第11話 そんな自分が大嫌いだ
私は公園の入り口からエスケープをした。
それから、いつもの閑静な住宅街のある道を通って、自分の家に向かって走り出した。すぐに体力はなくなり、ゼエゼエと息を乱しながら、汗ばんだ前髪が額に張り付くのに気がつく。
その邪魔な前髪を上げようとしたが、走りながら直そうとしたのでバランスを崩した。まるで、足が老人のように縺れて、アスファルトの道へ前のめりにバタンと倒れた。
「うぐっ……」
私は膝を擦りむいてズキズキとした痛みで目に涙が浮かんだ。そして、夏の日照りが水分を奪っていき、蝉の鳴き声が自分を笑っているように聞こえた。
どうして、私ってこんなに情けない人生を送っているのだろう? 膝も痛いけど、何よりも心が痛くて死にたい。死にたい、死にたい、死にたい……。
その心の痛みを誤魔化すために、私は中二病のごとく自虐的に笑う。
「くっくくくく、凄く痛いじゃないの……」
そして、ゾンビのように立ち上がり、心の内を叫びながら再び走り出す。
「くそったれがぁあー。どいつも、こいつもバカにしやがっえぇえー、くそ、くそ……」
この世の全ての怒りを背負った気がしていた。それから、選挙カーみたいに叫びながら走った。
しかし、持久力がないのであっけなく息が切れてしまう。
「ハアハア、いっ、息が……。くそ、どうにもならない、私みたいな人間はどうすれば……。うっう、おえっー、おえっー」
なんで、青春アニメは叫びながら走れるんだろう? こんなん無理ゲーすぎるよ、吐きそうだし……。
私はその場で四つん這いになり、道端に涎をダラーンと垂らす。涎はアスファルトに染み込んでいき、近くには蟻が一生懸命走り回っていた。私はその蟻を邪魔するために、涎を垂らしてやった。もちろん、八つ当たりだ。まったく嫌な女だよ、私は……。
それにしても、暑すぎて気持ち悪くなってきた。真夏の炎天下で叫ぶ奴は自殺志願者だ。何よりも喉がカラカラで、体中の水分がなくてミイラになりそうだ。
私は近くに自動販売がないか探した。運よく、近くに自動販売機があり、そこで水を買って地べたに座った。ママにこんなところを見られたら、みっともないって説教されてしまう。
しかし、今は緊急事態なので人の目を気にはしていなかった。私は水をゴクゴクと喉に押し込むと、落ち着いて冷静になった。自分の擦りむいた膝を見ながら、今日あった事を振り返る。
公園でユキちゃんに言われた言葉が頭をよぎる。中学時代に一生懸命になった事があるか? その言葉が頭の中でリピートされる。
結論から言うと、私は中学時代に一生懸命になった事は1度もない。なぜなら、何かに挑戦しても、失敗するイメージしか頭に浮かばないからだ。テレビに出る成功者は勝ったり、負けたりするのが人生だとか偉そうに話しているけど、私みたいに負け続ける人だっているのだ。
その経験から分かることもある。人は負け続けると、何もやる気がなくなって、最後は無気力になってく。本音は一生懸命になれるならなりたいよ。ユキちゃんみたいに正論が言えたらカッコいいよ。
でも、実力がないのに正論を言ったら、自分がカッコ悪く惨めになるだけだ。ハッキリ言って、ユキちゃんが羨ましくて仕方ない。憧れの気持ちと同時に嫉妬という醜い気持ちもあるのだ。
でも、優しいユキちゃんにはそんな事は言えないのだ。そこだけは本音で相談は出来ない。私の最後のプライドなのだから……。
他にも、後輩のエリカが言っていた言葉が頭をよぎる。ユキ先輩とトキコ先輩の最強タッグ見たいと言っていたな。まさに、私が小学校の頃に描いた漫画の内容そのものであった。
それは『ユキちゃん、甲子園に行く』のことを指す。あの漫画は私の願望であったのだ。私に運動神経があったら、ユキちゃんとバッテリーを組んで、部活の悩みなどを話し合いたかった。
それと後輩にも尊敬の念で見られたかった。高校受験だって、頭が良ければ一緒に受験勉強をして同じ高校に行ってみたいよ。ママとユキちゃんは努力すれば何とかなるって言うけど、努力してもどうにもならない人間がいるって事を知らないのだ。
だけど、それが分かっているのに、努力さえもしない自分自身に一番腹が立つのだ。だから、いつも自虐な考えしか頭に浮かばない。私は人から傷つけられるのは嫌だけど、自分で自分を傷つけることは耐えられるのだ。
でも、そんな自分が大嫌いだ。




