第7話 竹ノ内リコ(ママの過去編)
アタシの名前は竹ノ内リコだ。
ちなみに中学3年生の14歳だ。部活はソフトボール部で部長をやっており、今年の夏が最後の大会だ。3週間後には夏休みに入るので、最近は部員の練習を厳しくしている。その理由は全国で優勝したいからだ。じゃあ、何故行きたいのか?
アタシの婆ちゃんに優勝したトロフィーを見せたいからだ。婆ちゃんの名前はサチエ。家族はサチ婆ちゃんと呼んでおり、厳しくもあるが優しい人だ。しかし、サチ婆ちゃんが癌で長くなく、医者によると余命が1年程みたいだ。来年の春には死んでいるかもしれないのだ。
ちょっと話は変わるが、アタシがソフト部に入部するのを、お母さんは反対していた。理由は有名塾に入れて、良い大学に入らせたかったのだ。これは憶測だけど、兄貴が野球部の不良だったので、部活より勉強が大事だと思っていたのかもしれない。
なぜなら、兄貴は部活の仲間とナンパして夜遅くまで遊んでいた。深夜に女を連れ込んだり、仲間と朝まで麻雀をしたりしていた。その光景を見たお母さんは、ストレスで煙草を吸うようになっていた。
ちょっと、ノイローゼ気味だったのだと思う。そのせいもあって、お母さんは部活には入るなと強く言ってきた。もちろん、アタシは断ったのだが、それが原因で大ゲンカになってしまう。
だが、サチ婆ちゃんが仲裁に入って、ソフト部の入部が認められたのだ。だから、アタシは恩義を感じているのだ。せめてサチ婆ちゃんが死ぬ前に、アタシがこの先も頑張っていけるとこを伝えたい。それは言葉ではなく、優勝という結果として伝えたいのだ。
だから、アタシはソフト部の仲間に喝を入れまくった。もちろん、全国優勝をするためだ。しかし、その結果、部員のテンションが落ちていくのを実感した。そう、アタシは1人で空回りしていたみたいだ。今回は人生初の失敗ってわけだ。
小さい頃から、この世は自分中心に回っていると思っていた。勉強は授業中に聞いていれば、大体のことは頭に入ってきた。なので、テスト勉強をしなくても、学年で10位以内に入るのは簡単であった。
スポーツも同じで、他人が見本を見せてくれれば、大体の事をこなすことが出来た。そのせいもあって、アタシの周りには人が常に集まっていた。だから、部活の練習も同じ事だと思っていた。アタシが頑張っている所を見せれば、みんなも黙って付いてきてくれると信じていた。
しかし、その幻想も今日で崩されることになるとは思わなかった。今日の練習は夕方4時からで、アタシはユニフォーム姿でノックの準備も完了していた。しかし、現在の時刻は4時10分過ぎなのに、グランドにいるのはアタシ1人だけだ。
他の誰も練習には来てない。昨日までは全員が集まっていたのに……。その時、こちらに向かって走ってくるポニーテールの少女がいた。副部長の二階堂ハルミだ。アタシの小学生時代からの親友でもあり、ソフト部ではキャッチャーをしている。
ハルミは血相を変えて口を開いた。
「リコ、大変だよ」
「んっ、どうした?」
「今はさぁ、部室に行ったけど、もうみんな部活やりたくないってさ」
「どういうこと? ちゃんと説明してよ、ハルミ」
どうやら、アタシに原因があるみたいだ。最近の練習が厳しすぎて、更に言葉もキツイ所が嫌われたみたいだ。部員のみんなは部長をハルミにするなら、練習に出てもいいとボイコットしているらしい。
当然、アタシは腹が立った。
「はっ? 甘えんなって話じゃない? ハルミもそう思うでしょ?」
「私はリコの気持ちは分かるよ。もう、長い付き合いだしさ……。でもさ、現実的に9人いないと試合に出られないよ」
「まあそうだけどさ……。じゃあ、ハルミが部長やるの?」
ハルミはため息をつく。
「私は部長をできる器じゃないよ。みんなのフォローは出来ても、引っていくパワーはないもん。私はリコが形だけでもさぁ、みんなに謝れば済むと思うんだけど……」
「なんで? アタシは悪くないでしょ?」
「バカ、そんなの分かっているよ。私はサチ婆ちゃんの件を知っているけど、部員のみんなは知らないし、それにリコは同情されるのは嫌いでしょ? でも、事情を教えれば少しは理解し合えると思うの。今のリコは心に余裕がないみたいだし……」
ハルミの言う通り、サチ婆ちゃんの件は部員には話していない。変に同情されるのも嫌だし、気を使われるのも嫌だ。それに人に弱みを見せたくない。見せたとたんに、舐められて威厳がなくなるのを知っているからだ。




