表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/47

魔王がクラスメイトにウンタラカンタラ(リメイク版)15話目


『ほーら、出ておいで坊や。大丈夫、手荒な真似はしないわ……私はね』


静まり返った森に、不釣り合いな機械音と女の嘲笑が響き渡る。

枝を跳ね除け、草を踏み荒らして進むその足取りは、隠れる獲物を追い詰める狩人の余裕に満ちていた。


『ったく、めんどくせぇ。ここら一帯、全部撃ち抜いて更地にするかぁ?』


『ホント馬鹿ね。そんなに弾を持ってないでしょ、あんた』


ピンク色のバイク型傍白の背後を、カウボーイハットを被った傍白が気だるげについて歩く。


『いや、魔力弾なら……』


『それを撃ったら最悪「山火事」になるって言ったのは、どこの誰だったかしら?』


『あ、そうだったわ』


足並みの揃わない二人の猟犬は、確実に、そして着実に優の潜伏地点へと肉薄していく。

だが、優もまた、無策で死を待つようなタマではなかった。


「……今だ。やれ、テテ」


優の唇が微かに動く。

刹那、木陰から音もなく褐色の剛腕が伸び、カウボーイハットの背後を強襲した。


『うなっ!?』


テテの巨体がカウボーイハットの口を封じ、その足を力任せに払う。

予測不能の奇襲に、男のバランスが大きく崩れた。


『ッ!! そっちか……!!』


バイク型が即座に反応し、火器を向けようとしたその瞬間。

彼女の死角――背後の茂みから、一人の少年が弾丸のように飛び出した。

優だ。


『……なッ! 後ろ――!?』


優の冷徹な視線が、バイク型の胸部――燃料タンクが位置する一点を射抜く。

その手には、鈍く光るサバイバルナイフが握られていた。


(ナイフ……!? どこから……いや、今はどうでもいい! 狙いは…ガソリンタンク……? ハッ、馬鹿ね。そんな玩具で傷がつくほど、私の装甲はヤワじゃないわ!)


バイク型は確信していた。

ただの人間が振るうナイフなど、鋼の体には通じないと。

それは優も百も承知だ。

だからこそ、彼が刃を向けたのは「装甲」ではなかった。


――ザシュッ!!


『なッ!!?』


バイク型の体から、ガソリンが鮮血のように激しく噴き出す。


「ハナからタンクなんて狙ってない。狙いは、剥き出しのラバー製の燃料ホースだ。人型に変形すれば、どうしても『隙間』から露出するよな」


『グッ……! あ、ああ……!』


燃料が失われると同時に、バイク型の心臓部であるエンジン音が急速に弱まり、彼女は力なく膝を突いた。


(……まあ、そもそもこいつがガソリンで動いてるか自体、大きな賭けだったけどな)


優は動揺するバイク型の体を強引に掴み、噴き出すガソリンの向きを「ある方向」へと調整する。


『何を……するつもり……っ!』


「あんたら、自分が焼ける時の感覚って、味わったことあるか?」


優の視線の先。

そこにはテテに翻弄され、地面をのたうち回るカウボーイハットの姿があった。

男はテテに視界を奪われ、半狂乱でホルスターからリボルバーを引き抜く。


『こんの野郎……!! 風穴ブチ開けてやるッ!!!』


引き抜かれた拳銃が、男の指先で鋭く回転する。

次の瞬間、その銃口から放たれるオーラが、これまでとは比較にならないほど禍々しく膨れ上がった。


『ちょ、バカ!! 魔力弾は……!!』


『うるせぇ!! ここらは木が少ねぇ、すぐには燃えねぇよ! それにテメェに当たったところで、死ぬわけじゃねぇだろうが!!』


バイク型の制止を嘲笑い、カウボーイハットの銃口が極彩色に輝く。


「テテ! 今だ、離れろ!!」


優の号令一閃。テテは重力を無視した跳躍で上空へと逃れ、優もまたバイク型を「盾」にするようにして全力でその場を離脱した。


『死ねぇぇ!!』


咆哮と共に放たれたのは、物理的な弾丸ではない。

剥き出しの魔力が結晶化した、高熱のエネルギー弾。それが四方八方へと無差別に撒き散らされる。


『ホント……大バカ野郎ッ……!!』


バイク型の呪詛も虚しく、放たれた熱線が、彼女の体から溢れ出していたガソリンに接触した。


――ドォォォォォン!!!


周囲の空気を一気に吸い込み、巨大な火柱が上がる。

ガソリンを浴びていたバイク型は文字通り火だるまとなり、その爆風に巻き込まれたカウボーイハットも無様に吹き飛んだ。


『が…あぁ……っ』


炎に包まれたバイク型は、激しいノイズ混じりの悲鳴を上げながら、光の粒子となって霧散していく。

吹き飛ばされたカウボーイハットもまた、修復不能なダメージを負い、粒子を振り撒きながら崩壊していった。


「……こんな稚拙な罠に引っかかるなんて。よっぽど頭が悪いんだな、あんたら」


頬にこびりついた泥を乱暴に拭う優。その横に、音もなくテテが着地した。


「さて、あとはあの狼を――」


『まったく、二人は連携が成ってないな……』


優が魁の元へ向かおうとした、その瞬間。

死角から、あの「狼」が暴風のような速度で突進してきた。


「ガッ!!」


テテが反応するよりも速い。

狼の爪がテテの胴体を深く切り裂き、巨体を近くの巨木へと叩きつける。

そのままの勢いで、狼は優の喉元を掴み上げ、背後の大木へと押し込んだ。


『お前の傍白……速度とパワーは評価してやろう。だが、主であるお前が三流だったようだな。傍白の扱いが成ってない。……あの白い奴は、ある程度の時間が経ったら勝手に消えていったぞ?』


大木に背中を打ち付けられた優を見下ろし、狼が凶悪な牙を剥く。

優は必死にその腕を振り払おうとするが、傍白の怪力には抗う術もない。


(流石に…キツイ……ッ!)


肺の空気が絞り出される感覚の中、優は「とっておき」の使用を決断した。


「は…なせ……ッ!!」


『おっと、危ないなぁ』


優がポケットから、先ほど拾い上げていた麻酔弾を狼の腕に突き立てようとする。

だが狼は優の腕を嘲笑うように掴み、阻止する。

その衝撃で、優のポケットから「何か」が地面に転がり落ちる。


『なんだぁ、これ……水筒か?』


狼は落ちた水筒を片手でキャッチし、不審げに目の前へ持ってきた。

その瞬間、優の瞳が、恐怖に大きく見開かれる。


「……っ、待て! それだけは、それだけは触るな!!」


『ほう、随分と大事なもののようだな。……液体か? 何かが入っているようだが』


優を屈服させた優越感に浸りながら、狼は水筒の蓋を指にかける。


「やめろ! 返せ!! それは……開けるな! 絶対に、今だけは開けるな!!」


優の顔から血の気が引き、額からは滝のような汗が流れる。

声は裏返り、必死に命乞いをするその姿は、冷徹な理数系少年の面影など微塵もなかった。

狼は確信した。

「冷静な転生者も、死を前にすればこれか」と。

その正体を暴き、少年の絶望を深めるために、彼は力任せに蓋を回した。

その刹那。

優の口角が、不気味に吊り上がった。


「……本当に、おめでたい野郎共だ」


蓋が開放された瞬間、内部で限界まで加圧されていた液体が、轟音と共に噴き出した。


『な、なんだコレ!!? ぎ、グオオオォォ!!!!』


吹き出したのは祝杯ではない。

あらゆる有機物を炭化させる超強力混酸。

狼の顔面の皮膚が、眼球が、強靭な牙さえもが、触れた瞬間にジュウジュウと不快な音を立てて溶け崩れていく。


『クッソォ……!! なんだこれはッ……!! 目が、目がぁぁぁ!!!』


顔を抑えて悶絶する狼。

優はその隙を逃さず、暴れ回る狼の首筋へ、先程阻止された麻酔弾を深々と突き立てた。


『クソったれ……が……っ……』


狼は血走った瞳で優を睨みつけるが、強力な薬液には抗えず、そのまま意識を失い沈黙した。

後に残されたのは、荒い息をつきながら倒れた狼を見下ろす少年一人。

優は首の骨をパキリと鳴らし、冷淡な瞳で一瞥を投げた。


「ハァ……ハァ……。疲れるな、演技ってのは……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ