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第23話 白馬の王子様

私はその男に見覚えがあった。そう、俳優の桜井シンジだ。かなり若いけど、特徴的な目元のあたりで分かった。この時代だとママの同級生なはずだ。


シンジが大声をあげる。

「おまえら、女の子が嫌がっているだろう? カッコ悪いことするなよ」


茶髪の男は鼻で笑い返した。

「おいおい、カッコつけマンか? 3人相手に勝てると思っているのか?」

「いや、俺も3人相手には流石に勝てないよ。だから、他の2人には目もくれないで、お前だけを殴り続けてやるよ。このレンガでな……」

そう言って、シンジは手に握ったレンガを見せつけた。


すると、ヤンキー3人組は恐怖で動けなくなった。確かにレンガで殴られたら、最悪死ぬかもしれない。


しばらくして、茶髪男が口を開いた。

「ハッ、頭おかしいガキだぜ。くだらねえ、くだらねえ。みんな、もう帰ろうぜ……」

「おい、逃げるのか?」

「はあ? ガキのくせに生意気なこと言うな。お前、今度会ったら殺すからな。1人で歩くときは気を付けろよ」

茶髪男はそう捨て台詞を吐いて立ち去り、残りの2人も不満顔で後を追った。どうやら、助かったみたいだ。


私はすぐにパパに駆け寄った。

「パパ……。いや、テッペイ怪我はどう?」

「俺は大丈夫だよ、リコは?」

「大丈夫みたい、あそこでシンジと話しているから」

クソ、ママとシンジが仲良くなりそうでヤバイ。もし、パパのライバルになったら、まず勝てないからだ。


シンジがママに手を差し伸べた。

「リコ大丈夫?」

「シンジ、助かったよ。マジでありがとう」


まるで、少女漫画のワンシーンみたいだ。それに桜井シンジは近くで見るとカッコよく、白馬の王子様みたいな感じだ。これって、普通の女子中学だったら惚れてしまうだろ。


そして、王子様スマイルをママに向けた。

「そりゃ助けるよ、リコとは同じ学校だしね。それに女の子が困っていたら、男が助けるのは当たり前だよ。まあ、実は俺も膝が震えていたし、情けなくてゴメンな。アハハハ……」

「アハハ、そんな事ないよ。凄くカッコよかったよ、ありがとね」


それから、ママとシンジはお互いを見つめ合っていた。美少女とイケメンの組み合わせは絵になるなあ。いや、そうじゃなくてさ、これって恋愛フラグが起きてしまったのではないか? ヤバい、ヤバいよ、パパじゃ勝てるわけがない。


すると、シンジはこちらを見た。

「リコの友達?」

「はい、トキコっていいます」

「ハハハ、リコの友達だけあって、優しそうで可愛いね」


私はハートに弾丸を撃ち込まれたような衝撃を受けた。こうやって、さりげなく褒められるのって気分いい。世間の女性が夢中になる俳優なのも分かる。いや、分かったらダメだろ。私の目的はパパとママの恋愛を成就させる事なのだから……。


シンジはパパにも駆け寄ってくれた。

「時空院くん、大丈夫?」

「ああ、ありがと……」

「もうちょっと、体を鍛えた方はいいよ。まあ、元気だしなよ」

そう言って、シンジは笑顔でパパの背中をバシーンと叩いた。


すると、パパは苦しそうに咳をした。

「ごほっ、ごほっ……」

「あれ、痛かった? 時空院くん、ごめん、ごめん」

ううぅ、パパが情けなくて涙が出そうになってきた。


それから、シンジは別れ際にママに激励を送った。

「じゃあ、俺はこれで失礼するよ。とにかく、リコに怪我がなくてよかったよ。あとソフト部の試合頑張れよ。俺もサッカー部の最後の試合頑張るからさ」

「ああ、ありがとう」


うわっ、ママの顔もまんざらではない感じだ。こうして、桜井シンジはカッコよく去っていった。クソったれ、パパは惨めな思いをしただろうな。だって、好きな子の前で、恥をかかされるのは死ぬほど辛いだろうに……。


ママはパパに頭を下げた。

「テッペイごめん、アタシが絡まれたのに巻き込んじまってさ」

「いや、大丈夫だよ。あまりダメージもなかったしね」


そう言いつつも、口のまわりに泥がついていたし、膝も擦り剝けて血が流れていた。あんな、ヤンキー3人相手にパパが勝てるわけがない。タックルなんかしないで、逃げて人を呼ぶのがベストな行動だ。


私はその事を口に出した。

「ふん、弱いのに無理してバカみたい」


しかし、ママが怒った表情を見せた。

「トキコ、そんな言い方ないだろう。3人相手に向かっていくだけで凄いよ。少なくても、逃げる事はしなかったぞ」

「でも、人生は逃げるのも大切だよ。負けたら意味ないもん」


人間って結局は動物だから、どんな時も戦う必要なんてないし、負けると分かって戦う方がバカだ。私は逃げ続けきた人生だから分かるのだ。その代わり、大きく傷つくこともないが、何かを手に入れることもない。


それでも、それなりに楽しいこともあるのだ。心がズタズタになって、自殺してしまう人よりはマシな生き方だと思っている。

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