80話
夜。
暁は眠れなかった。
理由は単純だった。
数時間前、雪華に言ってしまった。
「好きだから」
恒一のことが好きだと、本人の目の前で。
正確には恒一も近くにいた。
気付かれていない。
たぶん。
きっと。
「……」
暁は布団の中で目を開ける。
隣、恒一はまだ起きていた。
スマホを見ている。
「眠れないのか」
「少し」
「珍しいな」
理由を言えるわけがない。
「色々考えてる」
「そうか」
それ以上。
恒一は聞かなかった。
暁は横を見る。
好きな人、毎日一緒にいる。
一緒に学校へ行く。
一緒に帰る。
同じ家に住んでいる。
そして同じベッドで寝ている。
……冷静に考えると恋人でもおかしくない。
「暁?」
「何だ」
「さっきから見てないか」
「見てない」
見ていた。
即答だった。
恒一は少し笑う。
「変なやつ」
「恒一に言われたくない」
そんな会話をして、少しだけ気持ちが落ち着いた。
しばらくして恒一が先に眠る。
静かな寝息。
暁はそれを聞きながら、いつものように抱きついた。
ぎゅっ。
「……」
今日は少しだけ強く。
恒一はもう抵抗しない。
最近では完全に慣れている。
暁も安心する。
そしていつの間にか眠っていた。
深夜。
「……すき」
小さな声。
寝言だった。
恒一が目を開ける。
「ん?」
暁は眠っている。
抱きついたまま恒一の服を掴んで。
そして。
「恒一……」
今度ははっきり名前を呼んだ。
恒一が固まる。
「……」
寝言。
そう思った。
だが次の言葉。
「好きだから……」
心臓が止まりそうになる。
「……え?」
恒一は完全に目が覚めた。
隣を見る。
暁は熟睡している。
起きる気配はない。
「今……」
聞き間違いか。
そう思いたかった。
しかし数秒後。
暁が少しだけ顔を寄せる。
そして。
「行かないで……」
と呟いた。
恒一は何も言えなかった。
暁の表情。
少し不安そう。
いつもの強い暁ではない。
それを見て、恒一はそっと頭を撫でた。
すると暁の表情が少しだけ落ち着く。
「……」
恒一は眠れなくなった。
さっきの言葉、聞き間違いなのか。
それとも本当に考え始める。
最近の行動。
抱きついて寝る。
学校でもいつも隣。
腕を掴む。
他の女子が近付くとなぜか間に入る。
思い返せば分かりやすすぎた。
「まさか……」
小さく呟く。
その隣、暁は何も知らずに眠っている。
そしてさらにぎゅっと抱きついてきた。
恒一は天井を見る。
眠れない。
完全に眠れなくなった。
翌朝。
暁が目を覚ます。
「おはよう」
「お、おう」
恒一の反応がおかしい。
「?」
暁は首を傾げる。
「どうした」
「いや」
言えない。
寝言で好きと言っていた。
そんなこと言えるわけがない。
一方暁も違和感があった。
恒一が少し自分を見る。
何か気付かれているような嫌な予感。
「……何かあったか」
「何もない」
即答だった。
二人とも何もないわけがなかった。
そして暁はまだ知らない。
昨夜、自分が一番知られたくなかった気持ちを、寝言で全部漏らしていたことを。




