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第29話 はいはい、私が全部悪いですよ

ママが私のポンと肩をたたく。

「トキコ、この先もずっと何も行動しないつもり? 振れば当たる可能性だってあるのに……。大人になったら、自分の力で生きていかないといけないんだよ」

くそ、ママは何でこんな事をするのか……。実の娘が可愛くないのか? そう考えると、激しい憎悪と怒りが心を支配した。


そこにエリカが手を差し伸べて来た。

「トキコ先輩、ドンマイです。だけど、初心者はそんなもんです。ユキ先輩の球を最後まで見られるだけ凄いですよ」

そうだよ、エリカは優しい子だ。それは分かっている。私がソフトボールを下手だと分かっても、こうして先輩として立ててくれた。


しかし、時に優しさは残酷である。こういう事をして、どんな惨めな気持ちになるのか分からないのかな? マラソン大会でビリになった人や、受験に失敗した人がいたら、慰められても嬉しくないはずだ。


こういう時は、ほっておいてくれるのが一番ありがたいのに……。私はエリカに対してウザイという気持ちになった。そんな事を考えていると知らず、笑顔で手を差し伸べている事に腹が立った。だから、私はその手をビンタのように振り払ってしまった。


エリカが顔を顰める。

「痛っ……」

それを見たユキちゃんは近づいてきて声を荒げる。

「トキコ、何をやっているんだよ? エリカは全然悪くないだろ。今の手を振り払ったことは謝りなよ」

私はユキちゃんが声を荒げたのでビックリした。いつも、私の味方だったのに……。


親友なら気持ちを察して、こっちの味方になってくれてもいいでしょ? 私は大勢の前で公開処刑をされて、更に涙まで見せてしまって、死にたい位に辛いんだよ。


なので、私も声を荒げてしまった。

「ふん、うるさいな。ユキちゃんは親友だったと思っていたのに最悪だよ。普通だったら、こんな勝負を止めるのが真の親友でしょ? これだけ長い付き合いだったら、私が打てないなんて100%分かる事じゃん。でもさ、結局はママにビビって気持ちよく投げてさぁ。ガッカリだよ」

「いや、これはリコさんの意見に賛成だよ。トキコの為にやったと思うよ。それと、エリカの手を振り払った事は別でしょ。トキコ、エリカに謝りなよ」


そこへ、エリカが仲裁に入ってきた。

「ユキ先輩、全然気にしてないから大丈夫ですよ。私がプレッシャーを与えてしまったのがいけなかったんですよ。トキコ先輩はてっきり、ソフト経験者だと思っていましたので……」

「ちょっと、エリカは黙っていてよ。トキコ、早く謝りなよ」


正直、信じられなかった。あの優しいユキちゃんが敵意の目で見ているのだ。結局はユキちゃんも見下していたのだろう。自分より下がいる安心感が欲しくて、私みたいなどうしようもない奴とつるんでいたに違いない。


ああ、ユキちゃんと本気で喧嘩したのはいつだったか? 私の記憶の中では、小学校の4年生の頃だったかな? それから、1週間は口を聞かなかったけど、今回は永遠の絶交になりそうだ。


私も激しい怒りが爆発して、感情を止める事が出来ないからだ。

「嫌だ、私は絶対に謝らない。それとユキちゃんとは絶交だから、今日から二度と声かけないでね。もう、顔も二度と見たくないよ」

そう言うと、ユキちゃんは悲しそうな表情を見せたが、それ以上は何も言ってこなかった。そこにママが割り込んで、私の頭にゲンコツをした。


ゴツンという音と共に頭部に痛みが走った。

「うぐっ……」

「トキコ、いい加減にしな。ユキちゃんとエリカに謝りなよ」


そうか、みんな私が嫌いって事が分かったよ。ママも説教して自分だけ気持ちよくなって、エリカも偽善で自己満足して、ユキちゃんも心の中では見下していた。私がこの人達の前から消えればいい話なだけだ。


私はわざと目立つように大声をあげた。

「はいはい、私が全部悪いですよ。ママに似なくて悪かったですよ。もう、1人で生きて行くから、みなさんには関わらないよ。じゃあ、後は勝手にやりなよ。さよならぁー」

私はそう言うとスクールバッグを握りしめて、グランドから校門に向かって走り出した。


後からはママやユキちゃんの声がする。おそらく、待てとか逃げるなとか言っているのだろう。だけど、そんな事には構いもせずに全力疾走する。グランドの真ん中には陸上部が運動しているが、そんな事は気にもせずに突き抜ける。


すると、陸上部の連中は蔑んだ目で見てきた。まあ、どうでもいい。もう、この学校に来る事はないのだから……。今日から、私は時空院家の家を出て1人で生きて行くのだ。つまり、家出をするのだ。学校、家族、親友、全てを失った日を忘れない。

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