第5話 若き日のカイト
いつもの見慣れたリビングに変化はあまりない。
ただテレビが液晶ではなく、ブラウン管のテレビが置いてある。その下にはネットでしか見たことのないVHSのデッキもあった。ソファやテーブルとかの配置場所は一緒だ。
そのソファには1人の人物が座っていた。私の伯父である竹ノ内カイトだ。芸能人になるだけあって、若き日の伯父はカッコよかった。まるで、湘南のサーファーみたいな印象だ。しかし、足を大きく組んで、偉そうなポーズなのがイラつく。
ママが嬉しそうにカイトに声をかける。
「兄貴、久しぶりぃー。帰ってきていたの?」
「ああ、俺は来月に上京するからな。もう、アパートも解約してきたぞ。まあ、メインはサチ婆ちゃんの見舞いだよ」
「ありがと、サチ婆ちゃんも喜ぶよ」
これはママのお婆ちゃんの事を言っているのだ。私にとっては曾祖母であり、名前は竹ノ内サチエというらしい。だから、サチ婆ちゃんなのだ。
そういえば、ママが死に目に会えなかったと後悔していたな。珍しく目に涙を浮かべていたから、頭の記憶に残っていた。確か夏休みに亡くなるはずだけど、この場でそんな事を言えるわけがない。私には何も出来ないのだ。ママ、ごめんね。
ママはカイトが上京することを知らなかったみたいだ。その事を聞く。
「上京するのはいいけどさ、仕事はどうするの?」
「ああ、もう2か月前に辞めたわ。俺はこれから芸能界で生きて行くよ。この容姿を生かすべきだぜ。ガハハハ」
「本当に勝手だなあ……」
まあ、20年後には誰もが知っている俳優になるから、この時の判断は間違ってはいない。
そして、カイトは私に話題を移してきた。
「それより、そっちの眼鏡の子は?」
「わっ、私はトキコです。ママ……いや……。そっ、そうじゃなくて、リコの友達です」
カイトは私の挙動不審な喋り方に、ゴミを見るような目でこちらを見てきた。
「ふーん、そうか……。なんか、パッとしない子だなあ。オタクってやつか?」
クソ、初対面の女子中学生に何様のつもりだ。可愛い、可愛い姪っ子だぞ。
すさかず、キョウコお婆ちゃんがフォローする。
「あら、可愛い顔しているじゃない。カイトもそう思わない?」
「あっ、うん……。ところで、今度の休み空いている?」
「ええ、空いているわよ。なんで?」
「眼鏡を買いにいこうぜ」
くやしい、くやしい、くやしい、遠まわしにブスって言っているのと同じだ。確かにイケメンで、長身でスタイルもいいので、素人目に見てもオーラはある。しかし、性格はクズそのものだ。
たしか、原宿でスカウトされて、雑誌モデルからスタートしたはずだ。自分をこの世界の主人公だと思っているのだろう。だから、こういう人間はそういう性格になるものだ。
一方のママは冷めたような目つきをする。
「はあ、芸能界なんて安定しないよ。お母さんは兄貴を止めないの?」
「やらないより、やって後悔する方がいいわよ。それより、リコは部活には戻らないの? 部員の子とあんなに仲良かったじゃない?」
「いや、もう友達じゃないよ。私の練習がキツイとか言って、ボイコットしやがったし……。どいつもこいつも、根性がなさすぎだよ。試合に勝つ気がない奴らとはやりたくない」
「そうなの? まっ、リコが後悔しないなら好きにしなさい」
「ふん、絶対に後悔なんかしないし……」
そう言いつつも、ママの表情には寂しさが見えた。なにかに焦っているように感じる。
真木先生から聞いた話によると、ママはソフトボール部で部長だったはずだ。しかし、練習を厳しくし過ぎて、部内で孤立していったらしい。
多分、自分と同じレベルを求めて、部員がついていけなくなったのだ。天才には凡人の気持ちなど分からないものだ。おそらく、キョウコお婆ちゃんもカイトも事情を知っているのだろう。
だから、2人が話題を変えてきた。
「そろそろ、夕食にしましょうか?」
「そうだな、オフクロの飯も久々だ」
キッチン側のテーブルには料理を用意していた。
4人はテーブルを囲みながら、お婆ちゃんの手料理に手を伸ばす。中華料理がメインであり、どれも舌がとろける美味しさだった。




