魔王がクラスメイトにウンタラカンタラ(リメイク版)14話目
『あいつ……もしかしたら、「ニュータイプ」なんじゃないか……!?』
カウボーイハットを被った傍白は、信じがたいものを見たかのように驚愕の声を漏らした。
その隣、ピンク色のバイク型傍白も、ライトを明滅させて何かを察したような反応を見せる。
取り残された優は、荒い息を吐きながら状況を咀嚼しようと試みた。
(ニュータイプ……? ガンダムの話……なわけないか。さっき、主魂は眠らせたって言ってたな。ってことは魁は今、山の中で……。でもテテが来てるってことは、命に別状はないのか? だとしても、早急に向かわないと……!)
「テテ」
優は膝についていた手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
そして、自身の窮地を救った褐色の腕に視線を投げた。
「悪いが…今は力を貸してくれ」
ヒトガタは、あの狼に連れ去られてしまった。
この状況で、得体の知れない二体を相手にするだけの力は今の優にはない。
テテはその言葉に応えるように、巨大な拳を一度だけ強く握り込んだ。
『あ! クソッ!!』
刹那、テテは優の体をレシーブするかのような動作で、遠く、高くへと放り投げた。
「うわあああぉぉ!! 高いッ!!」
一瞬にして二体の傍白との距離を稼ぐことには成功したが、いくらなんでも飛びすぎだ。
優はあまりの浮遊感に、自分の体が羽毛にでもなったのではないかと錯覚する。
『チッ……!』
逃がすまいと、カウボーイハットの男が即座に銃口を向ける。
しかし、その狙撃を阻止するようにテテが割り込んだ。
『グッ……! クソッ……銃弾じゃないからってナメやがって……!』
テテは空中で麻酔弾を叩き落とし、優が着地するための時間を強引に作り出す。
『んならよぉ、実弾で相手してやらぁ!!』
カウボーイハットは指先でリボルバーを鮮やかに回転させ、再び銃口を優とテテに固定した。
テテはそれを確認するや否や、弾丸のような速度で空中の優へと飛翔する。
『逃げたってもう遅いぜぇ!!!』
放たれたのは、先ほどまでの「捕獲」目的の弾丸ではない。
殺意を孕んだ実弾。
優は一か八かの賭けに出るべく、肉薄するテテに向かって叫んだ。
「テテ! 僕を落とせ! 叩くんじゃない、お前の『能力』でだ!!」
優の言葉に呼応し、テテの手が優の服に触れる。
その瞬間、優の衣類がまるで巨大な岩石にでも変わったかのような凄まじい「重圧」が発生した。
優とテテの体は物理法則を無視した速度で垂直落下し、放たれた弾丸は空しく虚空を切った。
『チッ……森の中に消えやがった……』
カウボーイハットは忌々しげに舌打ちをし、二丁の拳銃をホルスターに収める。
『バカね、ちゃんと狙いなさいよ』
『あぁ? 文句があるならテメェが撃てばいいだろうが! 撃てんだろ、お前だって!』
『私のは魔力を食うから節約。あんたこそ、実弾じゃなくて魔力弾を撃てばいいじゃない』
『ありゃ威力が強すぎる。木に当たると最悪、山火事になるんだよ。少し考えれば分かるだろ』
『あんたの小さな脳みそでも考えられるだけのスペックはあったのね、意外だわ』
『テメェ…マジでぶっ殺すぞ……!』
カウボーイハットが顔を顰め、再び拳銃に手をかける。
『ったく……。そろそろ仕事しないと、あとで慧ちゃんに怒られるわよ。さっさと済ませなさい』
『テメェが始めたんだろうが!』
『うるさいわね…さっさと乗りなさい』
丸いライトを持つ人型の傍白は、ガチャガチャと無機質な音を立てて元のバイクの形へと変形した。
カウボーイハットの傍白は毒付きながらもそのシートに跨る。
『速度を上げるわよ。舌を噛むなら今のうちね』
『噛んだら死んじゃうだろうが!!』
『問題ないでしょ、あんたが死んだって』
怒声を引き裂くようなエンジン音が響き、ピンク色のバイクは優たちが墜落した地点を目掛けて猛然と走り出した。
「……ってて」
優とテテが辿り着いたのは、森の中に不自然に放置されていた「青いクッション」の上だった。
落下中、無数の木の枝に叩かれたせいで体中に切り傷ができている。
だが幸いなことに、どれも浅いかすり傷で済んでいた。
「……まぁ、撃たれたり、地面に叩きつけられるよりはマシか」
立ち上がる優の周りを、テテが心配そうにソワソワと飛び回る。
「大丈夫だって、ありがとな。……それより、魁は無事なのか?」
優の問いかけに、テテは指で「丸」を作って答えた。
(テテがそう言うなら、一応は大丈夫なのか。……喋れないのは不便だな。初期のアンクみたいに、喋れたりしないかな……)
次の行動を決めようとしたその時、遠くからあの不快なエンジン音が聞こえてきた。
「まずい……。うかうかしてると追いつかれる」
優は即座に双眼鏡を具現化し、木々の隙間から音の主を探った。
レンズの先には、高速で森を突き進んでくるピンク色のバイクと、カウボーイハットの姿がはっきりと映っていた。
(こっちに向かってきてるな。いくら森の中では走れないとしても、相手は傍白だ。あの馬力なら……)
優は冷静に計算を弾き出す。
「……ざっと1分強、というところか。僕の運動神経じゃ、この1分で逃げ切るのは不可能だ。それに相手は、地形すら無視してくる傍白。逃げるのは得策じゃない」
だが、優の瞳に絶望の色はなかった。
彼は静かに傍らの剛腕を見上げる。
「……テテ、ちょっと良いか? 作戦があるんだ」




