87話
その頃。街の外れにある廃ビル。
暗い部屋の中。
黒峰は一人、古びた巻物を広げていた。
「白鬼と契約者……」
巻物に描かれているのは。
暁と恒一。
二人の間に結ばれた契約。
その周囲にはいくつもの古い文字が並んでいた。
「やはり間違いない」
黒峰は笑う。
「この契約は、ただの主従契約ではない」
本来。
契約者と妖怪の契約は妖怪が力を貸し。
契約者がそれを制御するもの。
だが恒一と暁の契約は違う。
互いの感情。
互いの生命力。
そして互いの力まで繋がっている。
「異常な契約だ」
黒峰が指で文字をなぞる。
「白鬼の力を最大まで引き出すには、契約者との繋がりが必要になる」
つまり二人の関係が深くなるほど、暁の力も強くなる。
「ならば」
黒峰が立ち上がる。
「二人を引き離す必要はない」
その目が鋭くなる。
「逆だ」
「契約を完全なものにする」
黒峰が狙っているのは。
暁の力そのものではなかった。
二人の間にある。
契約そのもの。
それを利用すれば白鬼の力を自在に引き出せる。
「もうすぐだ」
黒峰は窓の外を見る。
「次の夜に仕掛ける」
一方、恒一の家。
「……」
暁は何となく嫌な気配を感じていた。
夕飯を食べ終え恒一とリビングで過ごしている。
テレビを見ながら、いつものように隣に座っている。
「暁」
「何だ」
「今日、静かだな」
「少し嫌な感じがする」
恒一の表情が変わる。
「敵か?」
「まだ分からない」
暁は目を閉じる。
微かに遠くから妖気を感じる。
だがすぐに消えた。
「……気のせいかもしれない」
「そうか」
夜。
いつもの時間。
二人はベッドへ入る。
暁はいつものように恒一へ抱きつく。
「今日は離れない」
「いつも離れてないだろ」
「今日は特に」
ぎゅっ。
恒一は苦笑する。
「分かった」
そのまま暁の頭を撫でる。
「安心して寝ろ」
「……うん」
暁は目を閉じる。
だがその時、契約の紋様がほんの一瞬だけ光った。
恒一は気付かなかった。
暁も眠りかけていて気付かない。
遠く。
廃ビルの中。
黒峰が目を開ける。
「……反応した」
契約の力が確かに動いた。
黒峰は笑う。
「もうすぐだ」
その夜
何も知らない二人はいつも通り同じベッドで眠っていた。
しかし二人の日常に再び大きな影が近付いていた。
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