表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/84

第23話 私を生んでほしくなかった

私がここまでママに逆らうのは生まれて初めてだ。そのせいか、ママは徐々に優しい口調になっていく。

「うんうん、分かるよ。私だって負ける時はあるよ。でも、人のせいにしちゃダメでしょ?」

「ちっ、違うよ、全てはパパのせいだよ。私はパパの遺伝子に似たから、スポーツも勉強もダメな人間になっちゃったんだ。もう、どうにもならないよ、何もかも頑張りたくないもん」

「じゃあ、どうしたいの?」


私は目に涙を浮かべながら、親に言ってはいけない言葉を言ってしまう。

「私を生んでほしくなかった」

その瞬間、ママは私の頬にビンタを喰らわした。


教室にパーンという乾いた音が響き、ママは大声で怒鳴った。

「トキコ、いい加減にしな」

私は声を出して子供のように泣いた。

「うわぁああああああん、うっうううう……」


ビンタはあんまり痛くなかったが、自分の情けなさで感情が爆発してしまった。この世から、消えてしまいたい感情だけが残った。消えたい、消えたい、消えたい……。


そこに真木先生が手を拝借して止めに入った。

「はいはい、そこまで……。ちょっと休憩入れようか? リコは悪いけど少し席を外してくれないか? 俺が娘を落ち着かせるからさ」

「ええ、分かりました。真木先生、すいません。バカ娘がご迷惑をかけて……」

「いや、こういう事は結構あるのよ。中学生って繊細な時期だから、三者面談で喧嘩になる事は多いくらいだ。別にリコの娘だけじゃないから気にするな。そうだな、30分位席を外してくれ」

「じゃあ、ちょっと化粧を直してきます」

ママはバッグを抱えて教室を出て行った。


それから、真木先生が優しく話しかけて来た。

「時空院、何か飲むか? 先生が奢ってやるよ」

「べっ、別にいらないです。うぅうう……」

実際は喉がカラカラに渇いていたが、同情されているようで嫌だったので断ったのだ。


だが、先生もやっぱりプロなのだろう。私が飲みやすいプランを提案してきた。

「いや、先生の喉が乾いているから飲みたいだけだ。1人で飲むと味気ないから、一緒に飲んでくれると嬉しいよ。何でも奢るからさ、1杯付き合ってくれよ。これは先生からのお願いだ」

そう言って、真木先生は頭を深く下げた。

「それなら、いいですよ」


私のプライドを保ちつつ、断れないような誘い方であり、気を使ってくれているのが分かる。すると、先生は笑顔で席を立って言った。

「じゃあ、自動販売機のある場所までいこうか?」

「はい」


私達は教室から出て、自販機コーナーのある場所へ移動をした。とはいっても、職員室の近くに自動販売機が3台あるだけだ。全てが来客用で、生徒の利用は禁止されている。他には筒形の灰皿とベンチが置いてある。


私がベンチに座ると、真木先生が笑顔を見せた。

「時空院、何を飲みたい?」

「じゃあ、コーラで……」


先生は自動販売機にお金を入れて、コーラを買って渡してきてくれた。

「ほら、キンキンに冷えているぞ」

「あっ、ありがとうございます」


私はコーラの蓋を開けて、ゴクゴクと喉に押し込むと少し落ち着いた。真木先生とはほとんど話した事なかったけど、凄く優しい先生だと思った。でも、私とママのことを心の中では比較しているはずだ。


私は思い切って、真木先生に本音を聞いてみた。

「私はママと違って問題児だと、先生も本音では思っているでしょ?」

「いや、そんな事ないよ」

「絶対に嘘だよ、大人はすぐに嘘をつくもん。いつも綺麗ごとばっかりだもん。誰も本音を言わないし、信じられないよ」


真木先生はポケットから煙草を取り出す。

「時空院、煙草吸ってもいいか?」

「別にいいですよ」

「ハハハ、時空院の言う通りだな。大人になると本音を言わなくなる。いや、言えなくなるのさ。ここだけの話だけど、俺だって学校に行きたくない日もあるしね。俺は45歳だけど、中身は中学生の頃のままだよ」

「ええ、本当ですか? 中身が中学生だって?」


私はにわかに信じられなかった。普通は大人になるとつまらない人間に成長するはずだ。


真木先生は煙草をくわえて火をつけると、煙と本音を吐いてくれた。

「ああ、性格は基本変わらないよ。でも、大人になって嘘をつくのは上手くなったな。だけどな、それは嘘をつきたいわけじゃなくて、人間関係を円滑にさせるための嘘だ。これは俺の考えだけどな、全ての人間が本音を吐き出していたら、常に争いが絶えない世界になってしまう。だから、大人は嘘をつくのだと思うぞ」


うーん、確かに先生の言うことは正しいと思う。ブスにブスと言ったり、ハゲにハゲと言ったり、バカにバカと言ったら、人類は殺し合いになってしまいそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ