表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/24

【第3話】ウキウキ美術館デート。わたくしの嫉妬相手はわたくし?

王都のメインストリートから少し外れた場所にある、白亜の美しい美術館。


本日は休日のため、わたくしたち四人は連れ立ってここを訪れていた。


クララとフェリックス様は、完全にわたくしたちのお目付け役、あるいは保護者のような顔をして後ろをついてきている。


現在開催されているのは、王国民なら誰もが胸を躍らせる特別企画「英雄の遺物展」だ。


館内には厳重なガラスケースがいくつも並び、美しく磨き上げられた武具や日用品が恭しく展示されている。


わたくしたちの少し前を歩くカミーユ様は、目をキラキラと輝かせながらガラスケースに張り付いていた。


「エリザベート、見てごらん!これは英雄ローラン様が魔竜の心臓を貫いたとされる伝説の聖槍だよ!この鋭く無骨なフォルム、一切の無駄を省いた造形……まさに質実剛健なローラン様の戦い方を体現しているね!」


カミーユ様の熱すぎる解説に、わたくしも「まあ、素晴らしいですわ」と相槌を打つ。


しかし、わたくしの脳内では、万年床に寝転がるおっさんが鼻で笑っていた。


『おかっぱ坊主のやつ、目がおかしいんじゃねえか?それは俺が山で仕留めた巨大イノシシの丸焼きを作るときに使ってた、ただの鉄串だぞ。魔竜じゃなくて豚肉を貫いたんだよ』


わたくしは顔を引き攣らせながら、必死に脳内の声を無視した。


わたくしもおっさんの声がなければ、きっと英雄の遺物に感嘆の声をあげていたに違いない。


カミーユ様は隣のケースにササッと移動し、さらに興奮した声を上げる。


「こっちはもっと凄い!魔王軍の幹部が放った禁忌の極大魔法を、弾き返したと言われる伝説の盾だ!見てよ、この丸くて平らな独特の形状を。そしてこの歪みが激戦を物語っているんだ」


フェリックス様も「おお……これがあの伝説の……!歴史の授業で習った実物をこの目で見られるとは!」と感嘆の声を漏らしている。


『だから違うって!それはただの大鍋の蓋だ!野営の時にシチューを作ってて、吹きこぼれないように重石を乗せてたからそんな形に歪んだだけだ!さっきから何を展示してるんだここは!』


おっさんの激しいツッコミが脳内に響き渡る。


「私には、ただの串と鍋の蓋にしか見えませんわ」


クララの審美眼はどうやら正確なようだ。しかし後世の歴史学者たちの捏造力と想像力には、ある意味で感服するしかない。


ガラクタ……もとい、素晴らしい遺物の数々を見て回る間、カミーユ様の口からは「ローラン様」という言葉ばかりが飛び出していた。


「ローラン様の遺物はどれも美しいね」


「ここにある武具からローラン様の息遣いを感じるよ」


「ああ、ローラン様!もしタイムスリップできるなら、あなたと共に戦いたかった!」


……。


わたくし、先程からずっとカミーユ様の隣を歩いているのに、カミーユ様の視線はガラスケースの中の遺物ばかり。


わたくしの今日のドレス、いつもより少し背伸びして大人っぽいエンジ色のフリルを選んだのに、全然気づいてくださらない。


カミーユ様が愛しているのは、わたくし?それとも、わたくしの中にいるおっさん?


なんだか急に、胸の奥がモヤモヤしてきた。


『おい小娘。お前、まさか自分自身に嫉妬してるのか?』


おっさんが呆れたような声を出した。


「違いますわ!ただ、カミーユ様がおっさんのことばかり仰るから……少し寂しいだけです!」


『中身は俺なんだから同じだろ。だいたい、俺みたいなおっさんに嫉妬してどうすんだよ。乙女心ってのはめんどくせえな』


「むさ苦しいおっさんと一緒にしないでくださいませ!乙女心は複雑なんです!」


脳内でそんな言い争いをしていると、クララが「エリザベート、なんだか顔が怖いですよ。あんなバカ王子…、げふんげふん、カミーユ殿下のことは置いといて、二人で見て回りましょうよ」と小声で耳打ちしてきた。


とりあえずクララに向け、笑顔を取り繕ったその時だった。


美術館のエントランスの方から、けたたましい破壊音が響き渡った。


ガシャァァァァァン!!


「動くな!この美術館の遺物は、我々『黒の牙』がすべていただく!」


黒い覆面を被り、剣や杖を持った十人ほどの武装集団が、ズカズカと館内に押し入ってきたのだ。


周囲の客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、強盗団のリーダーらしき大男が、カミーユ様が先程まで熱心に見つめていた聖槍(ただの鉄串)のケースに鈍器を振り下ろした。


ガシャーンという音と共にガラスが砕け散る。


「ふはは!これが伝説の聖槍か!裏ルートに流せば高く売れそうだぜ!」


大男が下品な笑い声を上げながら、カミーユ様の憧れの遺物を鷲掴みにした。


「き、貴様ら!王国の至宝になんてことを!」


フェリックス様が腰の剣に手をかけ、騎士見習いとして前に出ようとした。


しかし、それよりも早く動いた者がいた。


わたくしだ。


せっかくの休日のデート。カミーユ様とのお揃いの時間を楽しみにしていたのに。


ただでさえローランのおっさんしか頭にないカミーユ様にモヤモヤしていたのに、こんな下品な輩にその時間を台無しにされるなんて、絶対に許せない。


わたくしはドレスの裾を翻し、強盗団のリーダーの目の前にスッと立ち塞がった。


そして脳内の扉をノックしておっさんを呼んだ。


「ねぇ、あの銅像をぶっ飛ばした時と同じようにするにはどうすればいいの?」


『お前、まだ感覚を自分のものにしてないのか?』


「当たり前ですわ! あれ以来一度も戦ったりしてませんもの!」


『しかたねぇ、少し手伝ってやる』


万年床から起き上がったおっさんの声と共に、わたくしの身体の奥底で眠っていた膨大な魔力がカッと熱を帯びた。


『魔力はただ流しゃいいってもんじゃねえ。右腕の筋肉の繊維一本一本に流し込んで圧縮し、一気に拳で爆発させるイメージだ。踏み込みのタイミングと重心移動は俺が合わせてやる。そのまま真っ直ぐ打ち抜け!』


「わかりましたわ!」


わたくしの目の前では、強盗団のリーダーが下品な笑いを浮かべて聖槍(ただの鉄串)を振り上げていた。


「なんだこのピンク頭の小娘は! 怪我したくなかったら、すっこんでろ!こっちには聖槍(ただの鉄串)があるんだぞ!」


「すっこむのは貴方たちの方ですわ!」


おっさんの完璧な指南による、一切の無駄を省いたえげつないほど実戦的なフットワーク。わたくしは一瞬で大男の懐に潜り込むと、圧縮した魔力を右拳に集束させた。


「エリザベート、気をつけて!」


カミーユ様が見ている!力任せに殴るだけでは、ただの凶悪な暴力になってしまう。わたくしは可憐な乙女。少しでも可愛く見せるために、咄嗟に思いついたラブリーな技名を声高らかに叫んだ。


「くらえ、乙女の嫉妬心! 『絶対可憐・桃色乙女粉砕拳スーパー・ラブリー・ピンク・ストライク』ですわーっ!!」


ドゴォォォォン!!


凶悪な爆発音と共に、わたくしの小さな拳が大男の腹部にめり込んだ。


「げぼぁっ!?」


リーダーの大男はくの字に折れ曲がり、後ろにいた手下たちごとボウリングのピンのように吹き飛んでいった。彼らはそのまま美術館の分厚い壁に激突し、白目を剥いて一撃で気絶してしまった。


奪われそうになっていた聖槍(ただの鉄串)が、カランカランと床に転がる。


静まり返る館内。クララとフェリックス様が「えっ、今のは一体……」「エリザベート嬢の一撃で大の男たちが……?」と完全に言葉を失っている。


しまった! いくらなんでもやりすぎましたわ!


わたくしは慌てて乙女のモードに切り替えると、その場にぺたんと座り込み、両手で顔を覆った。


「あーん、怖かったですわー! それに、叩いたお手々がじんじんと痛いですわー!」


「エリザベート! 大丈夫かい!?」


先程まで遺物に夢中だったカミーユ様が、気絶した強盗団や床に転がる聖槍(ただの鉄串)には目もくれず、血相を変えて飛んできた。


「ああ、なんてことだ! 君の白魚のような可憐な手が、こんなに赤くなってしまっている!」


カミーユ様はわたくしの右手を優しく包み込むと、制服のポケットから素早く小さな小瓶を取り出した。


「この前徹夜で調合した、カモミールとローズエキスの特製アロマハンドクリームだよ。炎症を抑えつつ、肌のキメを整える効果があるんだ。さあ、僕がしっかりマッサージしてあげるからね」


「まあ、カミーユ様……。とってもいい香りで、痛みが引いていきますわ」


やりましたわ!強さと、か弱さのギャップを上手く演出できたようですわ。


わたくしたちは倒れた強盗団の横で、周囲の視線も気にせず、完璧な女子力によるアフターケアという名のいちゃいちゃ空間に突入した。


カミーユ様の瞳には、もうわたくししか映っていない。モヤモヤしていた嫉妬心はすっかり消え去り、わたくしは幸せを噛み締めていた。


しかし、脳内では。


『お前ら、いちゃつくのはいいが……。まぁ、それより今後危険が迫った時のために、ちゃんと力を扱えるようにしておく必要があるな。近いうちに基礎からみっちり修行してやるから覚悟しておけ』


おっさんの呆れたような声が響く。次なる特訓の予感に、わたくしは内心で少しだけ顔を引き攣らせた。


そしておっさんは、床に転がった自分の使っていたただの鉄串(聖槍)と、鍋のフタ(伝説の盾)を窓から見下ろし、深く長いため息をついてこう呟いた。


『あーあ……どうせなら、こんな恥ずかしいガラクタ、全部あいつらに持って行ってほしかったぜ……』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ