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第32話 トキコ、過去へ行く

スマホの時刻を見ると、夜の6時半過ぎになろうとしていた。


この時間になってくると、少し涼しくて過ごしやすい気温になる。私は1000段の階段のある方へ歩くと、そこには夕日に包まれた街並みが見えた。


まもなく、日が落ちるので、この景色を目に焼き付けることにした。もっと、良く見えるように階段のギリギリまで近づく。その時、私は小石に躓いてしまい、体のバランスを大きく崩してしまった。


まるで酔っ払いのサラリーマンのように足がもつれた。そして、水泳選手のように、階段に向かって飛び込んでしまった。その瞬間から、全ての光景がスローモーションに見えた。


このままゴロゴロとアルマジロのように、階段を落ち転がっていくしかない。全てが石畳の階段なので、何処かで頭を打って死ぬだけだ。くそ、本当にドジで嫌になる人生だった。


あっー、あっー、こんな死に方するなら、色々やっておけばよかったな。まあ、一度くらいは彼氏を作って、遊園地デートをしてみたかったな。いや、それよりゲームの新作をもうやれないのは辛い。他にも高級フランス料理でも食べてみたかったな。


ああ、くだらない欲望しかないのが情けない。何よりも、人生で1度も真剣になった経験がなく終わるのが情けない。こうなるなら、100パーセント無理だと分かっても、漫画の1作品でも描いて投稿でもすれば良かったな。


そうすれば、夢も諦めでもついたはずだ。まあ、もう遅いか……。そして、私は自分の死を受け入れて目を閉じた。それから、どのくらいの時間が経ったか定かではない。


いよいよ、私も死んだのか? ここは地獄かな? 


だが、自分が死んだ実感がなく、目の前はひたすら暗闇が広がっていた。いや、恐怖で目を閉じているから暗いだけだ。んっ? 目を閉じられるって事は生きているのか? 私は恐る恐ると、自分の瞼をゆっくりと開けた。


そこには信じられない光景があった。私の顔が石畳の階段に当たる寸前で時間が止まっていた。足は空に向かって逆立ちのような状態で、まるで名古屋のシャチホコみたいだった。


よくある漫画の光景であり、自分以外の全ての動きが、完全停止されている状態である。だが、私の意識はハッキリとしていた。現実にはありえない状態であるので、自分の頭がおかしくなったのかと思った。


もしかしたら、病院のベッドで昏睡状態になっており、リアルな夢でも見ているのかもしれない。そう思った時に、手首に巻いたミサンガが光り出した。すると、その光は私の全身を包んだ。それから、気が付いたら賽銭箱の前に寝転んでいた。


すぐに自分の体を確認するが、何処にも怪我はないみたいだ。ふとスマホを見ると、時刻は6時半になろうとしていた。ということは、ミサンガが光ったのは夢の可能性が高い。おそらく、私はパパのミサンガを巻いた後に、疲労の末に寝てしまったのだ。


それで、夢の中で階段から落ちたっていうオチだ。確かに昨日は最悪の三者面談をして、ソフトボール部で恥をかいて、1000段の階段を登るなどの疲労がピーク状態だった。だから、変な悪夢を見たのだ。


まさか時間が停止するなんて、変なアニメや漫画だけの話だけに決まっている。いくらオタクでも、妄想と現実の区別がつかなくなくなったら廃人だ。


私はくだらなくて大声を出して笑った。

「ワッハハハハハー」


だが、この時の私はタイムスリップをしていたのだ。そう、パパとママが14歳の時代に……。

第1章完結

次回から、1997年の世界がはじまります。

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