89話
翌朝。
いつもと変わらない朝だった。
恒一が目を覚ます。
暁はいつものように抱きついている。
「暁、朝だぞ」
「……あと少し」
「学校遅れるぞ」
「あと少しだけ」
珍しく素直に甘えている。
恒一は苦笑した。
「五分だけな」
「うん」
暁は嬉しそうに目を閉じる。
五分後。
「起きろ」
「……もう?」
「もうだ」
渋々起きる。
朝食を食べて学校へ向かう。
いつもと同じ。
ただ暁は今日、妙に静かだった。
「どうした?」
「何でもない」
「またそれか」
暁は少しだけ恒一を見る。
そしてすぐに目を逸らす。
昨夜。
決めたのだ。
今日こそ言う。
好きだと。
今までずっと怖くて言えなかった。
でももう逃げたくない。
放課後。
二人はいつものように帰宅する。
夕飯を食べ風呂に入り。
そして夜。
いつものベッド。
二人で横になる。
恒一が灯りを消す。
暁はいつものように近付く。
ぎゅっ。
抱きつく。
「……」
「どうした?」
恒一が聞く。
「少し話したい」
「いいぞ」
暁はしばらく黙っていた。
心臓がうるさい。
「恒一」
「ん?」
「私は……」
言葉が止まる。
「……」
恒一は急かさない。
ただ待っている。
暁はぎゅっと服を握る。
「私は、お前のことが……」
その瞬間、窓の外。
ドンッ!!
凄まじい衝撃音。
家全体が揺れる。
「!」
恒一が飛び起きる。
暁も一瞬で戦闘態勢に入る。
「妖気……!」
外。
街灯が一斉に消える。
暗闇の中、無数の気配。
恒一が窓を見る。
「夜行衆か?」
「違う」
暁の表情が険しくなる。
「もっと多い」
家の周囲を大量の妖が取り囲んでいた。
その中心。
黒い影が一つ。
ゆっくり歩いてくる。
「ようやく見つけた」
黒峰だった。
恒一が立ち上がる。
「お前……!」
黒峰は笑う。
「白鬼」
暁を見る。
「そして契約者」
黒峰の視線が二人の間を行き来する。
「その契約を渡してもらう」
「断る」
暁が即答する。
「ならば」
黒峰が手を上げる。
周囲の妖が一斉に動き出す。
「力ずくで奪う」
暁の妖気が爆発する。
「恒一」
「分かってる」
二人が並ぶ。
だが黒峰は笑っていた。
「そうだ」
「その距離だ」
「……?」
黒峰が指を鳴らす。
二人の足元に巨大な術式が浮かび上がる。
「お前たちが離れられないほど」
「契約は完成する」
暁が目を見開く。
「まさか……」
黒峰は笑う。
「その契約そのものを利用する」
恒一が暁を見る。
暁も恒一を見る。
そして。
「絶対に離れるな」
恒一が言う。
「うん」
暁が頷く。
その手を強く握る。
そして。
「私は……」
戦いの中でも暁は言おうとする。
「恒一のことが――」
その瞬間。
黒峰の術式が発動した。
二人の契約が強烈な光を放つ。
「っ……!」
「暁!」
二人の周囲を巨大な結界が包み込む。
黒峰が笑う。
「さあ」
「契約を完成させよう」
暁は恒一の手を離さなかった。
何が起きても。
絶対にそして胸の中に残った言葉。
「好きだから」
その言葉だけは絶対に消さないと決めた。
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