78話
休日、昼過ぎ。
恒一はリビングで本を読んでいた。
暁はその隣でソファに座っている。
距離は近い。
最近では完全に定位置だった。
テレビもついていない。
静かな休日。
その時だった。
ピンポーンとインターホンが鳴る。
「誰だ」
恒一が立ち上がる。
暁も反応した。
嫌な予感がしたからだ。
玄関へ向かう。
ドアを開ける。
そこにいたのは雪華だった。
「……」
「……」
数秒。
沈黙。
そして恒一が言った。
「何しに来た」
当然の質問だった。
敵である。
少なくとも今までは。
雪華は恒一を見た。
それから暁を見る。
そして会いに来たと言った。
暁が少し眉をひそめる。
「帰れ」
即答だった。
しかし雪華は動じない。
「今日は戦いじゃない」
本当らしい。
殺気もない。
妖気も抑えている。
ただ立っているだけだった。
リビング。
結局、雪華は家に上がっていた。
恒一は頭を抱えた。
なぜ敵が家にいるのか。
意味が分からない。
しかも雪華は暁を見ている。
ずっと。
「何だ」
暁が言う。
「変わった」
雪華が答える。
短い言葉だがそこには色々な感情が混ざっていた。
昔を知っているからこその言葉。
「前より弱くなったと思った」
雪華が続ける。
「でも違った」
「……」
「前より強い」
暁は黙る。
恒一も黙る。
雪華は小さく息を吐いた。
「昔のお前は何も持っていなかった」
「持つ気もなかった」
それは事実だった。
人間も妖怪もどうでもよかった。
一人で十分だった。
だが今は違う。
雪華の視線が恒一へ向く。
「原因はこれ」
「物扱いするな」
恒一が即座に突っ込んだ。
雪華は少しだけ首を傾げる。
そして珍しく小さく笑った。
「なるほど」
何か納得したらしい。
その後、三人でお茶を飲むという意味不明な時間が流れた。
敵とはいったい何なのだろう。
夕方、雪華が帰る時間になった。
玄関で靴を履く。
その時、雪華が振り返った。
「白鬼」
「何だ」
「一つ聞く」
暁を見る。
まっすぐ。
そして。
「なぜそこまで人間に執着する」
静かな質問だった。
恒一も少し驚く。
確かに、昔の暁を知る雪華なら気になるだろう。
以前なら考えられない。
暁は少し黙った。
答えはある、ちゃんとある。
でも口にするのは少し恥ずかしい。
だから少しだけ視線を逸らして。
「……別に」
と言った。
嘘だった。
完全な嘘だった。
雪華は見抜いている。
だから小さく笑った。
「そう」
それだけ言って家を出ていった。
静かになった玄関。
恒一が言う。
「何だったんだ」
「分からない」
暁も本当に分からなかった。
ただ最後の質問だけは頭に残る。
なぜそこまで執着するのか。
答えは簡単だった。
好きだから。
でもまだ雪華には言えなかった。
夜。
寝室。
いつものベッド。
いつもの距離。
ぎゅっと抱きつく。
もはや反射だった。
「今日も来たな」
恒一が呟く。
「行く」
「知ってる」
最近では受け入れられている。
暁は少し安心した。
目を閉じる。
そして雪華の質問を思い出す。
なぜそこまで執着するのか。
答えは分かっている。
分かっているからこそ、少しだけ顔が熱くなった。
「……」
告白…その言葉が頭をよぎる。
だがまだ勇気は出なかった。
だから今は好きな人の隣で眠る。
それだけで十分だった。
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




