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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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9/23

9話

九条と遭遇してから三日。

大きな事件は起きていなかった。

だが、だからといって平和というわけでもない。


「近い」


「そうか」


「近いんだって」


神谷恒一は机に突っ伏した。

最近このやり取りばかりしている気がする。


隣を見ると暁がいる、いつも通り。

だが少しだけ違った。


以前の暁は、必要だから近くにいた。

契約のため、安定のため合理的な理由があった。

しかし最近は理由が曖昧になっている。


例えば今。


昼休み、教室。

特に何も起きていない。

なのに暁は恒一の隣にいる。


「何してるんだ」


「観察」


「何を」


「恒一」


「なんで」


「……」


暁は少し考えた。

そして。


「分からない」


と答えた。



その様子を少し離れた場所から見ている人物がいた。

霧島彩音である。


「やっぱり変わってきてるなぁ……」


小さく呟く。

氷室が隣で聞き返した。


「何がだ」


「暁さん」


彩音は視線を向ける。


「前は契約者として見てた」


「今は違う気がする」


氷室も二人を見る。


数秒。


そして。


「気のせいじゃないか」


と答えた。

だがその声には自信がなかった。



放課後。

今日は珍しく協会からの呼び出しもない。

鬼塚もまだ療養中。


久しぶりに平和だった。


帰り道、夕焼け。

二人で歩く。


「なあ」


恒一が言う。


「なんだ」


「九条のこと」


暁が少しだけ視線を向ける。


「何か思い出したか?」


数秒、沈黙。

そして。


「少し」


予想外の返事だった。


「本当か?」


「断片だけ」


暁は空を見る。


「戦った」


「誰と?」


「多分」


言葉が止まる。

頭痛でもするように眉をひそめる。


「思い出せない」


それ以上は出てこなかった。



帰宅後、夕食。

テレビではニュースが流れている。


街の再開発、芸能人、天気予報。

平和な内容だ。


鬼も妖怪も出てこない。

それが普通だった。


「不思議だな」


恒一が呟く。


「何が」


「世界」


暁が首を傾げる。


「妖怪とか鬼とかいるのに」


「みんな普通に生きてる」


少し考える。

そして暁は言った。


「それが人間だからではないか」


「らしくないこと言うな」


「そうか?」


「そうだよ」



夜。

恒一は部屋で宿題をしていた。

時計を見る。


十一時。


そろそろ寝る時間だ。

ふと違和感を覚える。

静かすぎる。


「暁?」


返事がない。

リビングへ向かう、いない。

キッチン、いない。

風呂場、いない。


「……どこ行った?」


珍しい。

今まで勝手に出歩くことなどなかった。



玄関を出る。


夜風が吹く。

住宅街は静かだ。


数分ほど探していると近所の公園に人影を見つけた。


ベンチ、月明かり。

そこに暁が座っていた。


一人で。


「何してるんだ」


声をかける。

暁が振り返った。

そしてほんの少しだけ目を見開く。


「恒一」


「探したぞ」


「そうか」


いつもならそれで終わる。

だが今日は違った。



暁は少し黙る。

そしてぽつりと呟いた。


「目が覚めた」


「?」


「お前がいなかった」


恒一は首を傾げる。

意味が分からない。


「それで」


「……」


言葉が続かない。

暁自身も整理できていないようだった。


数秒後。


ようやく口を開く。


「少し気になった」


静寂。

夜風が吹く。


恒一は思わず固まった。

今の言葉、本当に暁が言ったのか?


「気になった?」


聞き返す。


「そうだ」


「俺が?」


「多分」


曖昧だった。

だが確かだった。

以前の暁ならそんなことは言わない。

契約者だから必要だから。

そう説明したはずだ。


しかし今は理由を説明できていない。


「帰るか」


恒一が言う。

暁は小さく頷いた。


立ち上がる。

そして歩き出そうとして少しだけ止まった。


「どうした」


「……」


暁は数秒考える。

それから恒一の制服の袖を軽く掴んだ。


本当に軽く。

引き留めるように確認するように。


「暁?」


「いや」


彼女は首を振る。

だが手は離さなかった。


「この方が分かりやすい」


何がとは言わない。

言えないのかもしれない。



帰り道。

月が出ていた。

二人並んで歩く。


暁の手はいつの間にか離れていた。

だが距離はいつもより近い。


ほんの少しだけ恒一は気づいていなかった。

そして暁自身も理解していなかった。


契約の影響。

安定のためそんな理屈ではなく。

ただ一緒にいたいと思い始めていることを。

もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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