍白』っちゅうもんなんか?」


魁が不思議そうに狼を覗き込む。


「あぁそうだよ。つーか、普通に考えて喋ったり二足歩行したりする狼が野生にいるわけないだろ。……たぶん」


「そっかァ、初めて見るからのぉ。そういう珍しい種類の獣かと思っとったわい」


魁はガハハと豪快に笑った。

……そんなわけないだろ。

相変わらずコイツの常識ラインはガバガバだ。


『……なぜ、殺さなかった』


低い、地を這うような声で狼が問うてくる。

その声には、先ほどまでの冷徹な殺意よりも、困惑の色が強く混じっていた。


「お前に聞きたいことがある。今からそれに答えてもらおうと思ってね。……もし答えないって言うなら、それ相応の処置をさせてもらう」


「それ相応のこと?」


魁が純粋な好奇心で問い返してくる。

そうだな……。

僕は顎に手を当てて、少しだけ「非人道的」な選択肢を脳内でリストアップした。


「……金玉にハッカ油を塗りたくる、とか?」


『ま……待て、話す。何でも話すから、それだけはやめろ』


「ああ、うん。話してくれるならいいんだけど……」


やけに口が軽いな。

この手の「異形」はもっとこう、拷問に耐える美学みたいなものを持っていると思っていたが。

僕は「なぁハッカ油ってなんだ? 旨いんか?」としつこく聞いてくる魁を適当にあしらいながら、本題に入る。


「じゃあまず。なぜ僕たちを襲った? お前らは九条の差し金か?」


『九条……? そんな男は知らん。我々は警察の要請に従ったまでだ』


警察側か。

なるほど、理屈は通る。

ただ、それにしてはやり方が荒っぽすぎるし、なにより先ほどの二人のような「癖の強い」連中を公的機関が雇うだろうか。

警察の人選センスを疑わざるを得ない。


『だが、勘違いするな。俺たちは別に警察の犬というわけじゃない』


「どういうことだ?」


『俺たちは「拝み屋」という、いわば何でも屋のようなものを営んでいる。警察とは協力関係にあるが、あいつらは俺たち転生者のことを裏では気味悪がってんだ。……クソが!』


狼の言葉には、確かな嫌悪感が混じっていた。

それにしても。


「……なんか性格変わったのぉ、お前」


「僕も思った。どうなってんだ? さっきまで感じられた強敵感が微塵もない」


僕と魁の率直な感想に、狼は自嘲気味に鼻を鳴らした。


『あぁ……それは簡単だ。主魂との接続が切れたからだろうな』


「接続が切れた?」


『俺は俺。主魂は主魂だ。俺を遠隔で、かつ精密に動かすには、主魂と俺の意識をリンクさせる必要がある。さっきまでは主魂の意識が混ざっていた。……ただそれだけだ』


「なるほどのぉ……よぉ分からんわい」


魁は早々に考えるのを放棄したが、僕は納得した。

おそらく、こいつを眠らせたのと関係があるんだろう。


「……それで。警察にはなんて言われて来たんだ。犯罪者を殺せとでも?」


『あぁ、大体そんな感じだ。だが「殺すな」とは言われてないぞ? 拘束して送れ、というオーダーだ』


「えぇ!? カイって何かやっちまったんか? そりゃ冤罪じゃろ! カイがそんなことするはず……ないよな?」


魁が不安そうな、それでいて僕を信じようとする複雑な表情で聞いてくる。


「なんでちょっと心配そうなんだよ。安心しろ、お前の言う通り冤罪だ。僕はあの場にいただけで何もしていない」


『どういうことだ? こっちはお前が阿留都冷を襲った転生者だと聞いているが……』


僕は狼の言葉を聞いて、あの日起こったことを事細かに説明した。

亀の頭を持った転生者に襲われ、ヒトガタを出して応戦したこと。

その結果、警察が僕を犯人と誤認し、指名手配されていること。


『なるほど……そういうことだったのか。……すまん、俺たちが未熟だった。許してくれとは言わない。だが、俺たちの話も聞いてくれないか?』


狼が殊勝に頭を下げた。

その姿を見て、僕は薄く微笑む。


「……いや絶対に許さないけど」


『え?』


「カイ?」


きっぱりと告げると、狼は驚いたように目を見開いた。

魁も信じられないものを見るような目で僕を凝視している。


「僕はあいにく、聖人君子じゃない。さっき言ったハッカ油の刑だって、普通に実行するつもりだし」


『え!? いや、こういうのは『事情が分かってくれたならいいんだ』とか言って、協力関係になるのが定石だろ……!』


「僕、前々から思ってたんだよね。物語の主人公が、勘違いで襲ってきた敵をすぐ許すやつ。普通に考えて、殺される覚悟で来たんだから、返り討ちにあって殺されても文句は言えないだろ。……僕なら、リスクの芽は早めに摘む」


僕がナイフの刃先を狼に向けると、その顔は見る間に冷や汗まみれになった。


「ま、まぁまぁカイ! そんな可哀想なことしてやるなよ。な?」


『そ、そうだとも少年! 君からも何か言ってくれ!』


「ちゃんと食ってやろうぜ。殺すだけじゃ命が勿体ねぇ」


『少年?』


狼の表情から、最初の冷徹なイメージが完全に崩壊していく。


「食えるのか? 狼って。たぶん筋繊維が強くて硬いだろうし、食肉目だからアンモニア臭もエグそうだ。それにトリヒナとかの寄生虫リスクも――」


『ま、待て待て! なんで食う方向に話が進んでるんだ!?』


「あ? 僕を殺そうとしたんだ。それ相応の報いを受けるのが当然だろ」


僕は縛られ、動けない状態の狼を見下ろしながら、冷たく目を細めた。狼はゴクリと喉を鳴らす。


『……分かった。お前らに提案がある』


「あぁ? 提案だ?」


生成したナイフを指先で弄びながら、僕は狼の言葉に耳を傾ける。


『……飯島優。君に、ここ以外の「居場所」を作ってやる』


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