84話
数日後。
放課後。
恒一に協会から連絡が入った。
「今日、少し遅くなる」
「どれくらい?」
「二、三時間くらいだと思う」
暁は少し黙った。
「……分かった」
いつもなら一緒に帰る時間。
今日は一人になる。
それだけだった。
「先に帰ってていいぞ」
「うん」
恒一と別れる。
暁は一人で帰宅した。
家の中ら静かだった。
いつもなら玄関を開ければ恒一がいる。
リビングに行けば恒一がいる。
夕飯を食べる時も隣にいる。
夜になれば同じベッドで眠る。
それが当たり前になっていた。
「……静かだな」
ソファに座る。
テレビをつける。
面白くない。
本を読む。
集中できない。
時計を見る。
まだ一時間しか経っていない。
「……」
暁は少しだけ眉を寄せた。
寂しい。
その感情を自覚して少し驚いた。
以前なら、一人でいることなんて何とも思わなかった。
むしろ一人の方が楽だった。
でも今は違う。
恒一がいないだけでこんなにも静かに感じる。
夜。
ようやく玄関の音がした。
「ただいま」
「……!」
暁はすぐに玄関へ向かった。
「おかえり」
恒一が少し驚く。
「早かったな」
「待ってた」
「そうか」
恒一が靴を脱ぐ。
そのままリビングへ向かおうとした。
すると暁が袖を掴む。
「どうした?」
「……別に」
離さない。
恒一は少し笑った。
「寂しかった?」
暁が固まる。
図星だった。
「……少し」
小さな声。
恒一は何も言わず暁の頭を撫でた。
「悪かったな」
「謝らなくていい」
「でも」
「帰ってきたから」
暁はそれだけ言った。
それで十分だった。
夕飯を食べる。
いつものように二人で暁はいつも以上に恒一の近くに座っている。
食事が終わっても離れない。
風呂から出てもソファで隣に座る。
恒一が本を読んでいる間もずっと隣。
「今日は特に近いな」
「……寂しかったから」
珍しく素直だった。
恒一は少しだけ笑った。
「そっか」
いつものベッド。
灯りを消す。
暁はすぐに恒一へ抱きついた。
ぎゅっ。
今日はいつもより強い。
「……」
恒一は何も言わない。
暁も何も言わない。
しばらくして。
「恒一」
「ん?」
「明日は?」
「明日?」
「一緒に帰れる?」
「もちろん」
その答えを聞いて暁は安心した。
「ならいい」
そしてさらに近付く。
恒一の胸元に顔を埋める。
「おやすみ」
「おやすみ」
暁は目を閉じる。
今日はもう寂しくない。
好きな人が隣にいる。
それだけで十分だった。
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