魔王がクラスメイトにウンタラカンタラ(リメイク版)13話目
ポケットに忍ばせた超劇薬の重みを確認しながら、優は相川診療所の重い扉を背にした。
その瞬間、肌を刺すような「違和感」が背筋を駆け抜ける。
(なんだ……? この、胸の奥を掻きむしられるような感覚は……)
それは理屈でも理論でもない、本能が鳴らす最大級の警鐘。
論理的思考を自負する優が、最も遠ざけてきたはずの「直感」という名のノイズ。
周囲の静寂が、かえって不自然なほどに耳を圧迫する。
(おかしい。こんなのおかしいって、僕が一番わかってるはずなのに……!)
不意に、首筋に針を突き立てられたような殺気が走った。
「ッ!! ヒトガタ!!」
優の叫びと同時に、全身の毛穴から白い光の粒子が噴き出す。
具現化したヒトガタが、優の視界を覆うように割り込んだ。
『危な…い』
ヒトガタの右手が、空中で「何か」を強引に掴み取っていた。
それは、先端が鋭利に尖った、怪しい液体が封入された特殊弾頭。
(麻酔弾……? いや、この速度と威力、人間を眠らせるための代物じゃない。もっと「凶悪な何か」だ)
弾丸を奪い取り、一瞬で組成を分析しようと試みるが、考えるより先に「次」が来た。
飛来した方角――遮蔽物の死角へと飛び込もうとした僕の眼前に、突如として焦げた色の剛毛を持つ腕が突き出される。
「ッ!!」
反射的に一歩下がる。
その巨腕もまた、ヒトガタの左腕がガッチリと受け止めていた。
『てめぇ……やはり転生者だったか!』
腕の主は、二足で歩く狼。
ヒトガタの爪に負けず劣らずの鋭利な牙を剥き出しにし、獣特有の熱い吐息を吐きかけてくる。
「誰だお前……! いきなり襲ってきて、何のつもりだ!」
「俺たちが何者かは、今知るべきことではないはずだ」
狼はヒトガタの拘束を力任せに振り払い、低く構え直した。
(狼の転生者……。狙撃手と前衛、少なくとも二人はいる。人数が不明な以上、長期戦は命取りだ!)
『お前の傍白……なかなかの速度とパワーだな。俺のトップスピードに反応して止めるとは。良い「魂」を宿らせたもんだ』
「そりゃどうも。あんたら、九条の差し金か?」
『九条? 誰だぁ、そいつは』
狼は白々しく首を傾ける。
(……ま、正直に答えるはずもないか。だったら、力ずくでこじ開けるまでだ!)
「ヒトガタ!! 飛ばせ!!」
脳内のリミッターを外す。
優の命令を受け、ヒトガタの全身がより眩い光を放った。
『グッ……おおおお!!』
爆発的な踏み込み。
ヒトガタは一瞬で狼との距離を詰め、その脇腹へ戦車砲のような蹴りを叩き込む。
「ガハッ!」と狼が腕で防御するが、衝撃を殺しきれず、数本の木々をなぎ倒しながら砂煙の彼方へと吹き飛んでいった。
「ヒトガタ! 走れ!!」
優は狼が消えた隙にヒトガタの背へと飛び乗り、狙撃弾が放たれた方角へ突撃させる。
同時に、優は走りながら思考を加速させた。
(念のため、防弾性能を極限まで高めたセラミックプレート入りのベストを――!)
背中で粒子を練り上げ、防弾チョッキを生成。即座に体に密着させる。
――バン!! バン!! バン!!
木々の隙間から、断続的な銃声が響く。
だが、加速したヒトガタにとって、その弾道を見切ることは容易かった。
弾丸を紙一重で回避しながら、優たちは森の奥へと突き進む。
『クッソ…!速すぎんだろ…!!』
「……見つけた。アレも傍白だ。殺れ!!」
木陰に身を隠し、二丁のリボルバーを構えるブリキのカウボーイ。
ヒトガタが殺意を剥き出しにして肉薄しようとした、その時だ。
『ブォォォォン!!』
鼓膜を震わせるエンジン音。
森の中から、無人のバイクが弾丸のように飛び出してきた。
(単車……!? 遠隔操作か!?)
一瞬の判断ミス。
ヒトガタがそのバイクを飛び越えようとした瞬間、空中で姿勢を崩され、優は背中から振り落とされる。
「クッソ……ッ! 何が起きた!?」
地面を転がりながらも着地。
隣にはすぐにヒトガタが立ち塞がる。
だが、目の前に現れたのは先ほどのバイクではない。ピンク色の外装に丸いライトを持つ、バイクが人間の姿に変形したような異形だった。
『ただのバイクだって見くびってると、痛い目を見るわよ? 坊や』
「チッ……てめぇも傍白だったのかよ……!」
『俺も忘れんじゃねぇぞ!!』
背後から風を切り裂く轟音。
先ほど吹き飛ばしたはずの狼が、凄まじい速度で突っ込んでくる。
「ヒトガタッ!!」
『こっちは俺が止めておく! お前らは主魂を叩け!!』
ヒトガタの妨害が間に合い、狼を組み伏せる。
だが、そのままもつれ合うように二体は森の深部へと消えてしまった。
必然的に、優は敵の二人組の前に一人取り残される。
『さぁ坊や。お寝んねの時間だよ』
『安心しなぁ。痛みは一瞬だからよ』
カウボーイがリボルバーの銃口を優の眉間に固定する。
(これは……まずい……!!)
――ドォォォォォン!!
巨大な風船が破裂したような、物理的な圧力を伴う轟音が山中に響き渡る。
だが、優の体に穴が開くことはなかった。
「お前は……!!」
僕の目の前で、弾丸を弾き飛ばしたのは――褐色の土器のような剛腕。
魁の傍白、『テテ』だった。
『ハァ!? どうなってんだ!? 主魂はさっき眠らせたはずだろ! なんで動け………』
カウボーイが、戦慄したように声を震わせる。
『……なんだい? 何か知ってんのかい?』
バイク型の女が問うと、カウボーイは信じられないものを見るかのような口調で吐き捨てた。
『あいつ……もしかしたら、「ニュータイプ」なんじゃないか……!?』




