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魔王がクラスメイトにウンタラカンタラ(リメイク版)12話目

森の中、揺らめく木々のざわめきを切り裂くように、機関銃のごとき重い足音が一直線に突き進む。

その標的は、立ち塞がる一人の少年――魁だ。


「来い……ッ!」


長い鼻面、焦げたような剛毛。

戦車を彷彿とさせる体躯を持つその獣は、人間からは『猪』と呼ばれる。

興奮で目を血走らせたソイツは、地面を削りながら魁の鳩尾へと牙を突き立てようと突進してくる。


「グォォォ! ブビィィ!!」


「テテ!! 今じゃ!!」


激突の寸前、魁の叫びに応えるように、虚空から二本の褐色の剛腕が染み出すように現れた。

姿を見せた『テテ』は、突進の勢いをそのまま利用するように、猪の脳天へ強烈なカウンターの一撃を叩き込む。


「ブヒイィッ!?」


撒き散らされた涎が宙に舞い、猪の巨体は紙屑のように吹き飛んだ。

背後の大木に激突し、痙攣しながらもがく獣に、魁は静かに歩み寄る。


「すまんの。命、しっかり食うたるからな」


魁の言葉と共に、テテの手刀が猪の項を正確に打つ。獣は力なく崩れ落ち、深い眠りについた。


「ふぅ……。ったくよぉ、いっつも手間かけさせやがって。やっぱしカイみたいな都会のモンはダメじゃのぉ。虫も食えねぇんだから、毎日肉を用意せんといかん」


魁は溜息を吐きながら、腰の紐を解いて猪の足を縛ろうとする。

だが、その指先が止まった。

背後で微かに聞こえた、乾いた枝の折れる音。


「ッ!! 誰じゃ!!」


一瞬で空気が凍りつく。

魁は腰のナイフに手をかけ、テテもまた巨大な拳を握り込んで背後を睨み据える。


(……猪の仲間か? だが、鳴き声一つ聞こえんかった。野生の生き物なら、わざわざ隠れて隙を伺うような真似はせん……人間か?)


「出て来い! 居るのはわかっとるけぇ!!」


魁の怒号が森を震わせる。

一瞬の静寂。

そして、茂みの奥から姿を現したのは、二足で歩く狼だった。


(なんじゃあありゃ! 犬……いや、狼か!? 始めて見るぞ、あんな歩き方するんか!)


『ハァ……。だからふざけるなって言っただろ。お前はいつもおちゃらけ過ぎだ』


狼は人間の言葉を流暢に操り、頭をかきながら溜息を吐いた。


『イヤァ〜、だってよぉ。ずーっと仕事モードだと気が滅入っちまうだろ? オレの雑談で楽しませてやろうと思ったの』


『そういうのはシャワーの時だけにしてくれない? 耳障りでイライラするんだけど』


狼の影から、ガシャガシャと金属音を立ててさらに二体の「ナニか」が現れる。

茶色のカウボーイハットを被ったブリキの男と、単眼のヘッドライトを灯したバイクのような機械の女。


『え? 聞こえてたの? どこまで?』


『「オレのマグナムはどんな女もイチコロだ〜、ただし男のケツ以外〜」ってところまで。どこがマグナムよ。豆鉄砲の間違いじゃないの?』


『んだとテメェ、このアマ!』


『大声で叫ばないでくれる?もしかしてアンタのマグナム、空砲しか撃てないの?』


今にも殴り合いを始めそうな二人――いや二体に、魁は「痴話喧嘩みたいじゃな……」と呆れ半分で毒気を抜かれる。


『おい! お前らいい加減にしろ! ……おっと、すまんな。取り残しちまって』


狼男が牙を剥いて仲裁し、ようやく魁に向き直る。


「いや、別に儂は構わんが……。ところで、あんたら何もんじゃ? 見たとこ人間っぽくねぇし、どちらかて言うとテテとか、カイの白いのと同じ類に見えるが……」


魁がナイフから手を離すと、狼男はフンと鼻を鳴らした。


『「テテ」か……。なるほど、お前は転生者のようだな。道理で我々の姿が見えるわけだ』


「なぁ、その『転生者』っつうもんは何なんだ? カイも言ってたけど……あ、カイっつうのは儂の友達じゃ」


魁が優のことを口にすると、それまで睨み合っていたブリキの二人組がピタリと動きを止め、こちらを凝視した。


『少年……。その「カイ」という人物は、どういう人間なんだい?』


丸いライトの女――機械の転生者が、金属音を混ぜた声で問いかけてくる。


「カイがどんな人間か? う〜ん、カイは頭が良くて、ええ奴じゃ。最初は目つきも悪いし、尖ってたから危ねぇ奴かと思ったが、頼れる奴じゃよ! ……まぁ、虫も食えんから、ちと臆病なところもあるがの」


『そうか……。ここに居るのか。彼は……』


「……あんたら、何の用でここに来た? カイと知り合

いか? そもそもあんたら、人間に見えないんじゃが」


『ガッハッハ! そりゃそうさ。オレら人間じゃねぇし。……まぁ、"今のオレらが"だけどな』


カウボーイハットの男がゲラゲラと笑う。


『なるほどなるほど。今は「カイ」って名前で潜伏してるんだね。了解〜』


「……それで、何しに来たんじゃ。カイに用でもあるんか? それともカイの保護者か?」


魁の問いに、機械の女が答えた。

風に揺れる枝の音に紛れるような、冷徹な響き。


『あぁ、違うわよ。私たちは飯島優くんを…いや、そのカイ君って子を――』


その単眼が、不気味な赤色に明滅する。


『――狩りに来たのよ』


「ッ! テテ!!」


空中に浮いていたテテが、殺意を感知して飛翔する。

野生の中で磨かれた魁の本能が、最大級の警告を鳴らしていた。

奴らは遊びじゃない。

本当に、カイを狩るつもりだ。


『君も興味深いが……今は邪魔をさせるわけにはいかないな』


「はや――ッ!?」


テテの重い拳を、狼男はいとも容易く、最小限の動きで回避した。

次の瞬間、魁の視界から奴の姿が消える。

背後。

気づいた時には、魁の体は丸太のような腕で羽交い締めにされていた。


「なっ……離せ! この……!」


『やれ!』


『アイヨォ! マグナムの威力、拝ませてやるぜ!』


カウボーイハットのブリキが、腰から二丁のリボルバーを抜き放ち、魁に向けて引き金を引く。


(まずい……! 銃弾か……!?)


だが、放たれたのは鉛の弾丸ではなかった。

鋭く尖った特殊な注射針が、魁の胸に深々と突き刺さる。


「麻酔…銃……?」


『正確には違うなぁ。正解は……超強力オピ…なんちゃらってヤツだ。ま、転生者なら死にゃしねぇだろ』


『「オピオイド」よ、バカ。ちゃんと覚えなさいよ』


『んだとテメェ、このアマ!』


罵り合う声が、遠のいていく。

急速に体温が奪われ、手足の感覚が消えていく。

どれだけ抗おうとしても、瞼が鉛のように重い。


『すまんが、ここで暫く眠っていてもらう。……目覚めた頃には、全て終わっているだろうよ』


(まずい……。カイが……助け、ないと……)


魁の意識は深い闇へと沈み、力なく崩れた身体と共に、テテもまた光の粒子となって森の霧に消えていった。

地面に落ちた際、鋭い枝の先が魁の頬を薄く裂く。

だが、その痛みすらもう、彼には届かない。


『……傍白は消えたな。さぁ行くぞ、お前ら。ターゲットはすぐそこだ』


三体の異形は、迷いのない足取りで診療所の方角へと消えていった。

森には、気絶した猪と、深い眠りに落ちた少年だけが取り残された。

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