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第6話 ママ、約束する

しかし、しばらくして話題は再び重くなる。


それはカイトが病院に行った話だ。

「今日、サチ婆ちゃんの所に行ったけどさ、リコのことを心配していたよ」

「そっか、そのうち顔を出すよ」

「まあ、喋れるうちに顔を出してやれよ。あの様子だと来年までもつか……」


そこでママがテーブルを叩く。

「やめてよ、そんなこと言うのは……。医者だって、来年まで大丈夫って言っていたでしょ。サチ婆ちゃんは死なないもん」

そう言って、リビングを飛び出していった。いつもの事らしく、カイトやお婆ちゃんは動くことはない。


カイトはヤレヤレと言わんばかりに、ため息をついた。

「ふう、リコも反抗期だな、まだ部活に戻ってないのかよ?」


キョウコお婆ちゃんも箸を止めて、ため息を深く吐いた。

「あの子、本当はソフト部に戻りたいのよ。でも、頑固な子だからね。自分自身にイライラしているのよ」

「ガハハ、オフクロに似ているよな?」

「いや、カイトでしょ? 2人とも手のかかる子供だったわよ。だから、私は育児ストレス凄かったのよ。また思い出したら、煙草吸いたくなっちゃったわ。ちょっと、外で吸ってくるわ」


すると、カイトは珍しく、心配そうな顔を見せた。

「オフクロ、煙草やめてなかったのかよ? 今回も禁煙失敗かよ」

「うるさいわね、こっちは色々大変なのよ……。あっ、トキコちゃんはゆっくり食べてね」

そう言って、こちらへ笑顔を見せた。私は無言で頷いて返事をした。


仲の良い家族だけど、それぞれが事情を抱えているのが分かる。20年後、キョウコお婆ちゃんは煙草で肺を悪くして、老人ホームで老後を暮らすことになる。たまに会いに行くと、咳をゴホゴホと苦しそうだったな。


もし、私がこの時代に禁煙させたら、未来では一緒に暮らせるかもしれない。でも、息子のカイトが言っても禁煙しないから、私から言ってもやめないと思う。だって、ここでは赤の他人なのだから……。


そして、夕食の続きをしたが、ママは席に帰ってくることはなかった。おそらく、自分の部屋で不貞腐れながら、音楽でも聴いているのだろう。私は夕食を終えるとママの部屋に向かった。


部屋の中に入ると、ママは大きいイヤホンを頭につけていた。大好きな安室奈美恵でも、聞いているのかもしれない。


私に気が付くと、イヤホンを取って話しかけてきた。

「おう、さっきは悪かったね。ダサイと思ったろ?」

「いや、大丈夫だよ。みんな心配していたよ」

「そうか……」

ママは入院しているサチ婆ちゃんに会いに行かないのかな? 


カイトの口ぶりだと、あんまり病院へ行ってないような感じだったな。ママの性格なら、毎日でもお見舞いに行きそうなのに……。何か行きたくない理由でもあるのかな? 


私がいる世界だと、夏休みに入ってすぐ死んだって聞いたな。でも、日付までは覚えていない。ただひたすら印象の残っているのは、ママが涙を目に浮かべていた光景だ。正直、あんな顔は見たくない。


まあ、聞けることは聞いた方がいいかもしれない。

「リコ、質問してもいい?」

「ああ、いいけど……」


私はママに後悔してほしくなかった。だから、ダメ元で行動してみた。

「ごめん、余計なお世話だと思うけど、お見舞い行った方がいいと思うよ」

「ああ、分かっているよ。でもさ、私にも行きたくない理由がある」

「それ聞いてもいい?」

「ああ、実は……」


どうやら、サチ婆ちゃんとママは約束をしていたらしい。それはママが部活を引退するまで、サチ婆ちゃんと会わない約束だ。理由はソフト部の練習に集中してほしいからだ。この時代の房総中のソフト部はかなり強かったらしい。全国で優勝できる可能性もあるみたいだ。


その代わりに夏休みの練習はハードであり、朝から晩までミッチリやるらしい。それを聞いたサチ婆ちゃんは、毎日ママに病院に来てもらうことは、かなりの負担になると思ったのだ。


それもそのはず、入院している病院は車で20分もかかる。ママが自転車で行ったら、もっと時間がかかるだろう。それに田舎の夜道は暗くて危ない。これはサチ婆ちゃんからママへの優しさだ。


もちろん、ママは毎日会いたいと反対したみたいだ。だから、2人はとある約束をしたみたいだ。


これは1か月前の話らしくて、場所は入院先の一室である。ベッドに横たわるサチ婆ちゃんが手を差し伸べた。


すると、ママが強く握り返した。

「サチ婆ちゃん、夏休みは毎日来るよ。そしたら、寂しくないだろ?」

「リコ、私の事は大丈夫だよ。とにかく、夏休みは部活に集中しなさい。婆ちゃんね、来年までは絶対に頑張るからね。だから、リコも最後の部活を頑張りなさい」


ママはその言葉に感動して、涙が止まらなかったそうだ。

「ねえ、ほっ、本当に……。ぜっ、絶対に死なない?」

「お婆ちゃんがリコに嘘をついた事あった? 私が嘘を嫌いなのを知っているでしょ? お婆ちゃんのこと信じてよ。来年まで絶対に死なないよ、リコと約束するよ」

「うん、私も約束するよ。絶対に全国優勝してくるよ」


2人は小指を差し出して、約束の指切りをしたらしい。しかし、この頃すでにママは部活で孤立しつつあった。ママは部長になってから、全国に通用する練習をひたすら考えていた。


試行錯誤のために、部員達は徐々に不満をためていく。それから、サチ婆ちゃんとの約束もあり、更に練習メニューを増やしていった。その結果、全員がグランドに現れない日が訪れたのだ。どうやら、これがママの人生で初の挫折だったらしい。


すると、ママが中学時代について語り始めた。それは3週間前の出来事であった。

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