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第2章 守護者の使命 10

ライルがミレイユの朱色の瞳を見つめると、ミレイユが先に視線を逸らした。照れたという雰囲気ではない。


「しっかしなあ、急に渦潮に巻き込まれるなんて……。なかったよな?」

「なかったよ、間違いない。他の渦潮が拡大したわけじゃないし。突然発生したっていうか……」


疲れ切った表情でぼやくジェストに、アインが腕を組んで答える。解析魔法を展開していたアインにもピンと来ていないようだが、ライルはその理由を直感していた。


「渦潮が発生したのは、アインが【マナディセント】で海底にある遺跡ってのを掘り当てた瞬間だ。だとすれば、それを止めるためにピンポイントで渦潮を起こした、ってのが一番納得できるだろ」

「あ〜……ってことは渦潮は自動の迎撃システムみたいなもの? 別に攻撃したわけじゃないのに、潰しに来るなんてやり過ぎじゃない?」

「それだけ近付けたくないんだろ。こんな渦潮を起こせるとんでもない代物なんだ」


渦潮を消して離脱したとはいえ、消せたのはその1つだけだ。他の渦潮は元気に海を荒らしている。ふと、ライルは右手を海底に向けて魔力を込めて念じてみるが、眼前の光景には何の変化もない。


(……何だったんだ。あの瞬間、何かが繋がったのは確かなんだが)


不可解な現象は再現出来ず、ライルは強く脈動した腹の奥を確かめるように、丹田の上に手を置いた。


「ライル、検証ならいくらでも手伝うよ。あたしも気になるし」

「ああ、悪い」


隣に立ったアインが、ライルを見上げてこそっと小声で告げた。どうやら先程に何が起こったのかを、ある程度理解しているようだ。


「えっと……じゃあ、その遺跡が渦潮を発生させてるのは確定なんでしょうか?」

「ライルも言ったように、その線が一番あり得そうかな。何をどうしたらそんなことが出来るのか、理屈は全然分からないけどさ」

「はぁ〜……なんつぅか、一介の漁師にはついて行けねぇ話だな」


早々に白旗を上げたアインに続いて、ジェストは頭を抱えるそぶりもなく理解を放棄した。その中で、ミレイユは両手をパンっと合わせる。


「では! その遺跡を調査すれば渦潮を止める手掛かりが!」

「そうだろうけど……どうやって調べるの? 相手は海の底。行きも出来ないし、行っても水の中だよ」

「う、うーん……」


晴々とした笑顔がアインの指摘で曇っていく。難しい顔で頭を抱えるミレイユを見やった後、ライルは海面に広がる渦潮と、その中に鎮座した孤島を見つめた。


(行き方か……)

「ライル先輩はどう思いますか?」

「……さあな。歯痒い部分だが、確証がないとどうしてもな。それに渦潮の増加を止めるだけなら考えがある」

「え……⁉︎ ほ、本当ですか⁉︎」


驚愕に目を見開いたミレイユに対して、ライルはこくりと頷いた。


「解析魔法が遺跡に届いたことで渦潮が発生、いや作り出された。ってことはだ。ここ3年で増え続けているのは、同じ理屈って仮説が成り立つ」

「つまり……3年前から何かが魔法を当ててるってことですか?」

「ああ。――3年前からなぜ突然規模が拡大したのか。それに解析魔法を当てるだけとはいえ、目標は海底だ。大きい出力な必要になる。しかも増加し続けてるってことは、魔法の照射は継続的。渦潮に巻き込まれてもそれなりに耐える必要がある。それらを満たすものが1つある」


ライルが条件をつらつらの述べたところで、汽笛が響いた。自ずと目を向ければ、大型魔動運搬船が渦潮を迂回して海を割って進んでいる。


「「――あ!」」


その姿を見て、ミレイユとアインは同時に結論に至ったようだ。


「大型魔動運搬船がグラナド帝国から”貸し与えられた“のはおそよ3年前。あの大きさなら解析魔法を届かせるだけのエンジンは詰んでいる。それに、乗組員が言ってただろ。渦潮で進路を妨害されているって。あれは解析魔法への迎撃が原因って考えれば理屈は通る」


既にライルの頭にはその図式が組み上がっていた。大型魔動運搬船の解析魔法が故意か否かの問題はあるのだが。


「それなら、運搬船を調べて解析魔法を止められれば良いんですね!」

「まあ、それも茨の道だけどな……。単純に考えれば海底よりはまだ可能性があるはずだ」

「えー、あれって王国軍が厳しく管理してるんじゃん。無理無理」

「こっちには奥の手もあるからな。上手く転がせば何とかなるだろ」


ちらりとライルがミレイユを見ると、本人もその意図に気付いたようで息を呑んでいた。やがて両拳を握って気合いを入れるそぶりを見せる。その気はあるらしい。


「なら戻るんだな? 運搬船を調べるってんなら、海都に行かないと」

「待て待て。本題を忘れてないか?」


早速操舵室に向かっていったジェストを呼び止める。振り返るなり目を丸くしたジェストに、ライルは一度鞘に納めた長剣を再び抜き払う。


「守護者としての任務はあくまでも魔獣の被害だ。だったら、こっちもはっきりさせておかないと。向こうもそろそろ痺れを切らした頃合いだ」


そう言い切った直後、船がズシンと衝撃を受けて揺れた。ジェストが慌てて辺りを見回すが、船の周囲に渦はない。その代わりに、オクト種やシャーロ種、クラーレ種といった魔獣の群れが辺り一帯を取り囲んでいた。


「う、嘘だろ⁉︎ こんなに……!」

「さっきの渦潮で興奮でもしてんのか……。ジェストさんは操舵室に引っ込んで合図をしたらいつでも出れるようにしておいてくれ!」


真っ先に顔面を蒼白させたジェストを前線から下がらせて、ライルはアインに視線をぶつけた。こくりと頷いて右手を挙げて魔導の準備を開始したアインから、今度はミレイユに呼びかける。


「セイレーン・アズルみたいな上級の魔獣はいない。新米とはいえ、守護者って姿を見せてみろ」

「は、はい!」

「1分間、船とアインを守ればこっちの勝ちだ。来るぞ!」


呼びかけた刹那、海面から飛びかかって甲板に飛来する大型のシャーロ種に見やる。それにライルが振るうのは刀身に水を纏わせた長剣。容易く撫で斬りにした一撃を以って、魔獣の群れが一斉に襲い掛かって来た。

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