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第12話 ママ登場

私はトボトボと歩いている内に家に着いた。


我が家は住宅街にある2階建ての1軒屋である。まあ、田舎によくある特徴もない家だ。元々はお婆ちゃんの家なので、オシャレな造りではない。ここにパパとママの3人で暮らしている。


窓の外からカレーの匂いがするので、今日の夕飯はカレーなのであろう。すると、しばらくはカレー地獄が続くパターンだ。それはカレーライス、カレーうどん、ドライカレーなどなどだ。ああ、憂鬱なメニューばかりだ。人生が辛いのに食べるものまで辛いとは何ってことだ。


私は玄関を開けて、靴を脱いでリビングに向かった。リビングルームはソファとテレビがあり、その奥にはキッチンと食事をとるテーブルとイスが並んでいる。


すると、キッチンで料理をしているママが声をかけて来た。

「トキコ、お帰り」

「ただいま、ママ」

「あっ、その傷はどうしたの?」

おそらく、さきほど盛大に転んだ膝の傷の事を言っているのだ。


良く見ると、膝から血が流れて靴下まで染み込んでいた。

「ああ、ちょっと転んだだけだよ。大したことないよ、大丈夫だから……」

「まったく、本当にドジだねえ。若い頃のパパそっくりだよ」

うげー、それは勘弁してくれ。パパに似ていると言われて喜ぶ娘などいないのだから……。


ママは台所のコンロを止めて、戸棚から救急箱を取り出した。

「トキコ、椅子に座りな。アタシが包帯を巻いてあげるよ」

「いいよ、自分でやるから……」

「それが出来ないから、アタシがやるのよ。さあ、早く座ってよ」

「………」


私は不貞腐れた顔で椅子に座った。正直、反抗期の全盛期なので、子供扱いされるとカチンと来るのだ。でも、口喧嘩でも腕っ節でも、勝てないのでダンマリが精一杯である。ママが包帯と消毒液を出してくれて、器用に手早く治療をしてくれた。


さすがに、看護師なので包帯の巻き方もプロなので段取りが良い。私が巻くと酔っ払いサラリーマンのネクタイのようになってしまうのだ。


私はママの顔を近くで見ると、切れ長の目がキレイだ。その目は常に自信にあふれており、ユキちゃんそっくりだ。服はユニクロのポロシャツにコットンパンツという地味なファッションだ。


しかし、モデルのように体が鞭のように引き締まっていて、スタイルの良さが服の上からでも分かる。今年で確か35歳になるが、20代後半でも十分通用するビジュアルであり、世の奥様方はさぞ羨ましいであろう。


何よりも性格が明るくて、姉御肌でみんなから好かれる女性である。だが、私はその遺伝子の1ミリも受け継ぐことはなかった。あるとしたら、女性という性別くらいだけだ。


そんな事を考えている内に、膝の包帯が巻き終わると、ママは冷蔵庫から保冷材とタオルを持ってきた。

「トキコ、これで冷やしておきな。7時くらいには夕飯にするからそれまでで大丈夫だよ。これでちゃんと冷やさないと、後で腫れてくるからね。分かった?」


言わなくても、分かっている事言われるとウザイ。私はしぶしぶと返事をした。

「はい、はい」

「返事は1回でいいの」

「はぁーい」

「伸ばさなくていいの」

「はい。これでいいでしょ?」

「まあ、いいわ。2Fにいるパパにも、7時頃に食事って言っておいてね。そうしないと、あの人は降りてこないから……」


うわ、超面倒くさい。ママが自分で言えばいいのにさぁ。今日はパパと顔を合わせる気分じゃないのにさぁ。すぐに自分の布団に入りたいのに……。うーん、聞こえなかったフリでもするか? 


それを察したママが催促をしてきた。

「トキコ、返事は?」

「分かった、分かった」


私はママから逃げるように、2階へ足音をバタバタと鳴らしながら上がっていた。この足音も反抗期の特有な行動の1つであり、私は機嫌悪いよとアピールしているのだ。こんな反抗の仕方しか出来なくて情けなくなるけどね。


もっと、カッコいい反抗期を送ってみたいものだ。例えばカッコいい彼氏と同棲したいとか、アイドルになる為に1人で上京したいとか、そういうドラマみたいな反抗期を送りたいものだ。


それはさておき、我が家の2階は3つの部屋があるのだ。1つ目は私の部屋、2つ目はパパとママの寝室、3つ目はパパの仕事場である。パパは仕事場で1日中引きこもるほど集中している場合がある。


なので、夕飯の時間を教えないと、自分から1Fへ降りてこないのだ。だから、先ほどママが時間を知らせるように言っていたのだ。おそらく本音は、2度も夕食の用意が面倒なのだと思う。


とりあえず、私はパパの部屋の扉を開いた。

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