第20話 英語16点
私達は教室の窓からグランドを眺めていた。
「ユキちゃん、実はママに隠しておいた事があってさ」
「リコさんに? どんなことなの?」
「うん、期末テストの結果を報告してないことだよ。実はあまりにもひどくてさ、期末テストはないって事にしてあるのよ。だって5教科合わせても、200点もいってないもん。これってピンチだよね?」
つまり、5教科の平均が40点以下で、赤点ギリギリのオンパレードだ。
それを聞いたユキちゃんが唖然とした顔をする。
「えっ、200点ってことは平均40点ってことなの? さすがにリコさんもマジギレのパターンでしょ?」
「まあ、真木先生が期末テストに触れない事を祈るだけだよ。南無阿弥陀仏……」
「いや、絶対に触れるよ。だって、成績の話をしない三者面談なんてありえないよ。ちょっと、テストを見せてよ」
私はテストの結果をしぶしぶユキちゃんに見せた。そこには夜更かしをして、RPGゲームにひたすら没頭していただけで、まったく努力をしなかったクズの結果が記していた。
私はマジマジと点数を目で追った。
「よく見るとさぁ、平均40点もいってないかも……。ユキちゃん、確認頼むわ」
「トキコ、ちょい見せてみ。つきましては国語35点、数学21点、社会55点、理科32点、英語16点……。ふう、合計は159点ってとこか。ちょっと、さすがに酷すぎるんじゃないの? 前回の中間テストは250点いっていたでしょ? それでも酷いけど、今回の英語16点ってガチで笑えないけど……。これ、どうする気なの?」
「うーん、ゲームを夜通していて、まったく勉強しなかったらこうなったよ。でも、私って歴史の漫画やゲームが好きだし、その成果で社会が55点も取れているって凄くない? そう考えると、ママも他の赤点は勘弁してくれそうな気がするけどね」
ユキちゃんが溜息をつき、こちらを鋭い目で見る。
「トキコ、本当にそう思うの? だって、リコさんだよ。嘘が嫌いなのを知っているでしょ? 私は早めに謝った方がいいと思うな」
「………」
そう、ママが基本は温厚なのだが、嘘をつくと激怒してしまうのだ。昔の写真を見たけど、茶髪でルーズソックスのギャルだった。つまり、運動会や文化祭ではリーダーシップをとって、クラスを仕切るのが大好きなタイプだったに違いない。
もちろん、私のこういうタイプが大嫌いだ。私はママに怒られるとクラスのギャルと被って、本能的に萎縮してしまうのである。あのタイプは何の根拠があって、偉そうな振る舞いが出来るのだろう?
その時、教室の扉を開いた。そこには黒いパンツスーツ姿のママが立っていた。
「トキコ、ユキちゃん」
ママはそう言って、ニコリと手を振ったのだった。恥ずかしいので勘弁してくれ。
すると、ユキちゃんが頭を下げた。
「リコさん、今日も部活の指導お願いします。いつも本当に助かりますし、部員のみんなも喜んでいますよ」
その言葉を聞いたママは嬉しそうに笑顔を作って、ユキちゃんの頭をクシャクシャと撫でた。
「ユキちゃんも、お世辞なんか言えるようになっちゃって……。中身も大人な上に、将来は美人になるから、お母さんも心配いらないでしょ?」
「アハハ、ありがとうございます。でも、リコさんの方が美人ですよ」
「ウフフ、ありがとう。トキコもユキちゃんを見習って、せめてハキハキ喋るようにしなさい」
そう言いながら、こちらをジロリと見てきた。
ふん、ユキちゃんと私は違う人間だもん。それに教育テレビでもやっていたけど、他の家の子と比べるのは良くないらしい。なぜなら、劣等感で自分に自信がない子供に育つらしい。
これは事実なので、私は自信のない卑屈な笑顔を見せた。
「えへへ、ママ勘弁してよ……」
「ほら、そういう所だよ。いつも、ボソボソと喋るから聞き取りづらいのよ。パパにそっくりだよ、まったく……」
くそ、いつものパターンなら謝って終わりだ。しかし、ユキちゃんがいるので見栄を張ってママに反抗してしまった。反抗期に反抗しないと、カッコと悪いという意味不明な見栄だ。これが失敗の序章であった。




