【第11話】ドキドキ!嬉し恥ずかし宝探し
待ちに待った夏休みのバカンス。
今日はいつものメンバーに超有能メイドのクロエを加え、海へと遊びにきた。
さすがは王家所有のプライベートビーチ。どこまでも続く真っ白な砂浜と、エメラルドグリーンに澄んだ水がこの上なく美しい。
わたくしはクロエと一緒に選んだ、ピンクのフリルがたくさんついたビキニ姿で登場した。自分で言うのもなんだが、美少女の可愛らしさが限界突破している。そう、限界突破しているのだ。
一方のカミーユ様は、水着の上にラッシュガードとハーフパンツを着用している。しかし、それはただの水着ではない。上下で絵柄が完全につながった、特注のローラン仕様であった。
美化された八頭身のローラン様が海辺で仁王立ちしており、胸元には『のどが乾いても海水は飲むな!』という名言(?)がデカデカとプリントされている。
『だから情報は正しいけど、俺が名言みたいに言ったことにするのやめてくれ!』
脳内の師匠のツッコミは今日もキレキレだ。
クララは大人っぽい白いビキニ姿。明らかなスタイルの差がちょっとだけくやしい。
フェリックス様は生真面目な彼らしい、シンプルなグレーのハーフパンツだ。
そしてクロエは、機能性重視のネイビーのワンピース型水着に、なぜか「クロエ」と書かれた巨大な名札を胸元に縫い付けていた。迷子防止だろうか。
「いいお天気でよかったですわね」
「エリザベート、日焼けしたら大変だ。僕が徹夜で調合した特製の日焼け止めを塗ってあげよう」
カミーユ様が小瓶を取り出し、わたくしの腕や肩にプロ顔負けの滑らかな手つきで日焼け止めを塗ってくださる。
ああ……合法的に、しかも水着姿でスキンシップができるなんて!やっぱり海は最高ですわ!
「今日はちょっとした宝探しをしようと思うんだ」
カミーユ様が唐突に切り出し、一枚の古びた羊皮紙を取り出した。
「宝探しですの?」
「うん。これは最近、王宮の書庫の奥から見つかった、この近くにある海底洞窟の地図らしいんだ。数代前の王様が、子どもの頃に洞窟内に何かを隠したという記録が残っていてね。これをみんなで探しにいかないかい?」
「まあ、おもしろそうですわね!」
「でも殿下、どうやって海の中の洞窟へ潜るのですか?息が持ちませんよ」
フェリックス様が当然の疑問を口にする。
「こっちへおいで、こうするのさ」
カミーユ様がわたくしの手を取り、海へと一歩踏み出した。膝まで水に浸かった状態から、カミーユ様が指を鳴らすと、足元から海水が球状にスゥーッとよけていく。
「こうやって水流操作の魔法で空気の球を作り、その中に包まれた状態で海に潜るのさ。エリザベートは魔法が使えないから、僕にぴったり引っ付いていればいいよ」
ひひひひひひ、引っ付いて!?こんなにも布の面積が少ない状態で!?ああ、神様、この素晴らしい機会を与えてくださりありがとうございます。
「いってらっしゃいませ」
砂浜でクロエに見送られ、わたくしたち四人は一つの大きな空気の球に包まれた状態で海へと潜っていった。
海の中は驚くほど透明度が高く、色とりどりの魚や美しいサンゴが幻想的に広がっていた。しかし、わたくしの視界にはカミーユ様の胸板しか入っておらず、抱きしめたカミーユ様の腕の温もりに全神経を集中させていた。
「どうやらあれみたいだね」
カミーユ様の声に顔を上げると、海底の岩肌にポッカリと口をあけた海底洞窟の入口があった。
洞窟を少し進むと、水がなくなり空気の層が現れた。
「ここからは歩けそうだ。壁に自生している発光苔のおかげで、意外と明るいね」
カミーユ様が空気の球を解除する。残念、最高のくっつきタイムは終了ですわ。
わたくしたちは薄暗い洞窟の中を慎重に進み始めた。
カサカサカサ……。
その時、静かな洞窟内に乾いたような足音が響いた。
「え?……きゃーーーーっ!!」
普段は冷静なクララが、突然パニックを起こして悲鳴を上げた。
彼女の視線の先には、マクラぐらいの大きさがある巨大な虫が何十匹もひしめき合っていたのだ。
「な、なんでこんなところに巨大なゴキブリがいるのよー!」
カミーユ様はその内の一匹を両手でガシっと掴み上げ、「ははは。これはゴキブリじゃなくてフナムシだよ、クララ」と爽やかな笑顔で、じりじりとクララに歩み寄っていく。
「コラテメー!B面(お腹側)見せてんじゃねーよ!こっちくんなっ!!」
クララが杖を振り回し、威嚇の氷魔法を放つと、巨大フナムシたちは蜘蛛の子を散らすようにサササッと壁の隙間へ逃げていった。
「おどかしたら可哀想じゃないか。ほら、君も仲間たちのところへお戻り……」
カミーユ様が優しくフナムシを逃がしてやる。これが可愛い小鳥とかだったら感動的なシーンに見えるのだろうが、絵面が地獄すぎる。
『うーん、ちょっと気になるな……』
「何がですか師匠?」
『フナムシのあのデカさだ。いくら魔力溜まりの洞窟とはいえ、あんなサイズは俺の時代でも見たことがないぞ。ここは独自の生態系が形成されているのかもしれん。まぁ、進んで見ればわかるだろうが、警戒を怠るな』
わたくしたちは洞窟の奥へと進んだ。途中、荷車ほどもある巨大な巻貝や、人間サイズのヤドカリを見かけたが、それ以外は特に危険な異変は無かった。
しばらく進むと、開けた巨大な空間に出た。そこには静かな地底湖が広がっていた。水面が微かに揺れていることから、ここからまた別の水脈で海につながっているのだろう。
上を見上げると、高い天井の岩の割れ目から、ほんの少し太陽の光が差し込んでいる。
「なるほど、あの亀裂は地上につながっているみたいですね。あそこから空気が入って来ているため、息ができるのでしょう」
フェリックス様が周囲を見渡し、素早く分析する。
「あ、カミーユ様!あそこに箱が置いてありますわ!」
開けた空間の地底湖の手前、少し高くなった岩場に、古びた立派な箱が誰かを待つようにポツンと置いてあった。
「みんな、きっとあれが地図にあった王家の宝だ!」
カミーユ様に促され、わたくしたち四人は箱の前に並んだ。
「鍵はかかってないみたいだ。……開けるよ……」
カミーユ様が緊張した面持ちで、そっと宝箱の蓋をあけた。
宝箱の中を見た瞬間、カミーユ様の目がこれ以上ないほどキラキラと輝き出した。
「こ、これは……す、すばらしい!これぞ、まごう事なき王家の秘宝だ!」
しかし、カミーユ様のテンションとは裏腹に、わたくしたち三人は完全に冷え切った眼差しで宝箱の中を眺めていた。
そこにあったのは、金銀財宝や伝説の武具などではなく、百年以上前に作られたと思われる「ローラン様グッズの詰め合わせ」だったのだ。
今ほどは中性的に美化されてはいないようだが、それでもかなりダンディーなイケメンに仕上がっている肖像画や、木彫りのフィギュアなどが入っている。
「師匠……こんな前からすでにグッズ展開されていたみたいですね」
『やめろ!やめてくれ!俺には何も見えない!何も聞こえない!』
脳内のおっさんが布団の上で頭を抱え、のたうち回っている。それにしても、数代前の王様(ご先祖様)も筋金入りのローランマニアだったとは。王家の血は争えないものだ。
その時だった。
背後の地底湖の中から、ボコボコと不気味な泡が浮かび上がってきた。
ザザアァァァァァ……。
滝のような水音と共に姿を現したのは、家が数軒すっぽり入るほど巨大なイカ……いや、タコだろうか?無数の巨大な触手がうねっている。ちょっと美味そうですわ、こいつ。
「ししょー、あれはイカですか?タコですか?」
『どっちかは知らんが、こいつは魔獣クラーケンだ!ここは危険だ、とにかく早く逃げろ!』
「ワンパンでぶっ飛ばせばいいんじゃないですか?」
『バカ!こんな閉鎖空間で全力でぶっ飛ばしてみろ、衝撃で洞窟が崩落してあいつらが下敷きになるぞ!』
たしかに、わたくしの拳は地形すら変えてしまう。それは大変だ。
クラーケンが巨大な触手をムチのように振り回し、わたくしたちに向かって襲いかかってきた。
「みなさん、ここは逃げましょう!」
「ああっ、僕のローラン様グッズが!」
逃げ遅れそうになったカミーユ様を見て、わたくしは瞬時に動いた。
わたくしはカミーユ様を小脇に抱え上げ、もう片方の手で宝箱を出前のように高く持ち上げた。
「みなさん、逃げますわよ!」
わたくしはそのままの体勢で、猛ダッシュで洞窟の入口まで引き返した。
どうやらクラーケンは地底湖から出られないのか、追っては来ないようだ。
こうしてわたくしたちは、無事にお宝(?)をゲットし、地上へと戻ることに成功したのだった。




