第12話 不思議な少女(ママの過去編)
それから、2週間が経った頃、真木先生から呼び出された。
「リコ、部活に戻らないなら、応援団の手伝いをしてくれないか?」
「なんで、アタシが……」
「どうせ、やる事ないだろ? 夏休みは1週間に1回ほど顔を出せばいいよ。頼むよ、先生を助けてくれないか?」
おそらく、クラスで孤立している姿を心配しているのだ。変に時間があると、不良になると聞くし……。真木先生には色々と面倒を見てもらっているから、そこには恩義を感じていた。
だから、今回の件は引き受ける事にした。
「別にいいですよ。それで何をすればいいの?」
「まあ、応援の旗を作ったり、体育祭のしおりを作ったりと雑務だ」
「それくらいならやるよ」
まあ、応援団といっても雑務係なので、夏休みに少し学校に顔を出すだけだ。しかし、その口実があれば、ソフト部の人間と接するチャンスもあるのだ。
どこかで、ソフト部のみんなが声をかけてきてくれて、戻れるという安易な考えを妄想していた。真木先生はそうなると考えて、私を応援団に加えたのかもしれない。まあ、そこまで計算していたかは分からないけど……。
そして数日後、夏休みまで1週間が切ろうとしていた。ついに母親に部活が行ってない事を指摘された。
お母さんが夕食の席で説教をはじめる。
「リコ、最近は部活行ってないらしいわね? ハルミちゃんから聞いたわよ」
「そうだよ、辞めたよ」
「どういう事? ちゃんと説明して?」
本当に面倒だし、凄くイライラする。
なので、お母さんが喜びそうな言い訳を述べた。
「だから、受験勉強に集中したいから、部活の時間を削ったんだよ」
「まあ、それはいいわ。あと、その恰好どうにかならないの? 夜の街をブラブラしているようだけど、まさか変な事してないわよね? サチ婆ちゃんが聞いたら……」
変な事とは、テレビで特集されている援助交際とかの事を言っているのだろう。この時代のコギャルはそういう偏見な目で見られていた。だけど、アタシがそんな事をするわけないだろう、無性に腹が立ってきた。
アタシはテーブルを強く叩く。
「サチ婆ちゃんは関係ない」
そのまま、リビングを出て自分の部屋に逃げ込む。その途中で母親の声が聞こえた。
「そうやって、すぐ2Fに逃げるだけじゃない。早く、降りてきなさい」
その言葉をシカトして、ベッドの上に寝転ぶ。
お母さんは兄貴の反抗期の時もこんな感じだった。世間体を気にして、そのストレスで煙草をよく吸っていた。今度は私の反抗期が来ただけの話だ。
この日から、アタシは母親と顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた。一番仲の悪い時期だったと思う。その結果、アタシは家庭でも孤立してしまった。部活、クラスの教室、家庭に居場所がなくなっていた。だから、人気のない神社で過ごすようになった。
神社にはたまにテッペイがいて、そこで色々な会話をするような関係になっていた。クラスメイトに聞いた話だと、テッペイは学校で孤立しているらしい。でも、それだから心地よい関係だったのだ。アタシが話した事も、誰にも言わないから何でも話せたのだと思う。
そして、夏休み前日の終業式後、アタシはハルミと顔を合わせた。
「リコ、本当に夏休みの部活は出ないの? 8月の大会まで、もう1か月しかないよ」
「ああ、ハルミに任せたよ」
「そっか……。気が向いたら来なよ。私はリコの味方だからね」
ハルミはそう言って、部室に向かったみたいだ。
アタシは教室で、真木先生から応援団の予定表をもらった。色々な仕事が書いてあるが、アタシを含めて雑務係は5人いるみたいだ。その中でアタシの仕事は応援団の旗作りで、各組に1本ずつ大きなメインの旗が必要らしい。
旗の真ん中には赤組は鳳凰、白組は白虎、緑組は龍のようなイメージで作るみたいだ。その守り神のデザインも仕事に入っている。そもそも何故、アタシがデザイン役を任せられたのだろうか? 絵はそんなにうまくないのだが……。
まあ、いいや。今日はもう帰ってゴロゴロしたい。アタシは校舎を出て、金網越しのグランド見ながら帰った。ソフト部の方を見ると、みんな楽しそうに練習していた。表情までは見えないが、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。ハルミが部長の方が雰囲気はいいな。これで良かったのだと思う。
アタシは家に帰ると、制服のままベッドに寝転んで、目を閉じてリラックスをしていた。ふと気が付いて目を開けると、夕方の5時半を過ぎていた。どうやら、寝てしまったみたいだ。
家にいると母親と喧嘩しそうなので、夕食まで暇つぶしに散歩に出かけた。いつも通りに学校の裏山に行き、石畳の1000段の階段を上った。辺りを見回すと、今日はテッペイの姿はなかった。
そういえば、美術部の部活で忙しいって言っていたな。話し相手もいないので、兄貴から借りているゲームボーイをやる事にした。最近はこれで暇つぶしをしているのだ。ポケモンゲットだぜぇー。
しばらくすると、女の笑い声が聞こえてきた。
「ワッハハハハハー」
アタシは笑い声の方を見ると、房総中の制服の少女がいた。眼鏡をかけており、オタク風の女って感じだ。童顔で背も低いし、今年に入学した1年生だろうな。
アタシはうるさいので注意した。
「おい、うるせーよ」
すると、眼鏡の少女はオドオドした表情を見せた。
その様子から、学校ではイジメのターゲットにされていそうだ。こんな夜中に大声で笑うなんて、ロクな常識を教えられていないのだろう。しかも、ごめんなさいの一つも言えない。
人様に迷惑をかけても、気にしない家庭環境で育ったと思われる。こういうのは大体が母親の教育が悪いのだ。もし母親がいたら、文句の一つで言いたいところだ。どことなく、少女はテッペイと同じ面影を感じた。
名前はトキコというらしい。この夏にアタシの人生を変えてくれた友達だ。




