第29話 桜井シンジ集団
ホームセンター外の自動販売機前で中学生の集団がたむろっていた。男女7~8人グループであり、その中には桜井シンジもいた。
私が一番会いたくない人物なのだが、相手はこちらに気がつき、ゆっくりと近づいてきた。
「リコ、こんな所で何しているの?」
その返事にママは買った材料を見せた。
「ああ、応援団の旗作りの材料の買い出しだよ。アタシが旗担当だからね」
「へっー、リコが作った旗ならセンスいいだろうな」
「いや、テッペイがデザインを描いてくれたよ。私は絵が下手だから助かったよ」
すると、シンジはこちらへ顔を向けてきた。
「時空院くんとは1年時のクラスが同じだったけど、授業中によくノートに絵を描いていたよね? かなり、上手くてビックリしたよ。漫画の模写とかさ……」
そこにシンジの取り巻きの女子が口を挟んできた。
「ああ、分かる。そんなオーラを出しているよね。オタクってやつ? キャハハ」
すると、他の取り巻きもクスクス笑みを浮かべる。あきらかにパパを見下しているのが分かる。私もママもムッとした表情になった。
そこでシンジが大声で怒りだした。
「やめろよ、そういう言い方って良くないぞ。とりあえず、時空院くんに謝れよ」
シンジの突然の豹変ぶりに、先程の女子も怯えた表情を見せた。
「私そんなつもりじゃ……。ごっ、ごめんね、悪気はなかったのよ」
そう言って、頭をペコペコと下げた。
おそらく、この女子はシンジに惚れているのだ。パパに対してはどうでもよくて、シンジに嫌われたくないのが本音だ。だから、形だけの謝罪をしたのだ。
この手の女子は何処にでもいるけど、私の大嫌いなタイプだ。あと、取り巻きの反応からして、このグループはシンジがリーダーなのが分かる。
シンジを、大いに盛り上げるための、桜井シンジの取り巻き集団だ。SOS団みたいなものだ。または幻影旅団にもみえる。
とにかく、ボスであるシンジは両手で拝むように謝ってきた。
「時空院くん、ごめんな。俺達のノリは酷い時があるからさ」
「だっ、大丈夫だよ。気にしてないから……」
パパは本当にお人好しのバカである。何か言い返してやったらいいのに……。
それから、シンジはママをデートに誘ってきやがった。
「リコは花火大会行くの? 8月25日のやつ」
「ああ、今年は部活も終わりだし行くよ」
「マジか? 俺らもこのグループで行くよ。よかったら、一緒に来ない?」
ヤバい、シンジは強引にデートに誘う気だ。
すると、取り巻きの男子が騒ぎ出す。
「ヒュッー、ヒュッー」
「なに、なに、ついに告白、告白?」
シンジは照れながら否定をする。
「バカ、お前らやめろよ。そんなつもりないよ。ただ、一緒に遊びたいと思ってさ」
「まあ、俺らは面白いしね。それにさ、人数多い方が盛り上がるもん」
「確かに竹ノ内さんの浴衣姿見たいよな。スタイルいいから、カワイイだろうな」
などなど、シンジと取り巻きは勝手に盛り上がっていた。
だけど、ママは誘いには乗らなかった。
「ごめん、今年はこいつらと行くからさ。先に約束していたからね」
私とパパの事を言っているのだ。
まさか、シンジは断れるとは思わずに落胆した。
「そっか、残念だ……」
「じゃあ、アタシらは行くわ」
ママはそう言って、シンジ達に背を向けて歩き出した。
その背中にシンジが声をかける。
「リコ、あの返事は忘れてないよな?」
多分、告白の返事の件である。
すると、ママは淡々と答えを返した。
「ああ、分かっているよ。夏休みが終わる頃には答えをだすよ。テッペイ、トキコ帰るぞ」
その言葉にシンジは呆然とした顔になっていた。
自分よりもダサイ奴らとの約束を優先しているから、無理もないか……。おそらく、プライドに傷がついたのだろう。いつも勝っているから、たまには負けを経験してもいいはずだ。私とパパもその場を立ち去った。
それから、旗作りをする日々を過ごした。そうしている内に7月も終わろうとしていた。




