第1章 魔獣被害を解決せよ 12
ライル達がイオタ村に到着すると現場はすぐに分かった。漁業組合の前でジェストや他の漁師が集まって会話している。
それから、漁師ではない紺色の軍服に身を包んだ男が2人。
(王国軍……)
ライルとミレイユが魔動車から降りて駆け寄ると、軍人の2人が足音に気付いた。片方はこれ幸いとばかりに下卑た笑みを浮かべる。
「おお、ちょうどいい。人探しの依頼のようだ。お使い当番はお得意だろう」
「期待してないからとっとと行けよ」
「フッフッフ、そうさせてもらおう。行くぞ、トレイド准尉」
「……すみませんが、失礼します」
先導切ってその場を立ち去る軍人の後ろを、もう1人は会釈をしてから着いていく。すれ違う寸前に、ミレイユとちらりと見やりながら。
「……な、何ですか! アレ! お使い当番って!」
「あんなん気にしてたら身が持たないぞ」
憤慨し始めたミレイユに一言だけ忠告して、ライルはジェストと目を合わせた。途端にジェストの眉間の皺が解ける。
「ライル! 良かった来てくれたんだな!」
「済まない、待たせた。それで若いのが行方不明になったんだって?」
「ああ、そうなんだ! クレマンっていう……さっき2人に助けてもらったやつだ」
ライルの想像通りだ。やっぱりと呟く間もなく、ライルは周囲に視線を巡らせる。騒めく漁師達の顔には焦燥が広がっている。
「事務所で休ませていたんだが、気付いたらいなくなっていたんだ。それで人を呼んで家に向かってもいなくてな」
「村の中は探したのか?」
「もちろん! だが、一向に姿が見えないんだ。見かけた人もいなくて」
捲し立てるような状況説明を聞いて、ライルは静かに腕を組んだ。反対にミレイユの顔にはどんどん焦りが浮かんで、ライルの顔を覗き込む。
「や、やっぱり大変じゃないですか! まさか、魔獣に襲われたりとか」
「それはない。もしそうなら少なからず魔力の痕跡があるはずだ」
「そ、そうですか……」
断言したライルの横でミレイユが一先ず胸を撫で下ろした。
(だからって安心は出来ないが……)
痕跡があるといっても、専門でないライルはあからさまなものしかキャッチ出来ない。ほぼ大半は直感による判断だ。
(身投げでもされてると、痕跡すらないだろうが……)
「そのクレマンはさっき魔獣に襲われて憔悴していたが……確か昨日も地引網の時に喚いていたよな」
「あ、ああ! まあ……魔獣の被害に参ってるのは俺達全員だが……あいつはまだまだ新入りなんだ。人より堪えるのは当然だろう」
庇いながらもジェストは言葉に後悔が滲む。自分で言いながら、行方不明の原因を悟ったのだろう。
「……も、もしかして、漁師が嫌になってしまったとか……!」
「それが一番あり得るな。とすれば居心地が良いところに逃げるのが常だが……家にはいなかったとなると、心当たりはないか?」
「それなら多分アルロートだ! あいつは海都出身で、両親が住んでいるはずだから」
「だったら北だな。バスで動いていればむしろ安心だが」
「確か本数って全然ありませんでしたよね……」
海都方面の主要街道が整備されたのは4年ほど前のこと。魔動車の普及に伴い、バスの運用も充実しつつあるが、未だ海都から南部方面は本数が限られている。特に、平日の昼間の移動は困難だ。
「確か組合でも魔動車は持っていたが、クレマンが運転出来る……ことはなさそうだな」
「ああ……。うちで持ってる車はあの通りだ。鍵は管理してるし」
ジェストの指差す先には、2台の魔動車が収まっていた。漁業組合の所有する台数と同じで、駆動を試みた形跡もない。
「だったら海都に向かって北の街道を歩いている、ってのが一番ありそうだ。ジェストさん、俺達は魔動車で追い掛ける。そっちは――」
「俺も連れてってくれ! クレマンが思い詰めてんなら、それは俺の管理不足のせいだ。だから代表として、俺が見つけてやらねぇと……!」
「分かった。けど、状況次第じゃ魔動車の中に引っ込んでてもらうぞ」
「分かってる! ライルの指示に従う。……もしかするとひょっこり戻って来るかもしれない、お前らはイオタ村で待機だ!」
決意を漲らせてライルの言葉に頷いたジェストは、周りの漁師に呼び掛けた。より具体的な指示を出している間に、ライルはミレイユに目線を送って魔動車に駆け出す。
「――ライル先輩! クレマンさんのためにジェストさんを連れて行くなんて……!」
「その方が話が手っ取り早いと思っただけだ。それより警戒しておけよ」
「警戒……? も、もしかして、ライル先輩の直感が示すのは……!」
イオタ村周辺に留まった理由である、ライルの感じた嫌な感覚。ジェストの話を聞くにつれて、いやカエラからの指令が降った時点から、ある方向に収束しつつあった。
「北だ。それも、そう遠くない」
____
イオタ村から出発して十数分。クレマンが徒歩であることを目算するとそろそろ追い付く頃合いだが、海岸線沿いの街道には人影は見当たらない。
(……見誤ったか? いや、けど……)
「あれっ……?」
「何だ! いたか⁉︎」
ブレーキを踏んで減速し始めた矢先、助手席のミレイユが正面を指差して声を上げた。すかさず後部座席のジェストが身を乗り出して、前方の光景を覗き込む。
「す、すみません……! クレマンさんじゃなくて、あそこ、木が倒れてて、つい……!」
「……うん? 珍しいかもしれないけど、そんな驚くようなことじゃないだろっ」
途端に気落ちしたジェストが座席にどかっと座り込みながら言うと、ミレイユは困惑気味にライルの顔を見上げた、
「そうなんですが……えっと、ライル先輩、海都から来る時はあんなのありませんでしたよね?」
「……そうだな。しかも、何かにへし折られてる」
ミレイユの指す倒木は幹の中間で叩き折られていた。何かとても強い衝撃を受けたような折れ方で、さらに倒木の脇の地面には押し潰されてひしゃげた草花が一直線に伸びている。




