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第18話 桜井シンジという男

しかし、その雰囲気をパパがぶっ壊してくれた。

「義兄さん、テレビをつけてもいいですか?」

「ああ、そうだな。変な話をして悪いな」

「いえ……」


パパはリモコンを握ってテレビをつけた。ちょうど、人気番組の『イワシのプライベート部屋』が放映されていた。人気芸人のイワシが司会をしており、旬の芸能人とトークする番組だ。豪華なスタジオのセットにはひな壇の芸能人が座っている。


さっそく、イワシがゲストを呼んでいた。

「さあ、イワシのプライベート部屋が今週もはじまりました。今日のゲストは桜井シンジさんです。どうぞぉー」


セットの奥から、人気俳優の桜井シンジが登場する。すると、女性の声と拍手の嵐がスタジオを包む。

「きゃあああぁー」

「シンジぃー」

「カッコいいぃー」


MCのイワシがシンジを褒める。

「めちゃめちゃ人気やん」

「いえいえ、ありがとうございます」


桜井シンジは35歳の人気俳優である。20歳の頃にモデルデビューしており、その後に俳優に転身した男だ。そして、すぐに主演でドラマデビューしたのだ。


初ドラマの平均視聴率は21パーセント超えており、若い女性のファンを瞬く間に集めた。カイトとは正反対のタイプで、細身で中性顔のイケメンって感じだ。私のクラスでもファンは多いけど、パパと同じ年齢なので恋愛対象には見えない。だけど、芸能人だけあってカッコいいとは思う。


イワシがシンジの身に着けているものに興味を示す。

「その腕時計高そうやん。なんぼしたん?」

「これはフランクミュラーの新作で、確か300万円くらいですかね?」

「おいおい、腕時計に300万ってアホやろ? ウチの事務所の売れない後輩なんて、年収が300円やで。もう死んでいるのと一緒や」


イワシのトークにスタジオが笑いに包み込まれていく。ファッション、車、趣味、恋愛、仕事の順に話が流れていく。しかし、イワシのトークはいつ見ても面白い。

「そういえば、シンジくんは車も好きなんやろ? どんな車の乗ってねん?」

「えーと、そうですね……。今はベンツのゲレンデに乗っています。カスタムしているので、値段は2000万位ですかね」

「ほう、ええ車に乗っとるやん」

「いえいえ、イワシさんには敵いませんよ」


すると、イワシは笑いながら、シンジの頭にツッコミを入れる。

「アハハ、当たり前やぁ。こっちは芸歴30年や」


最後はシンジの住んでいる高級マンションが紹介された。東京の夜景が見えるタワーマンションで、有名ブランドの家具が置いてあり、生活レベルが一般人とかけ離れていた。生き方、持ち物、人間関係の全てがキラキラして見えた。


正直、私は桜井シンジが羨ましいと思った。パパと同じ年齢なのに、300万の腕時計を身に着け、2000万円の車を乗りこなす生活がカッコイイと思った。


逆にパパは3千円の腕時計を付けて、2万円の自転車を乗り回しているのだ。同じ年齢なのに、どうしてここまで差がついてしまうのか? パパには悪いけど、私が桜井シンジの娘に生まれたら、勝ち組で楽勝な人生を送れたはずだ。こうなると、人生は生まれた家で決まるようなものだ。


テレビを見ていたカイトが呟く。

「そういえば、コイツはリコと同級生だったな」

私はお茶を噴き出した。

「ブッハッ、ゴホッ、ゴホッ……」

「もう、汚いわね。トキコ勘弁してよ」

ママはそう言うと、台所から布巾を持ってきてくれた。


私はその付近でテーブルを拭く。

「ママ、ありがとう……。いやいや、そうじゃなくて、桜井シンジと同級生だった本当なの?」

「ああ、本当の話だよ。中学の時はクラスも同じだったしね。確かにサッカー部のエースで、成績もトップクラスで女子にも人気あったよ。だから、バレンタインの時なんか凄かったよ」


そんなバカな……。こんな優良物件が近くにいたのに、なんでパパみたいな事故物件を選んだのか理解に苦しむ。ママみたいな人が老後にオレオレ詐欺に引っかかるのだろう。


そこにパパが笑顔で入ってくる。

「バレンタインチョコなら、パパもママに貰ったよ。中三の冬だったけど、手作りチョコの中にアーモンドが入っていて美味しかったよ。えへへ」

パパの話なんて、日本の政治並みにどうでもいい。それより、桜井シンジの話が聞きたい。


すると、カイトが衝撃な一言を吐き出した。

「そういえば、シンジの奴ってリコに告白したよな? 俺もその場面に出くわしたからさ、なんとなく覚えているよ。確か家の前だったっけ?」

「兄貴、昔話は勘弁してよ。アタシはちゃんと断ったし……」


私は立ち上がって大声を出した。

「ええぇえええ? なんで、なんで、もったいない。バカなの? こんな優良物件を断るなんて、ママは自殺候補生なの?」

「トキコ、なんなの自殺候補生って? まあ、当時はソフトボール部で忙しかったしね。それにシンジの奴は……」


そこで、パパがママの言葉を遮った。

「まあ、僕がママがパパに惚れちゃったからね。仕方ないよ、えへへ」

だから、パパの話なんてどうでもいいよ。


それよりも、ママがバカすぎるよ。男を見る目がなさ過ぎて可哀相なくらいだ。でも、視力は裸眼で一番上が見えるくらいなのに……。


ふと2人を見ると、ママがパパとアイコンタクトをしていた。

「まあ、テッペイの言う通りだよ。私もあの時は色々とあった夏だったからね。パパに惚れたのも事実だしね」

そう言うと、ママは少し照れた顔を見せて、パパもニヤニヤした笑顔を作る。


オエッー、この2人は気持ち悪い夫婦だ。まったく、中学生の娘の前でイチャイチャするなよ。


それにしても、今頃は桜井シンジと付き合っていれば、ママも専業主婦として楽に生活が出来たのに……。私だって桜井シンジが父親だったら、劣等感とは無縁のイージーモードの人生を送っていたかもしれない。


お小遣いだって、月に1万円は貰えそうだしね。それに、家族旅行だって、海外のハワイやグアムにでも連れて行ってくれそうだ。家だって、東京のマンションで暮らしたいよ。


ああ、過去にでも戻れたらいいのになあ……。それよりも、来週は三者面談という現実が待っている。ああ、三者面談なんてやりたくないのに……。どうせ、ママに怒られるだけなのだ。

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