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何度も愛を囁いて  作者: 林田一樹
~本編~
11/11

(11)遠くない未来

お久しぶりです。

2013年に書いてたものをそのままあげました。

 寝苦しさで目を覚ました。

 汗が身体中に纏わりつき、首にべっとりと髪が張り付いていた。

 まだ夜も明けていないのだろう。部屋全体が薄暗い。

 一旦、起き上がろうとするが、起きれない。なぜなら――。

「……ん」

 後ろから真之さんに抱きしめられているからである。



 ――あれ? デジャブを感じるんだけれど。


 

 前までは束縛するようで嫌だったけれど、今はほんのりとあたたかい。

 彼はこの体勢が好きなのだろうか。

 私を逃がさないように、離さないように拘束する腕に触れる。



 ――真之さん、あなたは何もわかってない。



 私は微かに嘲笑する。

 こんなことしなくても、私はどこにも行かないのに。



 +++



 あれから彼は顔をうずめて泣いていた。

 私は何をしていいか分からなかったから、ずっと黙って彼の重みを感じていた。

「……雪乃」

 顔を上げないまま真之さんは私の名前を口にした。

 私は何も言わずに彼の背中に手を回す。

 雪乃、雪乃雪乃。

 そう言うたびに手に力を入れてくる。

「大丈夫、だから」

 首を絞められたときに、殺されると思った。もう駄目かと思った。それは誰だってそう思うだろう。

 だけど、私は。



 ――真之さんになら殺されてもいい。



 そう思ってしまった。

 こんなの絶対おかしい。

 明らかな“異常”。

 殺そうとした彼は十分狂っていると言えるのだろう。だけど、殺されるというのに恐怖や絶望感が浮かんでこなかった私は。それどころか殺されてもいいと安堵してしまった私は。



 きっと真之さん以上に狂っている。



 でも、仕方ないと思ってしまった。

 だってあの時見てしまったのだ、彼の瞳を。



 ――「結婚してくれないか?」



 そう言った時の同じ輝きを持つ瞳。だけど、あの時とは違う。

 今度こそ私は、ちゃんと見える。真之さんの瞳には、氷のような冷たさの中に温かさが潜んでいるということ。

 


 

 

 

 あの茶髪の女性のこと。原建設のこと。全部、私が知らなかったことを。

 それを私は相槌もせずに彼の話に耳を傾けていた。それで誤解をしていたに気付いた。今まで悩んでいたことが消えていったけれど、まだよく分からないことが一つだけあった。

 真之さんの腕を何とか寄せて、身体の向きを変える。そして、彼と向い合せの状態になった。

 規則正しい寝息が聞こえて来る中で、じっと彼の顔を凝視する。



 ――どうして、あたしと婚約したの?



 まだ彼は何も言っていない。

 だけど昨日で、大体は気が付いていた。

 でも、やっぱり本人の口から聞きたい。もしかしたら、昨日気づいたけどそれは私の勘違いで想いあがりなのかもしれない。考えすぎだっていうのは分かっているけれど、言葉にされないと不安で仕方がない。

 真之さんは言わない。言ってくれない。

「……好きですよ」

 殺されそうになったのに、おかしいとは思う。

 あの時の彼は異常だった、狂っていた。だけど、首を絞められたときに絶望感や彼に対する憎悪は不思議と浮かんでこなかった。つまり、私は彼になら殺されたっていいと思ったんだ。それどころか、安堵感や喜びを感じている私は彼より狂っているといえるのだろう。

「……好き」

 それでも、私はこの人が好きなんだ。

 真之さんは何も言わない。それは何だか気に食わない。

 だから、私も愛しているは言わない。好きで我慢します。そしてこの先、真之さんが愛を囁くようになったら、いつか私も言うことにする。

 でも、あの鉄仮面の真之さんが言う姿なんて、想像できない。

 私は、思わず笑みをこばした。


消化不良だと思われるかもしれませんが、これでこの話はおしまいです。

これからは、二人のペースでゆっくりと普通のカップルのように歩んでいきます。たぶん。そうだといいね。

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