第30話 トキコ、家出する
私は家に帰ると、自宅の鍵で玄関のドアを開ける。
それから、急いで階段を上って自分の部屋に入った。ベッドの下には貯金箱を隠しており、それを取り出した。中にはコツコツと貯めた6万と小銭が入っていた。よしよし、これだけあればしばらくは十分なはずだ。
他には金目になるものはないかと辺りを見渡す。すると、本棚にカイトのアルバムを見つける。このアルバムは伯父であるカイトのスキャンダル写真が入っているはずだ。
10代の頃に喫煙や飲酒などしていた写真であり、週刊誌に売れば数万くらいにはなるはずだ。いつも、私の事をバカにしているから、これくらいの事は許されるはず。
あとは1人暮らしに必要なものを考える。スマホ、携帯ゲーム機、漫画、下着、歯磨きセットとタオルが数枚あればいいだろう。それらをスクールバッグに無造作に詰め込む。
あとは食べ物も必要だと思い、階段をドタドタと降りてキッチンに向かった。キッチンにあったクッキーとかお菓子をバッグに入れた。カバンがパンパンに膨らんだので、もうこれで十分だろう。あとは現地で調達すればいいだけだ。
それに早くしないと、ママが帰ってきてしまうかもしれない。そしたら、この家出計画も水の泡だ。
しばらくすると、パパがキッチンに入って来た。
「あれ、もう帰ってきたのか? そういえば、今日は終業式だったな」
「………」
私はパパを改めてマジマジと見る。いかにも体力がなさそうで頼りないオーラが出ている。ふう、自分を見ているようでなんか辛い。こんなんじゃ、普通のサラリーマンにも就職出来ないはずだ。そりゃあ、ラノベ作家でオタクにもなるわ。
だから、私は最後に大声でパパを罵倒した。
「全部、パパのせいだからね。バカァアアアー」
「えっ、どうしたの? 何かあったの?」
私はパパの質問に答えることなく、玄関を素早く飛び出した。しかし、私に行く場所なんてないのだ。
家出の定番といえば、友達の家に転がり込むのがベストだ。でも、泊めてくれる友達なんて、幼馴染のユキちゃんしかいない。しかし、ユキちゃんとも今日で絶交してしまった。
それなら、駅まで行って東京にでも逃げようかな。いや、ママの性格からして、私の行きそうな場所は見張っていそうだ。じゃあ、今日は公園で野宿するか? いや、夜になったら警察に職務質問されそうだ。
とりあえず、今日は学校の裏山に行って一晩過ごそう。あそこは森の中に神社があって、一日位なら過ごすのに問題ないはずだ。さすがに夜の山で場所を特定するのは不可能だ。
そうだよ、明日は早く起きて東京へ旅立とう。人生に詰まったら、上京するのが若者らしくてカッコいい。秋葉原や池袋には、死ぬ前に1度は行ってみたいと思っていた。オタクも腐る程いるし、新しい仲間でも作って、時空院トキコの新しい人生をスタートさせよう。
私は途中道のコンビニで水と食料を買い込んだ。500mlペットボトルの水とカロリーメイトのような日持ちする健康食品だ。それらをスクールバッグに無理やり押し込んで、神社のある裏山へ向かって歩いて行く。
カバンは結構パンパンで、はっきりいって重い。いや、重すぎるのだ。すぐに腕がプルプルと限界になっていく。これは運動苦手系には相当しんどいのだ。夕方とはいえ日差しは強く、額と背中が汗だらけになってしまった。
正直言うと、暖かいシャワーを浴びて、クーラーで冷えた部屋のベッドでダラダラとゲームをしたい。そうだよ、ママに謝ればいいだけだ。それで、いつも通りにヌクヌクと暮らしたい。いや違うぞ、時空院トキコ。今回はママにあそこまで啖呵を切った以上、家には帰るのは絶対にダメだ。
しばらくすると、裏山の入口へ着いたのだが、神社がある場所までは石畳の階段を上る必要がある。この階段は1000段もあり、運動部の連中がトレーニングによく使っているのだ。
私は階段を見上げると、距離もかなり長くて、石畳の圧迫感が半端ではない。だが、私は臆することなく1歩1歩登り始めた。ちょうど80段目に到達したところで、休憩をしようと階段に腰を下ろすと、汗が止まらずに呼吸も息苦しかった。
なによりも、バッグが重ってえぇ……。そう、バッグが重すぎるのが原因の一つだ。漫画やゲーム機なんて入れるんじゃなかったよ。ひとまず、ペットボトルの水を飲んで休憩して、残りの920階段を登り始めた。何度か途中で休憩しつつ、なんとか頂上まで着くことが出来た。
すると、目の前には寂れた神社が迎えてくれた。この時間帯には人影はおらず、蝉の音と綺麗な夕日があたりを包んでいた。もう、すっかり夏の季節だ。この神社の正式名は時空院転生神社と言うらしい。私の苗字が入っているので、何か変な感じがする。
聞いた話によると、時間を司る神様の神社らしい。伝承では身分の異なる若い侍が姫に恋をするが、戦で結ばれる事はなく2人は死んでしまうらしい。
だが、それを見た神様は同情をして、時を超えて結ばれるように、死んだ2人を転生させたという話だ。うーん、昭和のドラマでありそうだ。




