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第1章 魔獣被害を解決せよ 11


「漁村から南に車で20分ほど走らせたところに行きたい」


多くは語らずにそれだけ口にしたミレイユの希望を聞き入れたライルは、近辺の調査も兼ねて早速魔動車を走らせた。

助手席のミレイユはそわそわして落ち着かない様子で身嗜みを整えている。

しかし迷いのない道案内で走ること、宣言通り20分後、ライルは出来上がったばかりの駐車場の一画に停車した。魔動車を降りたライルの目には、色とりどりの花が咲く庭園が広がっている。


「……花を買っていくか?」

「いえ……! 報告だけですから」

「そうか。じゃあ俺は」

「顔を見せたいので、せっかくなので一緒に来てください!」

「いや、ちょっと待て。おま」


ライルににじり寄り言い放ったミレイユは、ライルの左手を両手で掴んで引っ張り始めた。その有無を言わさない姿にライルは反論しかけるも、早々に観念して歩き始める。


ハノン霊園。トルクエニド王国内最大の広さを持ち、誰しもが心安らかに眠れると名高い霊園である。

その中をミレイユは一直線に進んで行く。引っ張られるままに後ろを着いていくライルが正面から視線を逸らすと、弔いに来たであろう人々が見えた。


(……ここは苦手だ)


潮風と波の音だけが聞こえる沈黙と、花や陽射しに包まれた温かみの入り混じった空間は、昔から苦手だった。駐車場で待っていると言い切ればよかったと、後悔し始めた矢先、ミレイユが足を止めた。1つの墓標に、しゃがんで視線を合わせて、寂しげな笑顔を向ける。


「久しぶり、お母さん」


そう呼び掛けた墓標には、ミシェル・ストラスと綴られていた。墓標の前には瑞々しいキンセンカが供えられている。


「……守護者になったよ。ライル先輩っていうすっごく頼りになる人と、海の魔獣の被害調査をしてるんだ。お母さんみたいに……助けるんだ」


一瞬ミレイユと目が合ったが紹介させる様子はなく、それ以降はちらりとも目もくれない。顔を見せるという目的は果たしたのだろう。会話に熱中している。


(……もういいよな)


ライルはそっと背中を向けて、駐車場に戻るのだった。


____


「お待たせしましたっ。すみません、待ってもらっちゃって」


ミレイユが戻って来たのは10分ほどした後。少し赤くした目元は追求せずに、ライルは魔動車の車体から背中を話す。


「連れて来てもらってありがとうございました! 近くまで来たから、つい。今の内に守護者になったよって、母に報告と宣言をしたかったんです」


それにしてはどこか浮かない顔をしていると感じるものの、無粋は言わず。ライルは文句だけ口にした。


「それは構わないが、あのくらいなら俺を連れていく必要もなかっただろ」

「えへへ、すみませんっ。どうしても顔を見せたくて。尊敬している先輩ですから!」

「はいはい、そうかよ」


あっけらかんと言い放つミレイユに呆れつつ、魔動車に乗り込もうとした矢先、霊園の静寂の中にピリリと着信音が響いた。不慣れな様子で鞄を探り始めたミレイユを手で制して、ライルは自分の通信機の着信に応じる。発信先は、カエラ支部長だ。


「はい。こちら、シュナイザー」

『はぁーい、ライル。調査の調子はどうかしら?』

「ぼちぼちです」


こちらよりも数段調子の良い声音に対して、ライルは報告には満たないほど端的に返した。だが、カエラは気を悪くするどころか、ほくそ笑んでいるのが通信越しでも分かる。


『ふふん、ミレイユとは上手くやれてるかしら?』

「上手くもなにも、いつも通りですよ」

『なら上手くやってるってことね。まあ、貴方のことだから、直感に従って待ちの状態。その間にミレイユに連れ回されたりでもしたかしら?』

「…………」

『あっ、図星ね! 新米に付き合ってあげるなんて、やっぱり貴方を選んで正解――』


呆れるほど見透かしてくるのはいつものこと。それを得意げに語るカエラに辟易して通信を切り掛けたところで、通信越しに慌てふためいた声が飛び込んでくる。


『待った待ちなさい! 用事があるのよ、貴方達に』

「……何ですか?」

『今イオタ村の近くにいるでしょう。そこからの要請よ。若い漁師の1人が行方不明になったらしいわ』


仕事モードに切り替わったカエラが告げた。若い漁師と言われると、ちょうど1人思い当たる。


「分かりました。これから村に戻ってジェストさんに詳しい話を聞きます」

『ええ、ほんと話が早くて助かるわ。今組合の人員で村中を捜索しているらしいわ。正直緊急事態ってわけじゃないけど、心配ごともあるし。よろしく頼んだわよ!』


そう言い切ると、カエラの方から通信が切断された。納得のいかなさは押し込んで、通信機をしまうなり不安気なミレイユと目が合う。


「どなたからですか?」

「カエラさんだ。どうやらイオタ村の若い漁師の1人が行方不明になったらしい」

「ええっ!? 大変じゃないですか! じゃあ早くっ、すぐ行きましょう!」


一言で通話内容を答えると、忙しなく驚愕と責務感に突き動かされたミレイユが魔動車に飛び乗った。


(……話が早くて助かるな)


奇遇にも先程のカエラと同じことを思いつつ、ライルも乗り込んだ。

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