第24話 ママ、ソフト部に戻る
しかし、ママはそれを否定した。
「トキコの意見も間違っていないけど、いつも逃げていたら絶対に後悔するぞ。人間は逃げたらダメな時もあるよ」
そう言われたので、私も感情的になって、つい反論してしまった。
「じゃあ、リコもソフト部に戻りなよ。自分だって逃げているくせに、そんな偉そうに言うなら、口だけじゃなくて行動でみせてよ。だって、テッペイは逃げなかったでしょ?」
ママは正論を言われたので、しばらく黙っていたが、すぐ吹っ切れたように口を開いた。
「そうだな、トキコの言う通りだ。テッペイの行動を見ていたら、自分は恥ずかしくなってきたよ。明日でもソフト部に顔を出してみるよ。部員のみんなに謝って、それで許してもらえなかったら諦めるよ」
あれ? いつのまにかソフト部に戻る話になっている。これって、パパのおかげなのかもしれない。理由はどうあれ、良い方向に流れたので結果的にはオッケーだ。そう思うと、今日は海に来てよかったけど、別の問題点が増えたので対策をしなければならない。そう、桜井シンジという男の存在だ。
シンジはママに気があるのは間違いない。逆にママがシンジをどう思っているかは分からないけど、ヤンキーから助けてもらって惚れた可能性もある。だから、私がパパをシンジより、先に告白させるように動くしかない。
それにしても、ママがソフト部に戻る意思が出来たのは良かった。ソフト部の部員は怒ってないって言っていたし、あとは素直に謝ればなんとかなるはずだ。
私はママの背中を後押しする。
「私もソフト部に謝りに行くのを手伝うよ」
「そうだね、トキコが隣にいてくれたら助かるよ。実はあんまり人生で頭を下げた事がないんだ。だから、本当は不安で一人じゃ怖かったんだ」
「うん、知っているよ。リコらしく、素直に全部話した方がスッキリすると思うよ」
「トキコ、ありがとう」
こうして、私達は元のレジャーシートのある場所まで戻った。
すると、カイトが左右に美女を連れて鼻の下を伸ばしていた。
「2人共、マジでカワイイねえ、3人でホテルに行こうよ」
「行くー、行くー」
「カイトくんって、マジ、面白いねー」
まったく、この男はどうしようもないな。
次の日、私達はソフト部に顔を出した。もうグランドにはソフト部員が集合しており、先頭にはハルミおばさんが立っていた。私とママはソフト部員に対峙するような形になる。
まずハルミおばさんが口を開く。
「リコ、話したいことって何?」
「………」
ママはプライドが高くて、頭を下げることが出来ないタイプなのだ。それでも、沈黙はダメだろう。
私はママの手を握って、優しく耳元でささやいた。
「大丈夫だよ、素直に謝れば許してくれるよ」
ママはこちらを見て無言で頷むいた。
そして、ついにソフト部の部員に頭を下げた。
「みんな、ごめん。アタシは死んだお婆ちゃんと全国優勝する約束をしていたんだ。だから、かなり練習を厳しくしてしまった。私の独りよがりのワガママで、みんなが練習をボイコットするのも当たり前だと思う。でも、みんなが許してくれるなら、もう一度ソフトを一緒にやりたい。いや、一緒にやらしてください」
それから、しばらくの間は沈黙が続いた。部員達はママが頭を下げるのを見て、どうしたらいいか分からないみたいだ。それくらい、ママが素直に謝るのは珍しい事なのだろう。まず、最初にレイカが動いた。
レイカは喧嘩の原因を作った部員である。
「リコ、頭を上げなよ。もう誰も怒ってないよ。お婆ちゃんの件は気の毒だったけど、事情があるなら説明して欲しかったよ。そしたら、みんなの対応も変わったと思うよ。それとも、私達じゃ相談する気にもなれない?」
「いや、そんなつもりじゃないよ……。レイカ、ごめんね」
ママはいたたまれない顔になっていく。
そこにハルミおばさんが入ってきた。
「でもさ、今度からは1人で抱え込まないでよ」
「ハルミ……。でも、私の個人的な悩みだし、みんなに心配させたくなかった」
「リコ、みんなでチームだから悩みも共有しようよ。私の悩みは部長になったプレッシャーだよ。色々と考えたけど、私は部長の器じゃないから、リコに引っ張っていってほしいよ。みんなもそう思っているみたいだよ」
その言葉にママは涙声になっていく。
「みんな、アタシを許してくれるのか? あんなに酷い事言ってさ……」
レイカがママの肩に手をまわす。
「リコが偉そうにしてないとつまらないよ。私のライバルなら、泣くところなんか見せるなよ。ねえ、みんなもそう思うだろ?」
レイカの問いかけに部員達は笑顔で頷く。
それを見たママは涙を流していた。
「みんな、ごめんな……。きょ、今日からまた一緒に頑張るからさ……」
ハルミはママの背中を優しくさすった。
「じゃあ、優勝目指して頑張ろうよ」
「うっう……。ハルミ、あっ、ありがと……」
それから、部員達は手拍子をして、円陣を組み始めたのであった。




